第9話
いよいよ完結。
個人的に納得の行かない終わり方ですはい。
*
「これは……どういう……。」
学校……しかも沙芭高校と同じような内装である。
普通、研究所なら入り口を開けたらエントランスホールのようなものがあるのではないのか。学校を模しているならせめて下駄箱を設置して欲しかった。
扉を開けて、いきなり……廊下……。
「せめて引き戸にしろよ……。」
そうぼやいた瞬間、背後に違和感を感じ取った。
「嘘……だろ……?」
咄嗟に振り向くと、扉は跡形もなく消え、果てしなく続く廊下になっていた。張り紙や水道、教室のドアさえ無い、ただの廊下に。
か
ここまでくるとノイローゼになりそうだ。廊下で。
仕組みはわからないが、きっと異能力か何かだろう。今頃こんな事が起きても不思議ではない。
そう思い、振り返るために引いた足を戻し、進行方向へと再度身体を向ける。
「よこうそ こらどへうちぞ。」
----腰が抜けそうになった。
先程まで見慣れた廊下だけが続いていた方向に、そいつは立っていた……。
そいつの顔は180度回転し、額が下になっている状態だ。カカシのような体をしているが足は生きた足だ。だが、一本しかない。カカシのように。腕も片方…右腕は生きた腕、左腕は木の棒だ。大きな黒いジャケットを羽織ることで生きているか否かの境界は見えていないが、とても気味が悪い。
先程そいつが言った(?)言葉を理解できないままでいると、ひょっこりとそいつの後ろから少女が顔を覗かせてきた。
ロリだ。ここにきて、謎の、ロリだ。しかも、金髪。
「こら、おねぇちゃん怖がってる。こじろー、ごめんなさいしなさい。」
ロリは尻餅をついたままの私を見てそいつ……こじろーを小突いた。
「ごなめさんい。」
こじろーはロリに言われたとおり私に謝ってきた。体が不自由なのだろうか、真っ直ぐ前を見て言うものだから私に謝っている感じが全くしないが、まぁ悪いやつでは無さそうだ。
「えっと……君、お名前は?ここで何をしてるのかな?」
ゆっくり立ち上がった後、ロリに話しかける。そういやこのロリ、白衣を着てる。まさかここの研究員?いや……こんなロリに限ってそんな事は……あはは……。
「えっと…なまえはわからないの。でもみんなから、ろりって言われてるからそれがなまえなのかな?うーん……。」
やばい!!ここのヤツら絶対ヤバイ!!!
てかロリでいいのね!!びっくりした!!
「えーっとじゃあ……ロリちゃん?ロリちゃんはここで何をしてるのかな?」
私は笑顔で聞く。冷や汗が出ているがこのロリにはわかるまい。
そしてロリからの返事は早かった。同じく笑顔でこう答えた。
「じんたいじっけん!!!」
「!?!?」
笑顔のまま冷や汗が吹き出る。こんなロリになんてこと言わせるんだここの奴らは!!
----まて。冷静になるんだ。まずここはどこだ?……敵陣だろう?という事はこのロリも能力者……でないにしろ私の敵ということか?
しかし私も元教師。子供に手は出せない。……ここは素直に従ってみるか、99%の確率で敵であることはわかっているが、致し方ない。
「そ、そっかぁ……ロリちゃんはすごいねぇぇ……。」
笑顔を壊さずに(半ば崩壊しているが)とりあえずおだてておく。子供にはこれがいい……はず。
「うん!!でも、おねぇちゃんはもっとすごいんでしょ?ますたーが言ってた!!」
----マスター?
