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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

こどもの分際

作者: 珠央

子供は守られるべき存在だけど、守られるだけの存在ではないんです。

集団登校が義務付けられた。いまだ解決していない変質者ソウドウのせいだ。

いちいち集合するのは面倒くさいけど、昨日までは保護者引率で、五年生にもなって親と歩くのは恥かしかったから、これくらいの手間は仕方がない。ママもパートで嫌味言われなくてすむって喜んでるし。


マンションの駐車場に降りると、シノブがいた。シノブは三年生なのに二年生のミサキより小さく、がりがりに痩せている。

めちゃくちゃな髪型は、お洒落や個性でやっているわけではないけど、とてもシノブらしいし、よく似合っていると思う。もちろん口に出して言った事はないけれども。

「おはよ」声をかけると、シノブは顔を上げ、けど目は合せずに「おはよ」とかすかに笑顔を見せた。

真っ白な顔に、目の下が鈍く赤い。シノブは夏でも長袖だ。白い腕には赤い傷がたくさんある。

僕にだってわかる。シノブはいわゆるギャクタイを受けているんだ。

髪の毛だって、親の気分のままに切られたんだろう。

ママは「関わるな」と言う。面倒なことになるから、と。

わざわざ言われなくたって、普通は下級生と仲良くする機会なんかない。

それこそ変質者騒ぎでもない限りはね。


六年生のチエリがやってきた。

相変わらず、よくわからない格好をしている。

学校に行くだけなのに、なんであんなに髪をくるくるさせなければいけないのか僕にはわからない。

飾りがたくさんついた黒いワンピースの裾は、たくさんの白いレースでふくらんでいる。

「おはよう」シノブが立ち上がる。

チエリはシノブの顔をのぞきこむ。

きゅっと形のいい眉が寄せられる。

紅を塗ったように赤い唇がぎゅっと結ばれる。

「チエリちゃーん」振り向くとチエリママが走って来た。

「忘れ物よ」手には黒い傘。

いつもチエリは傘を持っている。オトメのタシナミらしい。

振り向きながら、チエリが小さく舌打ちしたのを、僕は確かに聞いた。

「今日のも、お洋服とセットなんだから、忘れちゃだめよ」

「わかったわ」大人しく傘を開くチエリを、チエリママは写真に取る。

「良く似合うわ。やっぱりこのお洋服、チエリちゃんの為のものだったのね」写真を撮られているのに、チエリはにこりともしない。

「…やっぱり、今日もママ、一緒に行こうか?すぐに着替えてくる」ええ?それは勘弁…。僕はそっと溜息をつく。チエリのママがフル装備するのを待っていたら完全に遅刻だ。

「もう行くからいいわ」チエリがさっさと歩き出す。

西側のエントランスに、カイ達が出て来るのが見えた。ラッキー!と、僕もさっさと黒い傘の後を追う。

「早く帰っていらっしゃいね」チエリママは写真を撮りながら言う。登校前から下校時の約束をするなんて、うんざりするだけだと思うんだけどな。


カイが一年生のススムと二年生のミサキを連れて待っている。

カイはぶっきらぼうだけど優しい。

六年生の中では身体も大きい方だし運動もよくできる。

女子とも平気で話をするし、低学年の子の面倒も普通にみる。カイのそういうところを、僕はとても格好いいと思うけど、そう言ってもカイはよくわからないみたいだった。

「?そんなの当り前じゃないか?」当り前と言えるところが格好いいんだと思うのだけど、うまく伝えられない。僕も来年、六年生になった時、カイと同じようにできるだろうか?

