2話
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お茶飲むところと言われても場所が特定できないから心配だったが杞憂だったようだ。
駅の無駄に広い改札口のすぐ横に建てられたスターゴーズコーヒー。通称スタゴ。スタゴは店自体が小さいため席も少なく、そこでお茶を楽しむことはほとんどできない。人気の激狭店とかいうやつだろうか。
……違うか。
「おぉ!やっときたか!久しぶりだなぁ!」
スタゴのアンティーク調のドアを開くと、ポローンと甲高い入店音が出迎えてくれるが、音が高すぎて耳が痛い。正直やめて欲しい。
え?康治の声がきこえなかったかって?聞こえてない聞こえてない。ゼンゼンキコエテナイデスヨー
「ったく、なんですか。急に。要件を早く済ませてさっさと帰りたいんですが。」
「……。」
お?この程度で凹んでるのか?まぁ、私もこの手のものは慣れているからな。対処の仕方もわかって……
「冷たいな!」
なかった。
とびきりの笑顔をみせてきやがった。なんだこいつは。それとお前、コーヒーを音を立ててすするな。やかましい。
「……。」
どうしたんだこいつは。取り憑かれたように自らの右手で持っているカップを見つめている。
「ここのコーヒーうまいな!」
「うるせぇ!早く要件を言え!」
「……とまぁこんな感じだ。ってあれ?寝たのか?店の中だぞ?」
「寝てねぇ、話長すぎだお前。」
ただでさえ学校ではいい子ぶって疲れてんのにこんな長話聞いてたらぐったりするわ。
「要するにお前が中二病だってことだろ?ふざけんな。記憶消すぞ。」
話というのはこいつのクオリティの低い中二病よろしくの妄想らしいものだった。内容は……控えておくか。なんかこう。心が痛む。
「違う!何を聞いていたんだ!あと記憶消すのはやめて!?」
は?この世界には異能力者が四人いて、その四人のうちの一人が近所にいて、これから戦うーなんて話のどこが中二病じゃないっていうんだ!弁解の余地はないぞ。...あ、口が滑った。って心の中だから誰にも聞かれてないか。
「わかったから。記憶は消さないからその減らず口を閉じろ。そして必要最低限のことだけをボリュームをさげて言え。」
「それが現実の話だったらどうする。」
そうだ、その小さい声で喋れ。なんだ、お前にもできるじゃないか、あとでジュースでもおごってやろう____
____は?
何を言っているんだこいつは。まて、さっき聞いた話を思い出せ。確か……
『この世界にはな!四人の異能力者がいるんだ!3人は研究施設に囚われている。が、残りの1人は、何か目的を果たすために他の場所にいる。そして真の目的に気付き研究施設に向かい、そこで異能力者たちの戦争が始まる。』
……出来の悪いラノベみたいじゃないか。しかしそれが本当の話となると……。
「それは……本当なのか?」
気になる。異能力者である私はここにいるが同じようなのが他に3人いるということが。
とにかく、こいつが何か知っているならそれをすべて聞き出すまでだ。
「へ?いや!本当だったら面白いかなーって...っておい!やめろ!その右手をしまえ!記憶は!記憶だけはぁーッ!」
「これからその減らず口、二度と開かないぐらいに顔ぶん殴ってやろうかぁぁ!!」
……今日も平和だ。
『……ザザ…ザ………ザーーッ……』
「……チッ」
___ガシャーン。
トランシーバーの黒いボディの奥から流れる音に嫌気がさし、灰色のタイルがはられた床に思い切り叩きつける。
「オデ……ガエリダイ…モウ……。」
嫌だ、こんなの。
焦げた茶色に染まった体。化物のような筋肉。皮膚はサメのようにザラザラで、自由のきかない口、そのなかにあるのはいくらでも生え変わる鋭い牙。
「ゼンブ...アイヅノ...ゼイダ...アノオンナノォォォォォッッ!!!」
広く何も無い空間で雄叫びをあげるバケモノを白衣姿の研究員たちは、冷たく光のない目で見つめていた。