それらしい話が出てくると途端に真剣な顔つきになってしまった。それはそうだ、元からこんなロリにかまっている暇はない。一秒でも速く早く千里ちゃんを助けなければいけない。
マスターってのは要するにここのボスか?ならばそのマスターに片をつけて千里ちゃんを早いところ奪い返さないとな。
「お姉ちゃんね、そのマスターに少し用事があって今日来たの。その……マスターがどこにいるのか教えてくれるかな?」
ここでマスターとやらに会えば、そいつを殺して、千里ちゃんを救い出すだけ。
----簡単な話だ。
「ますたーはいちばん奥にある部屋にいるよ!!」
「そっか、ロリちゃん。ありがとう。」
私はロリに向かってニッコリと微笑んだ。
「……おねぇちゃんは、ますたーを。」
「?」
「ますたーを………………殺スノ?」
その瞬間、全身を蛇がつたうような寒気に襲われる。
ロリちゃんの長い金髪の隙間からこちらを覗く、紅く光る目は、明らかに敵意を示している。
ここは冷静に、自分にマスターと戦う意思が無いということをロリちゃんに伝えなければならない。
「ち、ちがうよ!私はただ、そのマスターさんと、お話をしに来ただけだよ?そんな、殺すなんて……そんなこと、しないよ!!というかできないよ!!」
冷や汗が頬をつたう。
下手な真似をすれば確実にこいつは私を殺すだろう。……そんな目をしている。
このロリ、侮れない……。
目が金色の前髪に隠れる。向こうがどのような行動を起こしてくるのか、想像がつかない。
しばしの間、沈黙が訪れる。
そして、その沈黙を破ったのはロリの方だった。
「そっかぁ〜!それならいってらっしゃーい!でも、マスターのところに行くまでに死なないようにね!!マスターもそれを聞いたら悲しむから……。」
敵意の欠片もないとびきりの笑顔で見送ってくれた。後の方に続いていた言葉はまぁ、わかっていたことだ。お礼の一つでも言ってやろう。
「心配してくれてありがとう!それじゃあ行ってくるね!」
本当にロリちゃんが普通のロリで良かった。
さて、千里ちゃんに集まる害虫どもをぶっ殺しに行くか。
まぁ、とりあえず……
「特に後ろには気をつけてネェェェェェェェェ!!?………!?」
こいつを、殺らなきゃな。
ロリの腕は色を変えずに、肘から先を鋭く尖る槍へとその形を大きく変形させていた。
たった今起こった展開を説明すると、ロリが能力を発動させ、腕を尖らせた後、私を後ろから刺殺しようとした。しかしロリが私を殺す気満々でいたのは容易に予想できていたから、瞬時に攻撃を避け、後頭部から銃弾を2発、撃ち込んでやったのだ。
仰向けに倒れ込んでいるロリの顔は狂気に満ち、笑っていた。
振り返ると、綺麗に掃除されていた廊下は真紅に染まっていた。
真紅の海の上には、小学生くらいから高校生くらいまでのたくさんの子供たちがとてもいい笑顔を見せながら倒れていた。目は見開かれているものの、それに彩は無かった。
これは、自分への罰なのか。
教師であったのに、自分の生徒である千里ちゃんを救うことが出来なかった。助けることが出来なかった。守ってやれなかった……。
…………何から?
そもそも、千里ちゃんが死んだのを何故私が知っているのか。
如何にしてその真実を知ったのか。
わからない。
考えれば考えるほど、頭の中が漆黒に包まれていく。
段々と、最悪のケースを考えるようになっていく。
千里ちゃんはなぜ死んだ?その死をなぜ私は知っている?そもそも千里という1人の女子生徒の為にこんなにも戦う必要があるのか?では何故私は戦う?罪滅ぼし?違う。八つ当たり?違う。復讐?断じて違う。その死の真相に迫るため……いや、その真相に私はとっくに気がついているのでは?では何だというのか。
………現実逃避?
真相に気がついた私はその真実を受け入れられないがために、自分の本心すらも欺き、その真実を忘れたと言うのだろうか。
筋は……通る。
ではその、忘れたという真実はどういうものなのか。ああ、どこまで私は愚かなのか。
考えろ……頭を使え……今までの戦いの中でそのヒントはあるはずだ……。
『水戸綾』。
あいつはなぜ私を殺そうとしたのか。私が千里ちゃんを救えなかったから?いや、もしそうだとしたら、あいつ自身も自らのことを戒めるはずだ。どんなに私に恨みがあろうと、それは直接こちらに出向いて堂々と殺そうとするまでのものではないはずだ。じゃあ……なぜ?