「カイはある意味、天然なのよ」チエリが口を挟む。

「なんだよそれ?ユウスケもチエリも、誉めてるのかバカにしているのかわかんねーよ」

「誉めてるんだよ」僕が言うと、チエリはかすかに微笑んだ。

チエリの表情が変わる時、いつも僕は「初めて見た」と驚いてしまう。

実際は、笑ったり怒ったりしてるチエリを何度も見ている筈なのに。それでも、白くてなめらかで大理石みたいな肌が音もせずに動くことは、とても不思議な感じがする。

「ユウスケの方が感受性が豊かなのよ。言葉の持つ意味をちゃんと理解しているんだわ」

「?」カイじゃないけど、誉められているのかバカにされているのかわからない。

「優しいことは、冷たいことでもあるのよ」

 傘を(その時はピンクの傘だった)弄びながら歩くチエリを見て、僕とカイは顔を見合わせた。

チエリはたまに訳の解らないことを言う。何でもわかっている風だけど、聞いても教えてくれない。

本当は何にもわかってないのかもしれないとカイは言うけど、僕はチエリは何でも知っていると信じてる。


マンションの角を曲がりシャッター音が消えると、チエリはさっさと傘を閉じた。

カイは黙ってチエリに手を差し出し傘を受け取る。

こういう事を自然にするカイは、本当に格好いい。

カイは「ほい」と、僕に傘をつきつける。黙って受け取る僕も、ちょっとは格好いいかもしれない。


低学年のミサキとススムはカイと手を繋ぎたがる。

だけどカイは車道側を歩くから、一人としか手を繋げない。ススムは一年生で一番小さいし、病気がちだから、カイはススムと手をつなぐ。

チエリの手はシノブ専用なのは皆知ってるし、僕がミサキと手をつなぐべきなんだろうなあと思うけど、思うだけだ。

チエリが振り向いて、ちらりと僕を見る。僕は遠くの空を飛ぶ飛行機に見とれているふりをする。

いいじゃないか。

チエリの変な傘をぶら下げなきゃいけないから、女の子とつなぐ手は余ってないんだ。

飛行機雲はまっすぐに伸び、チエリの微笑みを、僕はまた、初めて見たと思った。


「カイくん!」ふてくされて、先を歩いていたミサキが声をあげる。

「どうしたあ?」返事をしたカイにつつかれて、僕は(一応ミサキ担当だとは自覚してるし)慌てて駆け寄る。

「あれ」ミサキがビル脇の小道を指差す。奥の方で地面が光っている。小道と言っても奥は塀で行き止まり、両脇の高いビルに挟まれた狭い道だ。ダンボールや何かのケースが置かれていて、子供が入り込んだりしたら危ないから扉をつけろとPTAが騒いでいるらしい。

入るなと言われて、初めてそこに小道があることに気付いて、そして、ついでに覗くようになった。そんな道だ。

日が差さない小道はいつもは薄暗いのに、今はほのかに白く明るい。

「なんだろう?」ダンボールを避けて近寄ると、カイも一緒に付いて来た。

 アスファルトが盛り上がって、ひび割れている。その内側から光が漏れていた。

「懐中電灯?」誰かが埋めたのだろうか?

カイは、僕の手から傘をとりあげる。

「爆弾とかだったら大変だから、そこで待ってろ」

「爆弾だったらカイくん大変じゃない!」ミサキが叫ぶのを、慌てて押さえる。

 爆弾だとか、変質者だとか、この辺の大人達は敏感になっているんだから余計な事言うなよ。

 カイが、傘を伸ばし、ひび割れたアスファルトを剥がしにかかる。

「チエリ、傘…」シノブが戸惑ったように言う。

「構わないわよ」大丈夫よと頷いて、チエリは、スカートの襞に埋もれるように隠れているススムを抱き寄せる。


「ユウスケ、ちょっと」

カイに呼ばれて近づくと、光が強くなっていた。

カイの顔は下から強い光に照らされて奇妙な影ができている。

覗き込むと、丸っこくて大きな電球のような、でも、たぷたぷと柔らかそうなものが埋まっていた。

「これ、電球?」

「…違うみたいだ。なんか柔らかいんだ」言いながら、カイはアスファルトを剥がす。固い筈の地面は、乾燥したクッキーのようにボロボロと簡単に剥けていく。

「うわ、けっこう大きい?」

「ぶよぶよしてる」取れる分を剥がすと、それは学校の机くらいの大きさになった。

固い膜の中で柔らかい中身がたぷたぷしている。テレビで見た、溶かされたガラスみたいだ。

「熱いかな」

「どうだろう」傘の先でつつくと、それはゆっくりと波打つようにへこんだ。

傘の先をカイが、恐る恐る触る。

「…熱くは無いみたいだ」その言葉を聞いて、僕は思い切って手を伸ばした。

さっとつついて、すぐ手を引っ込める。

…熱くはない。カイに頷いて見せると、カイもそっと手を伸ばした。

「…変な感触だな」大胆に、掌で押してみる。

「くたびれた水風船みたいね」いつの間にか横に来たチエリが手を伸ばしていた。

「これ、なんで光っているの?」

「触っていいの?」ススムとミサキも加わり、皆でそれを囲むようにしゃがみこんだ。

「…これ、何なの?」シノブがおずおずと手を伸ばし、手を触れた瞬間。

それは破裂した。


「わあっ!」身体を光が包み込む。

まばゆい光に目が眩む。

瞑った瞼の内側に光が溢れる。

思わず叫んだ口に、光がなだれ込む。

文字となり、音となり、匂いとなって、体の中に光が入り込む。


『礼を。解放。今こそ。帰る。戻る』

光の意思が流れ込む。内側から響いてくる。

『感謝を。叶えた者に。願いを。叶え』

『願いを。そなたの。力を。願いに』

『…言え』

…願い?僕の?

『そなたの』

「…そんなもの、急には思いつかないわ!」するどい音。…チエリ?

『では証を。そなたらに』

…あかし?

『形を』

「…ペンダントがいいな。卵型の、ガラスのようなキラキラした。細い鎖がついているの」…シノブ…。

『では。それを。使え。必要な時に』

「どうやって使うの?」

『願いを。願う時に。叶える為に』

「祈るってことかしら」

『イノル…。そう、イノレ』

「何でも叶うの?」

『本物の。一つ。代償を。願いに』

「代償って?」

『持ち物を。変える。願いに』

「…お前は誰だ?」冷静な音。カイだ。

『我は。我だ。』

「…これは何だ?」

『叶え。忘れよ。我を』


「だからこれは!」何なんだよ!叫ぼうとして、力が抜けた。がくっと頭が落ちる。

気が付くと、僕らは穴を囲んで座り込んでいた。

「…何だったんだ、一体」呟いて、頭をかこうとすると、腕時計が目に入った。

うわ、やばい!

