助動詞の落とし穴
これは英会話教室で、フリートークのレッスンをしていた時のエピソードです。
この時は私と久矢君と、坂江陽八さんの3人がいました。
坂江さんは私と久矢君よりも年上の人で、この英会話教室を開設するのに尽力してくれた人でもあります。
(詳しくは「スペースバイウェイ号物語の、第34話 久矢君の願い」参照。)
彼は最初はほとんど英語ができませんでしたが、今では何とか会話ができるようになりました。
彼らがお互い英語で会話をしている時、次のようなやり取りがありました。
久矢:I used to watch baseball games when I was young.
(僕は昔、野球の試合を見ていました。)
坂江:How about now?
(今はどうですか?)
久矢:I sometimes watch them.
(時々見ています。)
坂江:Oh, you like baseball.
(へえ、君は野球好きなんですね。)
この時、2人は気付いていませんでしたが、私はこれを聞いてピンときたため、後で久矢君にアドバイスをすることにしました。
会話で彼が言っていたused toは、「かつて~だった」という意味で使われています。
教科書などではここまでしか書いていない場合が多いですが、実はこの助動詞には「今はその時とは違う」という、隠された意味があります。
つまり久矢君がレッスンで言っていた
“I used to watch baseball games when I was young.”
という表現は、「昔は野球の試合を見たが、今は見ない。」という意味になります。
ですからその後に、
“I sometimes watch them.”
と言ってしまっては、内容が矛盾してしまいます。
この場合はused toではなく、wouldを使って
“I would often baseball games when I was young.”
と言えば、矛盾せずに済みます。
この場合のwouldは「かつて~した」という意味ですが、今については考慮していません。
そのため、今も続けていることや、今はどうだか分からないことについて使うことができます。
なお、この場合はwouldの後にoftenやsometimesなど、頻度を表す副詞をつけることが多いので、私は自己判断でoftenをつけました。
(他にneverやalwaysをつけることもできます。)
それを聞いて、久矢君は
「ありゃ。used toって今は違うという意味まで含んでいたのか。初めて習って以来、今までずっと間違えて使ってたよ。」
と言っていました。
「確かに『かつて~だった』という表現としてused toしか知らない人が多いので、この間違いは多いでしょうね。」
「ん?『この間違いは多い』ってことは、これまで何度も聞いてきたってこと?」
「そうよ。大抵は何も言わずにそのまま会話を続けたけれどね。」
「じゃあ、何で僕には指摘してきたの?」
「言っても大丈夫と判断したからよ。一方で、まだ会話に十分慣れていない人にあまりあれこれ言うと、やる気をなくしてしまうことがありうるので、自分でそう判断した場合は黙っていたの。」
「そうだったんだ。でも他の人にはused toの隠された意味を教えないの?」
「タイミングを見ながら教えようと考えているわよ。あと、今回のことを文章にまとめて、掲示してみようと思っているけれど、いいかしら?」
「いいよ。ただし、僕が間違えたことだとは書かないでね。」
「大丈夫よ。私だってプライバシーには配慮しているから。」
というわけで、長くなってしまいましたが、皆さんも「かつて~だった」と言う時に、used toとwouldを正しく使い分けられるようにしてくださいね。
特にwouldを使う時には後に頻度を表す副詞を伴うので、慣れるまでは大変ですが、何度も練習してマスターしてください。
以前私は助動詞の落とし穴として、shouldとhad betterの違いを取り上げたことがあります。
(復習までに言いますと、shouldは「~した方がいい」、「had betterは「~すべきだ。しないとまずいことになる。」という意味になります。)
私達がよく使っている助動詞には、他にも落とし穴が潜んでいる例があります。
今回はそれらについていくつか取り上げてみようと思います。
1)mayの落とし穴
この単語は「~かもしれない」という意味になります。
“It may be raining outside.”
と言えば、確かに文法的にも正しいですし、意味も相手にきちんと伝わります。
テストでも正解になるでしょう。
ただ、今のご時勢ではmayよりもmightの方をよく聞きます。
ですから、これから「外は雨が降っているかもしれません。」と言う場合は
“It might be raining outside.”
