言葉のあや
私が久矢君と英語で話していて思ったことですが、彼は「私は英語を勉強しています。」と言う時、いつも“I'm studying English (now).”と言っています。
(※nowはつけたりつけなかったりしています。)
これは久矢君だけでなく、他の生徒さん達もこう言っているケースがあります。
この言い方は決して間違いではありませんし、日本語から英訳すると、確かに進行形になります。
しかし、この進行形にはちょっとした言葉のあやが潜んでいますので、ある日のレッスン後、私は思い切って久矢君にそのことを話してみることにしました。
「サキ、それのどこに言葉のあやがあるの?」
「私が思うには、現在進行形ではなく、I study English now.というように現在形の文章で言った方がいいと思ったの。現在進行形だと『今は~している。』という意味になるので、相手には『今はしているけれど、そのうちやめるかもしれない』と解釈されてしまうかもしれないから。」
「えっ?現在進行形ってそんな意味になるの?」
「そう。進行形にはそういった隠された意味が潜んでいる場合があるから注意が必要なの。」
「じゃあ、現在形は?」
「その場合ははその動作を習慣的、継続的に行っているという意味になるの。久矢君は英語の勉強を継続的にしているわけだから現在形で言った方が正確な意味になるでしょうね。」
「し、知らなかった!進行形にはそんな言葉のあやがあったなんて!」
「じゃあ、ちょうど良かったじゃない。あと、もうちょっと付け加えると、nowは言い方によっては(例えば強調して言ったりすると)『今は』~しているという意味になってしまい、ますます言葉のあやができてしまうから、会話では思い切ってnowを取っちゃってもいいでしょうね。」
「なるほど。学校では全然勉強していないことだったから、今まで知らないままだったよ。」
「まあ、学校のテストでは現在形か現在進行形かで○×を付けられるわけではないから問題にはしにくいでしょうし、学ばないのも無理はないでしょうね。でもちょうどいい機会になったようね。」
「そうだね。でもさ、他に僕が言ったことで、何か言葉のあやに引っ掛かるようなことってあった?」
「いくつかあったわね。レッスンでは時間がなくて言えないままだったけれど、この際、教えてもいい?」
「うん。この際、僕も知っておこうと思ったから。」
というわけで、今回は相手にちょっとずれた意味で捉えられてしまいそうな、言葉のあやについて説明します。
久矢君の実体験をもとにしているわけですから、彼にはちょっと痛いかもしれませんが、遠慮することなく言っていきます。
1)I'll try it.
ある日、私が会社の上司で、部下の久矢君に話をしているという設定でレッスンをしました。
その時のやり取りは次のような感じでした。
Saki : Could you complete this job today?
(この仕事を今日中に終えられますか?)
Hisaya : I'll try it.
(やってみます。)
このI'll try it.は別に間違いではないのですが、私としては同じ「やってみます。」でも、より積極的な意味になるI'll do it.をお勧めしたいです。
この時、I can do it.と言えば「できます。」と言い切っていることになり、より一層自信を持っていることをアピールできます。
(※ただし、ハッタリでI can do it.とは言わないでくださいね。)
一方、I'll try it.と言った場合ですが、やってみるとは言い切っているものの、達成できるかどうかに関してはdoよりも消極的になります。
例えて言うなら、I'll try it.は飛行機に乗り遅れてしまい、別の便を予約しに窓口にやってきたお客さんに対し、「予約できるか以前に、別の便に空席があるかどうかをまず検索してみます。」と言っているような場面がピタリと当てはまります。
もし自信なさそうに言ってしまうと「おそらく満席で席は取れないでしょうけれど、やってはみます。」というような、本当に消極的な意味になってしまいます。
2)always + 進行形
現在進行形には、「今は~しているけれど、もしかしたらやめるかもしれない。」という意味で伝わってしまうことがあると説明をしました。
その他にalways + 進行形で使った場合にも言葉のあやが潜んでいることがあります。
とはいえ、この文章は主語がIなら特に大した問題にはなりません。
問題は主語が二人称や三人称の時です。
この場合は「いつも~(ばかり)している」と解釈される可能性があり、その場合は不満を言っていることになります。
過去に、久矢君は私に
You're always reading books about English.