「カイ!チエリ!遅刻するよ!」ここでヘマすると、また保護者同伴に逆戻りだ。

「あ、ああ」

「…ええ」二人とも、立ち上がった。

僕はカイの目の前に腕時計をつきつける。

「やべ、急がなきゃ!走るぞ、皆!」カイに促されて皆、走り出す。

 そうだ、あの跡…。それは深く深く、底が見えないくらいの黒い穴になっていた。

 これ、あいつが抜けた跡ってこと?どれくらいの深さがあるか想像もつかない。

覗き込もうとしたら、後ろに引っ張られた。

「ユウスケ!落ちるぞ!」

「カイ…」これ、指差した僕にカイは頷いて見せた。

「…チビ達もいる。後で話そう」


気が付くと。

僕の首にはペンダントがかかっていた。銀色の細い鎖に、2センチくらいのひらべったい卵型のキラキラしたガラス?が付いている。

鎖は止め具も切れ目もなく、ただの丸い輪だ。

長さは充分あるのに、外そうとすると頚に引っかかって取れない。

ガラスは不思議な色をしている。

触れると、パソコンの液晶画面を押した時のように、表面の色が歪む。

なんだろう、これ。

朝のアレが言ってた「証」なのかな。

大体、アレ、なんだったんだろう。

集団催眠?

どっきり?

でも、誰が?

なんの為に?


放課後、低学年は先に集団下校(保護者つき)した後なので、カイとチエリ、そしてシノブと集合だ。

三年生のシノブは、ススム達と帰ってもいいのだが、早く帰りたくない理由は簡単に想像できるし、チエリと少しでも一緒にいたいんだろう。大体、シノブの母親が送り迎えの当番に参加したことなんて無い。

「シノブ」呼びかけると顔をあげる。朝よりは顔色がいい。給食を食べたからだろう。

「ユウスケ」シノブは珍しく僕に視線を合せた。

目つきが気に食わないという、それだけの理由で殴られるのが日常なので、シノブは滅多に他人と目を合せない。

なのに、だ。

僕はシノブのSOSをキャッチした。

「どうした?」シノブをいじめるような卑怯な奴は、この小学校にはいない。

「チエリに、来ちゃいけないと言って」その言葉だけで、僕は解ってしまった。

「…お父さん、来てるんだ?」小声で言うと、シノブはかすかに頷く。校門の外から、車の大きな排気音が響いている。

チエリは奇抜な格好をしているし、人形みたいな顔をしているけど、でも、普通の小学生だ。

なのに、シノブの父親はチエリを、公民館の待合室にある誰でも触れる、特別だけど大事にされない玩具のように扱う。

それって、見ていて、とても嫌な気持になるんだ。

いや、確かに、チエリは特別だけど、でも、違うんだ。

僕の特別は、僕にだけの特別なんだ。あいつと僕は違う。

「シノブも来い」シノブの腕をつかむ。

シノブはびくっと身を固くしたけど、大人しく僕についてくる。

握った腕はとても細くて、力を込めたら折れてしまいそうで、僕は理由もなく泣きたくなった。

もちろん、下級生の前で泣くなんて恥かしい事、僕はしないけどね。


うまい具合にカイとチエリを捉まえて、裏口から出た瞬間、シノブが硬直した。

そこにアイツが立っていた。

「こんちわ」諦めたようにカイが会釈する。

アイツはにやにやしながら話かけてきた。

「チエリちゃん。お帰り」

チエリ限定かよ。カイが呟く。

「こんにちわ」

つんとすましたままチエリが答える。

「そこはごきげんよう、じゃないと。」

チエリの行く手を遮るように立ち塞がる。

「いつもうちのシノブと仲良くしてくれて有難うねえ。シノブは、どんくさいからチエリちゃんには釣り合わないのに、付き合ってくれて、いつも申訳なく思っているんだよ」

「私が好きでしていることだわ。」

「さすがチエリちゃん。優しいお姫様だ。」

チエリは姫と言われるのを嫌がる。

チエリママが、チエリの姫サイトとかいうものを作っていて、そこのファンがチエリを姫と呼んでいるらしい。本当かどうか知らないけど、先日つかまった変質者も、チエリ姫目当てじゃないかという噂もあった。

「あんたのせいじゃないの?」

「そんな目立つ格好をして誘っているんじゃないか」

集団登校の最中だけでも、何人かの保護者に言われていたのを僕も聞いた。

チエリは誰に何を言われても、答えない。

何を言われても、黙って相手を見るだけだ。

じっとチエリの大きな真っ黒い目にみつめられて平気な人間は、カイしかいない。

皆、ぶつぶつ言いながら去っていく。

「なんで何も言わないのさ」

僕も、言ったことがある。その時もチエリはじっと僕を見つめるだけだった。

居心地の悪い思いをしながら「違うって言ってやればいいのに」重ねて言うと、チエリが初めて微笑んだ。

「皆、でしょ、でしょって聞いてくるけど、違うって言っても、違うはず無いって言われちゃうし、私が違うと言ってるのに、違わないってどういうことなのかなって」

「何を言っていいのかわからないんだろ。」

カイがチエリの傘を振り回しながら言う。

「だって、皆、当然のように聞いてくるんだもの。知らないことには答えられないでしょ」黙ってれば相手は勝手に納得するし。唇を尖らすチエリの頬を、僕は触ってみたいと思った。