「私が……○したから?」
最悪のケースがふと、頭に浮かんだ。
同時に激しい頭痛に襲われ、その場に膝をついた。
ほんの少し、膝をついてからほんの数秒した後に前方に気配を感じ、頭を抱えていた手の指の隙間から前方を確認する。
目の前に立つ人影は、私のよく知る人物に当てはまった。
「ち……ちさと……ちゃん……?!なんで……ここに……?」
助ける対象のはずであった千里ちゃんがなぜ自由の身で、ここにいるのか、その場で思考回路を巡らせるのは無理だった。
……否、これも「現実逃避」なのかもしれない。
白衣姿なんて見たくなかった。
「いやぁ……久しぶりだね………先生。元気だった?喋り方とか色々変わっちゃったけど、先生なら私だってわかるよね?平田千里、元沙芭高2年A組。歳は変わらず17歳。」
感動の再会を果たすはずの千里ちゃんは、以前は絶対に見せることのなかった何か見透かしたような君の悪い笑みをこちらに向けていた。
それに……なぜ歳が変わっていない……?
「先生、ちょっと混乱しすぎじゃない?ここに来るまでに何人も白衣姿の生徒を殺してきたじゃん。」
千里ちゃんの言った言葉の中に引っかかるものがあった。
白衣姿の………「生徒」?
振り返りたくはないが、ゆっくりと体を後ろに向けた。そして、倒れ込んでいる子供たちの顔をよく見てみればそれらは自分の元教え子。小学生だと思っていた子はクラスの中でも一段と背の低い女子生徒。ガタイのいい優しげな笑みを浮かべた男子生徒は、異能力の話をした安村康治であった。ああ。みんな………。どうしてこんな姿に……。
「………先生、そこにいる人達、みんな先生が殺ったんだよ?何今更落ち込んでるの?………私はそいつらの敵をうつんだ!!」
え……?今なんて……?
「とぼけんなよ!?あんたはそいつらを殺したんだよ!!いい加減自分で創った妄想の世界から抜け出したらどうだよ!!」
妄想?何を言っているんだこのガキは。
「この………殺人鬼!!」
目に涙を浮かべながら、千里は叫んだ。
それを観て、聴いて、「ドクン」と心臓が大きく鳴ったのがわかった。そして、それと同時に全てを思い出した。
「………そうだ。私の目的はクラスの中での生き残りである千里ちゃんと未希ちゃんをしっかりと殺すこと……。」
横田という殺人鬼の器に入っていた何か「暖かかったもの」が一気に消え失せた。
器だけになった横田は、元の横田に戻った。教師時代、自分の受け持っていた2-Aの生徒をほぼ全員、「これも授業の一貫だよ。」と言って惨殺した。逃亡犯。指名手配者。殺人鬼。
「ふぅ……未希ちゃんはそっちにいたはずだけど、どう?いい感じの……「バケモノ」になった?あはは、はは、あはははは!!」
「っ………。すっかり…バケモノになっちゃったよ、未希は。言葉が通じなくて、ただ、計り知れないパワーを持っちゃったから何をされるかわからない。私たちを……殺すかもしれない。だから先に……楽にしてあげたの。」
「楽に?はは!そりゃ辛かったろうねぇ!?それと、私たち?誰だよそれ!……あ。水戸メガネの野郎か。あいつ、まだ生きてやがるのか。……そうだ!その水戸メガネはどこだよ!お前は私の最終目的だから最後に殺すんだ。……静かに待っとけ。先に水戸メガネを殺す。だから早く教えろ。教えねぇとその綺麗な肌をちょっとずつ、剥いでいってやるよ!!あはは!!!」
「……教えない。」
「そうそう!素直でいい子…………は?」
「教えない。私はまだ目的を達成してない。お前を……殺す!!みんなの敵だ!!」
横田の額に血管が浮かび上がり、その怒りがどれほどなのかを物語る。
「………じゃあ望み通りお前から殺してやるよぉ……!!!」
横田は右手に持ったナイフを千里に向けて、目にも止まらぬスピードで突っ込んで行った。
気づけば横田は仰向けに倒れていた。手のひらにはナイフがのっている。顔は真っ直ぐと、飾り気のない校舎の天井をじっと見つめている。先程まで頂点近くまで達していた殺意は何処かに失せ、何もかもどうでもいいような、そんな眼を横田はしていた。虚ろで、彩の無い、人形のような眼だ。……いや、人形である。目だけでなく、手も、脚も、首も、眉も、鼻も、耳も、何もかも。動かない、人形である。