(君はいつも英語に関する本を読んでいますね。)
と言ったことがあります。
この場合、私に不満があったわけではないことは分かりますし、私も特に問題にはしませんでした。
しかし、もしその時に顔をしかめていたり、きつい言い方をしたら「君はいっつも英語に関する本ばかり読んでいるんだね。」という意味になってしまいます。
主語が自分以外で、always + 進行形を言った場合、本当に不満を言っているのかどうかは文脈で判断することになりそうですが、もし相手に不満と解釈されると自分から損をすることになってしまいます。
ですからalwaysの使い方には注意が必要です。
なお、他にconstantlyやforeverという副詞も進行形とともに使うと、同じような感じになります。
例文
・My baby is always crying when she is hungry.
(私の赤ん坊はお腹がすくといつも泣いてばかりいます。)
・You're constantly watching TV, aren't you?
(あんたはテレビ見てばかりですよね?)
・He's watching internet forever. I hope him to stop it as soon as possible.
(彼はインターネットを延々と見ています。早く止めてくれたらいいのに。)
・Members of the Yellow Party are always complaining about other parties.
(黄色の党のメンバーにはいつも他の党の不満ばかり言っている人達がいます。)
※おまけ
4つ目に書いた例文ではMembers of ~.と書いてありますが、これだと「党のメンバーの中には不満ばかりを言う人がいる。」となり、「中にはそうでない人もいる。」という意味になります。
もしThe members of ~.というようにThe + 名詞の複数形で使うと、「党のメンバー全員が不満ばかりを言っている。」という意味になります。
この場合はTheをつけるか否かで意味に違いが生じますので、この点でも注意が必要です。
3)I can't agree with you.
相手の言っていることに賛成できない、または反論したいという設定でレッスンをした時、久矢君はこのような言い方をしたことがあります。
これで問題ない場合も多いのですが、ネガティヴなことを言う場合、目的語がyouでは相手には直接的な言い方になってしまうため、言われた方はグサッときてしまうかもしれません。
この場合は、youを使うことを避けてI can't agree with it.と言った方がいいでしょう。
もちろんitの部分はthis opinionやthe ideaなどでもOKです。
(your opinionのようにyourを使うのも、もしかしたら避けた方がいいかもしれません。)
また久矢君が言ったことではないのですが、相手にネガティヴなことを言う場合、主語をyouにすることも避けた方がいいと思います。
例えば相手の言ったことが時代遅れである場合、You're behind the times.と言うと、「あなたは時代遅れです。」という直接的な言い方になります。
(※behind the timesで「時代遅れ」という意味になります。)
これでは最悪の場合「あなたは言うこと、なすこと全て、つまりあなたは何もかも時代遅れです。」と解釈されてしまい、相手を必要以上に傷つけることになることも考えられます。
この場合はYouを避けてIt's behind the times.というような形で言った方がいいでしょう。
「なるほど。細かいことだけれど、こんな言葉のあやがあったなんて。英語って難しいなあ。」
「それは日本語も同じよ。私自身も間違えたことが何度もあるけれど、100%間違えずにできるようになるのは至難の業だと思うの。久矢君も日本語で言葉のあやについて実感したこと、あるでしょ?」
「まあね。『やってみます。』を『やってはみます。』と言ってしまい、相手に『んっ?』と言われたことあるし。」
「まあ、母国語でも難しいから、外国語ではなおさらでしょうね。でも私がここで言ったこと、役に立ちそうでしょ?」
「うん。これから気を付けてみるよ。」
久矢君はこのアドバイスを聞いた後、私にお礼を言って、教室を後にしていきました。
ただ、ちょっと悩んでいるような感じがあったので、私としてはそれがちょっと気になりましたけれどね。
と言うわけで、今回は言葉のあやについて解説してみました。
教科書などではなかなか書いていないことですし、ちょっと心理的なことも絡むので難しいですが、久矢君ならきっとマスターしてくれると思っています。
それでは今日は以上です。読者の皆さん、See you.
お知らせ
この日の仕事後、私が教室を後にして部屋に帰ろうとしていた時、私のスマホに久矢君からメールが届きました。
内容を読むと、そこには重大なことが書かれていたため、私はかなり驚きました。
そして帰り道を歩きながら、私は彼に電話をかけて確認を取りました。
どのような内容だったのかは後ほどお伝えします。