この手で、確かめてみたいと。

もちろん、そんなことはできるわけなく。

「だってよ、ユウスケ。答えは自分で見つけるものらしいぞ。」

カイが僕に傘を渡す。

ああ、そうだ。あの時、初めて僕はチエリの傘を持つ役目についたんだ。


答えないからと言って、何も感じていないわけじゃない。

そんな当たり前のことに気付かない大人がたくさんいることが、僕には不思議だ。

その代表ともいえるアイツは、チエリの洋服を褒め、顔を褒め、髪を褒め、プロのカメラマンが、チエリをもっと綺麗に撮ってくれるから一緒に行こうと言い出した。

「結構だわ。いえ、遠慮するわ。」

「本当に有名なカメラマンさんなんだよ。チエリちゃんのサイトを見て、是非撮りたいって…」

うなだれるシノブの手を握るチエリの指に力がこもる。しっかりしなさいと言っている。

「撮影依頼は、両親を通して下さらない?」

「…チエリ姫は、綺麗に撮って欲しくないのかな?芸能人にも会えるんだよ」

「会いたいと思うような人は、三次元にはいないわ」

僕は思わず噴出しそうになる。チエリは、言おうと思うとかなり無茶な屁理屈を言えるんだ。

多分、本気を出せば口喧嘩では無敵だろう。

「…似合わないよ、姫はそんなキャラじゃない。…送っていくよ。車があるから」

「遠慮するわ。」

「何でだよ。送ってもらおうぜ」

のんびりしたカイの声。

「集団下校だからさ。皆で乗せてもらおう。よろしく、おじさん」カイの言葉に、アイツは大げさに顔を顰めると、大人は忙しいんだとかぶつぶつ言いながら去っていった。

結局、シノブを迎えに来たわけではないんだな。

「残念だな。シノブんちの派手な車、見られるチャンスだったのに」その言葉に、チエリはシノブと顔を見合わせてふふふと笑った。

カイは、とても簡単に、チエリの笑顔を引き出す。

それってやっぱりすごいことだと思うんだ。


ビル横の、アレが出てきた穴はそこにそのままあった、ようだ。

封鎖されて近寄れなかったが「大きな穴があって危険だ」と注意されたから、アレはやっぱり現実だったんだろう。

「アレって、何だったんだろう」ぽつりと言うと、カイが振り向いた。

「なんか帰るとか言ってたな。嬉しそうな声だった。」

「声?」チエリが首を傾げる。

「私は見たんだけど。光の中から漢字だらけの文字が、わーっと押し寄せてきて、取り囲まれて」

チエリの言葉にカイが片眉を上げ、僕を見る。

僕は観念して、口を開く。

「声が聞こえたと思うけど、でも嬉しそうには聞えなかった。たどたどしい、片言っていうか、単語っていうか。」

カイの眉毛は戻らない。あきれたように口を開く。

「笑いながら、叫ぶような感じだったぞ」

どういうことだろう?僕達は顔を見合わせ、そして、一斉にシノブを見た。

「シノブは?」

シノブはどぎまぎと口ごもる。

「あ…。聞いた、とか、読んだ、とかもある感じだけど、でも、包まれた感じがして、とても気持ちがいいと思った。安心できて、だから素直に答えることができたんだと思う」

 ああ、そういえば。

「なんか形で表せ、って言われた時、答えたの、シノブだもんな」

うん。

頷いて、シノブは首元からペンダントを取り出す。

開いたシャツから、ちらっと青黒い痣が見えた。

「暖かい、気持ちいいと思った時に、チエリを思い出して。」細い指が、そっとペンダントを包み込む。

「あら、じゃあ、これって私のイメージなのね」チエリは嬉しそうに自分のペンダントを取り出す。

チエリのペンダントは透き通った黄金色をしている。

シノブのは青みがかった乳白色だ。

つられて取り出したカイのペンダントは、黒いような茶色いような色をしている。

「皆、同じじゃないんだ」

「とても優しい、シノブらしい色ね」チエリの言葉にシノブが嬉しそうに微笑む。

「卵、とか、繭をイメージしたんだよ」

「シノブらしくて素敵だと思うわ」そういうチエリの黄金色のペンダントは、白い肌に映えて、とてもチエリらしい。

「…俺のはカブトムシみたいだな。強そうでいいな。ユウスケのはなんかテレビって感じだな。」カイが笑う。

つられて皆も笑う。もちろん僕も笑う。

冷静に考えると、僕達はとても大変な出来事のまっただなか、とてつもない奇妙な体験していると思うんだ。だけど、わからないことはどうしようもないし、今は、カイの言葉に笑うしかないんだ。


