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第1話


「あの子……不安だったんだ……。」

 風が吹き荒れる屋上の隅に、私は彼女の記憶を奪った右手を眺めながらにぼやいた。 

 頭の中で彼女の記憶が再生される。



 『あきらってさぁ、最近調子乗りすぎじゃない?……なめてんの?』

 『い、いや、そんなことないっスよ!?』

 『じゃあこれ何?』

 『せ、センパイ!違うんスよ!これは…その……。』

 『これってさぁ、ウチが気に入ってたあのキョウヘイ君だよねぇ?……何でお前と一緒にいんの?』

 『っ……。』

 『とりま半殺し確定ね。』

 ボゴッ

 『がはっ…!?ち、ちょっとセンパイ何して……ぐふぅっ!?』


 『けほっけほっ……!あ……恭平君!』

 ガッ

 『んぅ……!?ど、どうして蹴るの……?』

 『お前さぁ、バレるの早すぎ。お前の先輩、まだ2、3回しか使ってないんだからよぉ。』

 ドゴッ

 『そんな……恭平君!それって嘘だよね!?うそ…でしょ?』


 『うるさい。とりあえず3日ぐらいは近寄るなよ?できなかったら……殺す。』


 そして今日はその3日後。


 彼女の記憶が私に伝えた真実は、ひどく切ないものだった。彼女があんなにも張り切っていた理由は恭平君に会うため。もしかしたら今日、二人は仲直りしていたかもしれない。

 寄りかかったフェンスがギシギシと今にも壊れそうな音を出す。

 「…………。」

 彼女……先日、この右手で記憶を奪ったあの女子高生…昌さんの彼氏さんの藤原恭平という男の子を、私は直接的には知らない。この記憶もまた他の子から奪った記憶だ。語ってしまったが、あれも奪った記憶をたどっていただけ。どれが誰の記憶かもわからない。

 「……はぁ。」

 起立した途端、思わずため息が出る。

 こんな気持ちになるのは何度目だろう。

 天を仰ぎ見る。空には暗雲が青を埋め尽くすように立ち込めている。  

 何回も同じことを繰り返して。こんなのはもういやだ。そんなことを思っては目的を思い出し、また同じ日々をおくる。繰り返される記憶を巡る惨劇。幸せだったであろう過去の出来事を。これからも幸せな日々をおくれる可能性を十分に秘めた。かけがえのない、記憶を。

 そんな記憶を私は奪った。

 「気づかれちゃいけない……それなのに……ッ!!」

 気づかれなければ記憶を消さないで済むのに……。どうして、気付くのだろうか。

 錆び付いて焦げ茶色に染まったフェンスを思い切り蹴る……が、そんなことをしたって何が変わるわけでもない。……吐瀉物がこみ上げてきそうだ。どうして、私はこんなことも出来ないのだろう。私が通う学年は高校3年生。たった8歳の年の差なのにそれさえも誤魔化せない。もう……こんなことしたくない……。

 「でも……。」


____私は、あの子に____


ぶー、ぴよぴよ。ぶー、ぴよぴよ。

 いつものようにサイクルをたどろうとしている最中、豚とひよこの奇妙...ではなく独特の、何か中毒性のある着信音が私のスマホから鳴り響いた。

 牛の顔面が大きく描かれたラバーケースに包まれたスマホをスカートのポケットから取り出す。

 電源ボタンを押したわけではないのにその画面には光が灯り、未だ私の手の上で着信音を鳴らし続けている。

 「ってうわぁ……康治(こうじ)からかよ……。」

 画面には安村康治という文字とどアップで映された康治の顔写真が添えてある。なんちゅうアホ面。

 「……はい。もしもし。」

 いつもは電話なんぞ出ずに切るのだが。

 ……なんだかアイツの間の抜けたような声が聞きたかったのだ。

 「お!!電話でてくれた!いやぁ〜、8回も連続で電話きりやがって……流石に傷つきそうだったぞ!?俺も!じゃなくて!話したいことがあるんだよ!色々と!でな!?それがまたややこしいことで!とりあえず今から会えないか!?よし、会えなくても来い!決定事項!じゃあ駅前のお茶飲むところで集合な!じゃーなーー!」


____あぁ。電話でなけりゃよかった_____










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