性差別を避ける表現
最近の英語では女性差別を避けるために、これまでの単語を差し替えるケースが増えてきています。
例えば、以前は男性を“Mr.”と言うのに対し、女性の場合、未婚であれば“Miss”、既婚であれば“Mrs.”と言う決まりでした。
しかしこれを女性差別だという意見が多くなってきたため、現在では未婚、既婚に関係なく、“Ms.”というようになってきています。
このことは弥富さんにとっても興味深いことだったようで、私が仕事を終えて彼女と一緒に食事に出かけた時、上記のことについて話していました。
というわけで、今回はその時の会話をもとに、性差別を避けるための表現について解説していきたいと思います。
「弥富さんは他に女性差別だと言われそうな単語を知っていますか?」
「えっと…まず、salesman(販売員、店員)があります。この場合、女性だったらsaleswomanと言うんでしょうか?」
「それでも通じるけれど、それよりもsalespersonと言った方が無難でしょうね。」
「あつ、確かにそれならmanもwomanも入っていないので無難に使えますね。あと、他にもbusinessmanがありますけれど、これもbusinesspersonと言うのでしょうか?」
「そのとおり。ちなみにその単語は日本語と英語で意味が違うんだけれど、どんな意味か知っていますか?」
「えっ?会社員じゃないんですか?」
「残念。英語のbusinessperson(他にbusinessman、businesswoman)は経営者や会社の上のクラスにいる人という意味になるの。一般の会社員であればoffice workerと言うわよ。」
「そうだったんですか。間違えやすい表現ですね。」
「確かにね。とはいえ、これは英語の単語としては成立するけれど、サラリーマンは和製英語だから英単語としては成立しないの。これもoffice workerと言うべきでしょうね。」
(※ちなみにOLも和製英語です。昔はBG(ビジネスガール)という単語もあったそうですが、それも同じです。)
私はここで紙とシャーペン(mechanical pencil)を用意し、思いついたことを書いてみました。
例文
・I'm an office worker.
(私は会社員です。)
・I work for a factory.
(私は工場で働いています。)
他の例
・cameraman → photographer
・policeman → police officer
・guardman → security guard
・fireman(消防士)→ fire fighter
「どう?弥富さんの役に立ちそうかしら?」
「先生、salesmanやbusinessmanはmanをpersonに変えるだけだったのに、これらはややこしいですね。」
「確かにそうね。私もそう思ったことあるわよ。でもこうなった以上は覚えるしかないでしょうけれど。それから今思いついたんだけれど、freshmanという単語はもっとややこしいの。」
「どのようにですか?」
「この単語、どのような日本語に訳すと思う?」
「えっと…、新入社員だと思っていたのですが、違うんですか?」
「そう。実は『大学1年生』という意味なの。他に“ninth grade”という意味もあるから、これだと『中学3年生』という意味にもなるわね。」
(※大抵は大学1年生という意味ですが、これだけではちょっとあいまいなので、会話で補足説明する必要があるかもしれません。)
「ええっ?日本語と全然違うじゃないですか。」
「そう。つまりfreshmanは学生について使う単語で、新入社員を英語で言う場合は“new recruit”または“newcomer”になるの。ちなみにこれらの単語は中途採用の人にも使えるわよ。」
「……。」
「弥富さん、どうしましたか?ついて来られそうですか?」
「もうややこしくて…。自分から先生に持ち出しておいて申し訳ないですが、もうついて行くのが精一杯です。」
「じゃあ、少し違う話題でもしましょうか。」
「はい、すみません…。」
「別に謝らなくてもいいわよ。何も悪いことをしたわけではないんだから。」
というわけで、私達はしばらくの間話題を変え、気分転換をしました。
その後、もう一度話題を戻しました。
(※ちなみにfreshmanはイギリス英語ではfresherと言います。これも学生に使う単語なので、注意してください。)
「弥富さん、さっき言ったことについて補足すると、「彼は新入社員です。」という場合、“He is new(here).”という言い方もあるの。これなら学生と社会人、さらには新入社員と中途採用を問わずに使えるから非常に便利よ。」
(※hereは省略可能です。)
「そんな言い方もあるんですね。」
「そう。それでは今度は逆の立場の表現について書くわね。」
私はそう言って、次のような単語を紙に書きました。
・housewife(主婦)→ housemaker
・stewardess(客室乗務員)→ flight attendant
「こちらは数自体は少ないけれど、男女平等を考えたら覚えておいた方がいいわね。」
「はい。ところで先生、nurseは該当しないんですか?日本語では「看護婦」が性差別用語と言われるようになって、今は「看護師」に差し替えられていますけれど。」
「うーーん、nurseに性差別の意味はないはずだけれど…、今からスマートフォンで意味を確認するわね。ちょっと待ってて。」
「はい。」
(英語で書かれたサイトで検索した結果、a person whose job is to take care of sick or injured peopleと書いてありました。)
「弥富さん、この単語は『病人、けが人の世話をするための仕事をする人』という意味なので、性差別の意味はありません。だから、このままで大丈夫ですよ。」
「分かりました。」
「あともう1つ、書いておきたい例があるんだけれど、もう少し頑張ってもらえるかしら?」
「いいですけれど、何ですか?」
ここで私は紙に次の文章を書きました。
・Everyone has his off days.
(誰にでも調子の良くない日はある。)
「確か学校では所有格(単数)の性別が不明な場合、hisを使うって習っていると思うんだけれど。」
「はい。そう習いました。」
「でも最近の英語ではhisではなく、theirを使うようになってきているの。だからこれは“Everyone has their off days.”と言った方がいいでしょうね。」
「それだと文法的に変じゃないですか?主語がeveryoneで単数なのに所有格が複数ですから。」
「確かにそうだけれど、色々議論をした結果、性差別を避けるという考えの方が上回ったんでしょうね。ちなみに文章で書く場合はhis/herという表現もあるわよ。」
「分かりました。」
「ここまで随分色々なことを教えたけれど、大丈夫かしら?」
「ちょっと大丈夫じゃないです。何気なく質問をしただけのつもりが、いつのまにか英会話のレッスンのようになってしまいましたし。」
「確かにそうね。でもただで教えてもらえたんだから、弥富さんは結構得をしたと思うわよ。」
「そう…ですね。でも、やっぱり疲れました。」
弥富さんには大変だったようですが、私が伝えたいと思ったことは一通り伝えることができました。
あとは時間がかかってもいいので、彼女が覚えて使いこなせるようになってくれると嬉しいです。
日本でもそうですが、英語では性差別を避ける動きがかなり活発になっています。
ですから、みなさんもぜひ使えるようになってくださいね。
あと、英語でnurseと言われても、みなさんはそれを性差別用語だと言わないように気をつけてください。
今日は以上です。それではみなさん、See you.