「体を通り抜けていった感じがした」

シノブの言葉に、僕は、ああそうだと思い返した。

光に包まれて、そして掌から体を通り抜けて、アレはどこかに去って行った。

僕達は時間にして10分位、あの穴の側にいたことになる。

あっと言う間だったような気もするし、一日以上と言われても納得できるような、不思議な時間だった。

とにかく、遅刻しなくてよかった。

自分達にもわからない事を、先生に説明なんてできないし、多分、ばれたら変質者どころじゃない騒ぎになるに決ってるし。


僕たちは、とりあえず、ススムとミサキの様子を見に行くことにした。

これが本物の「願い叶えマッシーン」だとして、下手に地球征服とか願われて、うっかり叶えられたら困っちゃうしね。


ススムの家は4階にある。エレベーターを待っていると、シノブの家のドアが開いた。

「シノブ。早く帰って来いと言ったでしょ」

「こんにちは」カイが言い、僕も頭を下げるが、おばさんはじろりと睨んだだけだった。

「あーら、姫。相変わらず派手な衣裳だね」

チエリは黙って会釈する。

「あまりうちのシノブを誘わないでくれる?シノブは家ですることがたくさんあるんだから、あんた達みたいに遊んでいる暇はないんだよ。ほら、シノブ!」

叱責を受けて、シノブはびくっと肩をすくめる。

チエリは黙ってシノブの手を離す。

たとえそれが間違っているとわかっていても、従わないともっと悪い事が起こるって、僕達はちゃんと知っている。


悲しいけれど、僕達はまだ子供で、親や教師でさえ対応しきれない相手に立ち向かう術を知らない。

…多少、すごい所があったり、サイトで特別扱いされているとしても、僕達はただの子供にすぎない。


「あんた達も、早く帰りな。綺麗なお洋服が汚されちゃうよ。」

シノブの両親は、それぞれ別な意味で、でも、両方ともチエリに執着している。必要以上に。

「そんな格好して、男の子をひきつれて、あんたがそんな目立つ格好するから、変な人が来るんじゃないの?迷惑するのはこっちなんだからね」いい加減にしなさいよ。色気づいて。吐き捨てると同時に、シノブを飲み込んだドアは閉じ、僕達は取り残された。


鈍い音と低い悲鳴がしたけど、ドアに隔てられた世界に、僕達は関わることができない。

チエリは扉を見つめる。

無表情だけど、怒っていることは簡単に想像できる。

ドアは何も答えを出さずに平然とチエリの視線を跳ね返す。

「帰るわ」僕の手から傘がもぎとられる。後で連絡すると言ったカイに、後姿でひらひらと手を振り、チエリは去って行った。

結局、シノブにもチエリにも、ちゃんとさよならを言えなかった。


ススムの家は、ドアが開けっ放しになっていた。

このマンションでは、こんなことは滅多にない。

思わずカイと顔を見合わせる。

かすかに低い音が響いている。

「…こんちは」おそるおそる覗き込むと、ススムのお母さんが玄関にうずくまり、呻き声をあげていた。

「おばさん!どうしたの?」カイがしゃがみ込む。

おばさんの顔は真っ青で、汗がたくさん出ていた。

「……」おばさんの口元に耳を寄せていたカイが、頷くと僕を見上げた。

「誰か、大人の人呼んで!病院、救急車!」

僕は、頷くと管理人室に向けて駆け出した。


管理人さんが救急車を呼び、僕達はススムの父親に連絡したり、言われるままにタオルを用意したり、無我夢中だった。

救急隊がススムのお母さんを連れて行き一息ついて、初めて僕達はススム本人がいないことに気が付いた。ススムは喘息持ちで、外で遊ぶことはあまり無い。

甘えん坊で、帰宅後はいつも母親のスカートに纏わりついているのに、こんな時に限っていないなんて。

「…ススム?」とりあえず、靴はある。

僕達はおそるおそるまた部屋にあがった。

マンションだから、部屋の作りは同じなんだけど各家庭によって微妙に違う。

鏡の中に迷いこんだみたいに変な感じがする。

台所を抜けて居間に入ると、ソファーの裏、窓際にススムが倒れていた。

「ススム!」

眠るように死んでいる、一瞬、ズキンと胸が痛んだ。

でも、違った。

死んだように眠っているだけだった。

力強い寝息と、安定した胸の上下運動を見て、カイと僕は顔を見合わせて、へたり込むように座った。

「…救急車、呼び止めなきゃいけないかと思ったよ」

僕の言葉にカイも頷く。

「発作じゃなくて良かった」

ススムの発作、僕も見たことがある。

背中を丸め、涙をポロポロ零しながら、一生懸命、息を吸おうとするけど、ヒューヒューと、かすかな音が漏れるだけで、見ているだけなのに僕まで苦しくなるような状態だった。

「…母親が大変だってのに、昼寝か?」

呆れたように、カイがススムの乱れた襟元を直す。ふと、手をとめる。

「…卵、無いな」え?聞き返す僕に、ほら、と襟を開けてみせる。

卵とは、ペンダントのことらしい。

確かにそこにはペンダントも、銀の鎖もなかった。

「ススムには無かったのかな…」

「あるいは、願いを叶えちまったか、だな」のんびりとしたカイの言葉に、思わず顔を上げる。

おばさんが倒れた事と関係が?