と言った方が自然な英語になると思います。
なお、これを久矢君に伝えると、彼は首をかしげながら
「じゃあ、過去形なのか現在形なのか、よく分かんなくなるんだけど。」
と言っていました。
「確かにそうなるわね。でも実際の会話では過去形の意味で使われるケースよりもmayを置き換えたものとして使われるケースの方が多いの。だから思い切って「~かもしれない ≒ might」という形で覚えてもいいかもしれないわね。」
「ふうん。学校で学んだ英語とは違うんだな。」
「違うと言うよりは、学校では教え切れないんでしょうね。正直『mayは現在形、mightは過去形』としておかないとテストで○×がつけられなくなるから、先生泣かせの問題になってしまうでしょうし。」
「なるほど…。そうかも。」
確かに学校で習う英語と実際の英会話の英語には、多少の違いがあることは私も実感しています。
でも、私は決して学校での英語を批判するつもりはありません。
学校では学んだことをテストでの得点に結び付けなければなりません。
それに、私は英語に対してある程度以上やる気のある人とだけ相手をすればいいのに対し、学校の先生は英語が苦手な人にも相手をしなければなりません。
ですから、学校の先生方の努力には頭が下がる思いです。
では、次の助動詞に移ります。
2)canの落とし穴
生徒さんが相手に「ギターを弾けますか?」とか「英語を話せますか?」と質問する場合、助動詞のcanを使って
“Can you play the guitar?”
“Can you speak English?”
と言うのを、私は度々聞きます。
これらもテストでは正解になります。
でも、canは「~できる?」というような、どちらかと言えばくだけた言い方で、親しい人に使うべき表現です。
ですから、相手がまだそれほど親しくない人の場合、答がNoだったら多少なりとも嫌な気持ちになるのではないかと思います。
一方、canの過去形であるcouldは「~できますか?」という言い方なので、こちらの方がまだ失礼にならずに済みます。
さらに言いますと、canの代わりにdoを使って
“Do you play the guitar?”
(ギターを弾きますか?)
“Do you speak English?”
(英語を話しますか?)
という言い方もあります。
私としてはこの中でdoが一番印象のいい表現になると思っています。
また、ギターを弾けるということが分かっている人に「ここでギターを弾けますか?(つまり、ここにギターを持ち込んでいて、弾くことが可能ですか?)」と問いかける場合でしたら、ここでもcanの代わりにcouldを使って
“Could you play the guitar here?”
(ここでギターを弾いていただけますか?)
と言う方が無難です。
(もちろん相手が親しい人であればCan you ~?で問題はありません。)
また、「~してもいいですか?」と相手に許可を求める場合、Can IはCan you同様にくだけた言い方なので、親しい人以外であればCould Iと言ってみましょう。
例文
・Could I use this PC?
(このパソコンを使ってもいいですか?)
・Could I go home earlier today?”
(今日は早く帰宅できますか?)
3)willの落とし穴
学校では未来のことについて相手に問いかける時に、Will you~?を使うと習いました。
(他にもAre you going to~?がありますが、ここでは省略します。)
実はこのWill youは日本語の「~するつもりですか?」よりも強い言い方で、どちらかと言えば「~するの?」というような意味になります。
ですから上記のcan同様、親しい人であれば問題ないのですが、そうでなければちょっとネガティヴに解釈されてしまうかもしれません。
ですからやわらかく言いたい時には、can同様に過去形のwouldを使ってWould you ~?の方が好まれます。
例文
・Would you join the party this weekend?
(今週末のパーティーに参加するつもりですか?)
(ここでWillを使うと、「参加するの?」というような言い方になります。)
このように助動詞にはいくつかの落とし穴が潜んでいます。
学校の授業ではテストの点数や入試での合否などの兼ね合いもあるので、会話で相手に与える印象まで教えることは難しいでしょう。
(ここまで教えていたら中学のレベルを超えてしまうと思いますし、canとcould両方とも正解ではテストで出題できなくなりそうな気がします。)
ですから私としてはここで新しく学んでいただければ十分です。
たとえ間違えてもネイティヴスピーカーはある程度配慮してくれると思うので、あまり気にせずに楽しく経験を積んでいきましょう。
今回は以上です。それではみなさん、See you.