倒れた人形のすぐ横に立つ少女の右手には拳銃が握られ、銃口からは煙が微かに出ていた。
「これで……復讐はできた……。」
少女は呆然と立ち尽くしていた。
大きなことを成し遂げたことから、何か達成感を感じるわけでもなく、しかし何か悪いことをしたために自らを戒めるわけでもない。
「みんな……これで……良かったんだよね……。」
俯いていた顔を上にあげ、空を見ようとする。しかし見えるのは灰色の天井。白くも黒くもない、はっきりとしない色。
無性に不愉快な気持ちになり、人形に右手に持っていた拳銃を向けようと下を向いた。
人形はかつての面影を全く持たず、先程まで荒れ狂っていたとは考えられなかった。
まして、何年か前まで自分の担任だったなんて。
「先生……どうして……こんな……。」
『千里ちゃん、未希ちゃん、こんにちは。』
『あ、横田先生、こんにちは。』
『横田先生!こんにちは!』
私はは元気よく、未希ちゃんはクールに挨拶を交わす。
『千里ちゃんは元気がいいねぇ…。』
なんだか先生はおばあちゃんのように見えた。
『もぉ先生!おばあちゃんみたいですよ!まだ若いんですから!!』
『おばあちゃんっていうより、おばさんだよね……。』
相変わらずきついツッコミを入れてくるなぁ、未希ちゃんは。先生に失礼じゃないかな……。
『あはは、おばさんかぁ、言えてるかも!』
なんて、おおらかなこの先生相手じゃあ杞憂だよね。
『『あははは!』』
楽しい日々だったのに。なぜこの人は。なぜ。こんなにも幸せな毎日を………。
先程湧き上がった怒りの感情がさらに増し、拳銃の撃鉄を起こし、人差し指を引き金にかける。
死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
拳銃の銃口からはまたも煙がたっている。
先程まで胸のあたりに滲んでいた血は、胸だけでなく眉間の辺りにも侵食した。
まだ息があったのか、人形はおもむろに口を動かし始めた。ぱくぱくと、微かに声が聞こえる。
「オマエハ社会的ニ死ンダ」
「ワタシノ勝チ」
「あは、あはははは。あははははははははは!!!あははははははははははははははははははははハハハははははははははははははは!!!あっははははははは!!!!アはあははあはハハハハはははははははあはははははアハハハハハハハハハハハハハハハはハハハハはハハハハはははははははハハハハハハハハはははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハははははハハはははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはははハハハハハハハははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはははは!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはははは!!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!アハ!アハハハハハハハハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!ハハハハハハハハハハハハハ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
1年と1ヵ月かけてやっと完結しました。
1話1話が短いし、行き当たりばったりで書いてたので伏線回収もできないし話の内容が全然掴めなかったです(作者なのに)。
ともあれ完結しました。「小説家になろう」での執筆は初めてで、リア友にも存在がバレるというなんだか大変なものでした。
さて、問題の終わり方ですが、横田の最後の言葉、「社会的に死んだ」は個人的に解釈すると、横田を殺した千里はこれから先の人生真っ暗で社会的に死ぬという事を意味しているという簡単なものでした。はい。
えーと、また他の作品も書いてみたいと思いますが、今度は全部書いてから載せてみようと思いますーもちろん月1で。それまでは多分お休みしてます。
最後に、EXIT!!横田!を読んでくれてありがとうございました!