僕は、ぞっとする。

「さあな。後で起きたら聞いてみよう」

ほら、手伝え、とカイがススムを抱き上げる。


「…カイくん」玄関に目を向けると、ミサキが母親と覗き込んでいた。

面倒を見てくれるというので、僕達はススムをミサキの母親に任せることにした。

「夕べも発作だったのかしらね」ミサキの母親が言う。

ススムは発作のせいか、普段から眠りが浅いらしく、唐突に深い眠りに落ちる事があるらしい。

「…ミサキ、首に、アレ、ある?」おばさんが奥に行ったので、僕は早速、聞いてみた。

「うん。見る?」襟元から取り出したペンダントは薄い水色だった。

「水色なんだ…。」…やっぱりあるんだ。

「うん。綺麗でしょ。ススムのは、もっと青かったよ」

「ススムの?ススムにもあったのか?やっぱり」

「あ…」しまったというように、ミサキが目を逸らす。

僕とカイは今日何度目になるかわからないけど、またしても顔を見合わせる。

「ミサキ、ススムのペンダント、どうなったか教えてくれない?」本当は、ススムが何を願ったのか知りたかった。

「え…。怒らない?」怒られるようなことをしたのか?

思わずカイに目を向ける。カイはしばらくだまっていたが、そうっとミサキの顔を覗き込む。

「怒らないけど、もし危ない事をしていたなら、ちょっと困るかな。ミサキのことも、ススムのことも危ない事からは守ってあげたいと思うんだよ。」

カイの言葉に、ミサキは、ぱあっと笑う。

僕は頬がかあっと熱くなる。

なんでカイは照れもせず、こんなことを自然に言えるんだろう。


ミサキの話によると、ススムのペンダント―『卵』は深い青色だったらしい。

二人とも、アレの話はそれなりにちゃんと理解できていた。

簡潔に『心からの願い事を一つだけ叶えてくれる』ものだと。

ミサキは、綺麗なペンダントが嬉しくて、友達に見せびらかしたけど、皆が見えるのは鎖だけで『卵』は誰にも見えないみたいだった。

でも、ススムには、ちゃんとミサキの『卵』も見えていた。


「ススムの家で?」

「うん。ミサキのママ、パートでお迎え来られなかったからね。」

 そして。

ミサキとススムは、自分達の願いについて話し合った。

「カイくんと恋人同士になれますように」

ミサキが祈っても『卵』には何の反応もない。

「やっぱりニセモノだよ。こんなの」ミサキがふくれる。

こんな子供だましにひっかかるものですか。

誰かがきっと私達に仕掛けたんだ。

今もどこかで盗撮してるのかも。

ついうっかりカイの名前を出しちゃったけど、気を抜いちゃいけないわ。

「僕、喘息が治りたい」ススムは言った。

「発作の時、空気が吸えないことがとっても苦しい」ススムは無防備に弱点をさらけ出す。

「喘息はわがままなんだって。おばあちゃんが言っていた。ママが甘やかすから、僕が喘息なんだって」ススムは、縋るように青いペンダントを握り締める。

そんなのババアの嘘に決まってんじゃん。騙されてるよ。

ミサキは呆れるけど、誰かに見られてるかもと思うと口に出せない。

「喘息が治るんだったら、もうママに甘えなくってもいいって、思うんだ」

 そう言った瞬間、ススムの『卵』が、願いを叶えたのだという。


「願いを叶えた…」

「うん。」

ミサキの願いは叶えてくれなかったくせに。ミサキはふくれる。

おばさんが倒れたのは、ススムの願いと無関係だ。

僕はほっと息を吐く。そんな僕をカイが小さく笑う。


「どんな感じだった?」カイが聞くと、ミサキは小首をかしげる。

「わからない。だけど、あ、今。これなんだって解ったの」


ススムは、一瞬、きょとんとして、喉に手をやった。

「…願い、叶ったの?」本当は、大丈夫なのか、身体は無事なのか聞いてあげたかった。

「何が?」ススムはミサキに聞き返す。

「え、ペンダント、どうなったの?」

「何のこと?」ミサキは、ススムがふざけているのだと思った。

誰かと一緒になって騙そうとしているのだと思った。

頭にきて、乱暴にススムの襟元を引っ張る。

「やめてよ、ミサキちゃんのエッチ」ススムの首には、何も無い。

ミサキは思わず手を緩める。

「ススム、どこにやったの?ペンダント」

「何それ?僕、男だよ。そんなものするわけないじゃない。」

「! だって!朝、皆でビルの横で、あの白い光の…」

「今日は、ユウスケのせいで、皆で遅刻しそうになったじゃない」

「ユウスケって」

「ユウスケが、チエリの傘を失くして捜しに行ったせいで」

「ススム、覚えてないの?じゃ、喘息は…」うまく言葉にならない。

何か、恐ろしいような、気味が悪いような。

「喉と胸、すごくスースーする。とても楽。…なんか、僕、眠くなってきちゃった」

昨日、寝てないんだ。ススムはあくびをしながら、床にずるずると寝転んだ。

そのまま安らかに寝息をたて始めたので、不気味に感じたミサキはランドセルを掴むと、そのまま帰宅してしまったということだった。

不安に思っていた所に、救急車の音がして、怖くなって母親と様子を見に来たらしい。


「忘れるって、そういうことか」カイが呟く。

我を忘れよ。アレはそう言った。

「でも、不思議なの。なんでミサキの願いは叶わなかったの?なんでススムだけなの?」

ミサキの問いに、僕もカイも答えることはできなかった。


夜になっても、ススムは目を覚まさなかった。

ススムの母親は、妊娠がわかり、一晩入院することになった。

病院から帰って来たススムの父親に礼を言われ、僕達は家に戻った。

ススム、お兄ちゃんになるのか。

僕はちょっと羨ましくなる。

僕には大学生の兄がいる。

年が離れすぎていて、僕はいつまでも一人前として扱ってもらえない。

誰よりも年下で、シノブよりも小さいススム、甘えん坊のススムが、手の届かない存在になるような、変な感じだった。

「ススム君は大丈夫ですか?」

尋ねたカイに、ススムの父親は笑った。

「ああ、遊びすぎて疲れただけだよ。ススムは頑丈だけが取得の暴れん坊だから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

父親の腕の中でススムが眠っている。

お兄ちゃんになるのに、のんきなもんだ。おどけた父親の言葉に、僕は頑張って笑顔を作る。

 頑丈だけが取得?

 暴れん坊?

ススムは、甘えん坊で、弱くて、大人しくて、ついでに泣き虫、な筈だ。


「大丈夫よ、ススム君もお兄ちゃんになったら、落ち着くでしょう。根は優しい、いい子だもの」ミサキの母親の言葉は、一体誰のことなのか?


ミサキはともかく、本当にススムの喘息が治ったのなら、この『卵』の力は本物なのだろう。

光にかざすと、僕の『卵』は光の加減によって、赤く見えたり、緑に見えたりする。これで願いが叶うんだと思うと、ワクワクする。

 さあ、早速、僕も願いを叶えてみよう!


「おはよう」「はよー」

駐車場にいるシノブに声を掛けられ、あくび混じりに挨拶を返す。

昨夜、あれこれ考えてみたものの、『卵』は何も叶えてくれなかった。おかげで寝不足気味だ。

そう言うと、シノブはかすかに笑った。

「シノブは試さなかったの?」意外に思って尋ねる。

シノブの願いは容易に想像できると思っていたのに。


 僕は考えた。たった一回のチャンス、有効に使わなくては。

 新発売のゲーム機。

 自分専用のテレビ。

 続きが気になる漫画本。

色々リストアップしている内に、僕は解らなくなってきた。

欲しい物はたくさんある。けれど、それが自分の願いかと聞かれると、違うような気がする。

お年玉だってまだ貯金してあるから、買おうと思えば、欲しい物はお金で買える。

 じゃあ、僕の願いって何だ?

 一番の願いって?


ススムの様に病気に苦しんでいるわけでもないし、シノブの様に虐待されているわけでもない。

ミサキは「カイと恋人」と祈ったけど、僕には恋人ってよくわからない。

苦しくないし、寂しくないし、生きているのが辛いわけでもない。


ヒーローになりたいとは思うけど、やっつけるべき悪の組織は、どこにあるんだろう。

大体において、ヒーローって正体は秘密だったような…。

ということは、悪と戦ったって、誰もお礼を言ってくれないし、報酬をくれる人もいない。

ヒーローには秘密道具をくれる博士がつきものだけど、秘密基地ってどこにあるんだ?

やっぱり秘密なんだろうな。

…タダ働きは、きついなー。

秘密ってことは、今迄通り勉強はしなきゃいけないだろうし、学校にも行かなきゃいけないだろうし。

遅刻や欠席が多いと受験に響きそうだな…。

ヒーロー業は秘密だから一芸入試にも使えないだろうし…。

…ということで、やっぱり、ヒーローは却下。


スポーツ万能ってのならいいかもな。

オリンピックで金メダル取ったりして。

それよりも、頭を良くしてもらって、一流大学に入って、いい会社に入って、お金持ちになって…。

…そういえば、一流大学を出たお金持ちの人が、逮捕されていたな…。


夢と欲しいものと願いって同じようで違う。

僕は、何を願いにすればいいのか、幸せって何なのか、本当にわからなくなったんだ。


「皆と、お揃いだから」シノブの言葉に我に帰る。

「皆と、繋がっている。一緒に居るんだって。これがあることだけで嬉しいから」

服の上から『卵』を握り締めて、真直ぐに僕を見つめる。

いつもは長い睫の影になっている黒目勝ちの瞳を、僕はとても綺麗だと思った。

「…そうだね。皆で、一緒に不思議な事を体験したんだよね」答えながら僕は自分を恥じる。

何がヒーローだよ。僕のバカ。


チエリもやって来て、(今日は白い服。ちゃんと白い傘を持っている)カイがミサキと降りてきた。

迎えに行ったら、ススムは父親と、母親の入院している病院に一緒に行くそうだ。

「おっかしいのな。ススム。『僕、お兄ちゃんだから、しっかりするんだ』ってさ」

へえ。あの甘えん坊のススムがねえ。

「だから、『もうカイと手を繋がない。カイはミサキと手を繋いでいいよ』って」

ちゃっかり、ミサキはカイと手を繋いで、にこにこしている。

僕も妙なプレッシャーから解放されて、ほっとする。

「…願いが叶ったんだね。きっと」シノブも嬉しそうだ。

「お母さんにもっと甘えられますように、って願うかと思ってたけどね」意地悪を言うミサキをカイがこら、と軽く小突く。ミサキは肩をすくめて舌を出す。

「だって、いつもお母さん、お母さんって。それなのに、おばさんが倒れたことを聞いても、泣きもしなかったんだよ」

「赤ちゃんがいるって聞いたからだろ」

「自分が赤ちゃんみたいなものなのに」

ススムだったら、赤ちゃんなんかいらない、僕だけのママでいて、って泣くと思ったとミサキは言う。

その言い方には棘があると思うけど、確かに、ミサキの言う方がしっくり来る。

「…甘えの心、を代償にしたのかしらね」チエリが呟く。

「甘えの心?」

「代償?」

同時に僕とカイが言う。


「アレの言葉で気になったのがあるんだけど、『御前の持つ物を。願望の成就の代償に』って」

御前の持つ物という部分がひっかかったとチエリは言う。

僕達は、封鎖の解かれたビル横の通路に来ていた。

どこにもひび割れすらない。

最初から何も無かったかのように。

「持つ物って、どういう意味かわからなかったんだけど」

ススムの願いは喘息が治ることだった。

それは、大好きな母親への甘えを代償にしてもいいくらいの、願いだったのではないかと。

チエリの言葉に、皆、何となく口をつぐんでしまった。


「…じゃあ、ミサキは何を出せばいいの?」

搾り出すような低い声に驚いて、ミサキを見ると、目に涙を浮かべてカイを睨んでいる。

「どうすればカイはミサキを好きになってくれるの?なんでススムだけ叶うの?ずるい」

正直、僕はびっくりした。

ミサキがカイを好きなのは知っていたけど、泣くくらい本気だとは思わなかった。


カイは優しくミサキの頭を撫でる。

「ミサキのこと、好きだよ」叶っちゃってるじゃないか。

いつも通りのストレートなカイの言葉にも、ミサキは激しく首を振る。

「違うもん!そういう好きじゃないもん!」

大きな声を出すなよ。後ろから突くと、ミサキは乱暴に僕の手を振り払った。

「もっと、ちゃんと、ミサキだけを好きになって、ってお願いしたのに!」ススムに負けないくらい真剣な思いなのに、なんで叶わないの、とミサキは足を踏み鳴らす。

「カイはちゃんとミサキのこと、好きじゃない。だからもっと別な事に願い事を使いなさいってことじゃなくて?」なだめる様に言うチエリを、ぎっと睨みつける。

「カイはチエリの事が好きなんじゃない!」 

 え?!

思わずシノブと顔を見合わせる。

カイもぽかんと口を開けている。

「ユウスケの事も、ススムもシノブも、皆、好きじゃない」

ああ、そういうことか。ちょっとほっとする。

「…うん。皆、好きだよ。ミサキのことも、もちろん好きだよ」

「そんなの、皆と同じに好きっていうのは、好きでもなんでもないってことじゃない!」

叫ぶミサキ。

カイは困惑したように、天を仰ぐ。

わけわかんねえ。小さく呟く。

「…ミサキ、気持はわかるけど、カイの気持をどうにかしようなんて、願いじゃなくてわがままよ。ミサキはまだ子供なんだし、それに、そういう好き、は、まだ早いんじゃないかしら。」特にカイには。小さく付け足す。

「…チエリはそうやっていつも、大人ぶって、自分が一番わかってるみたいに言う」

押し殺すように低い声。

上目遣いで、チエリを睨みつける。

「嫌い!チエリなんか!消えちゃえ!」

ミサキの言葉に僕はぎょっとする。まさかと思うが、この言葉で願いが叶ってしまったら…!

シノブも慌ててチエリの腕にとりすがる。

「チエリも、シノブもススムも、皆、皆、いなくなっちゃえ!」

「ミサキ、いい加減にしろ」さすがに怒るカイを制して、チエリが腰を屈める。

睨みつけるミサキと、しっかり目線を合わせる。

「私がいなくなる事が、ミサキの望みなら、それでミサキが幸せになるなら、私はそれでも構わないわよ」え?!またしてもシノブと僕は焦って顔を見合わせる。

「でも、私はともかく、皆がいなくなったら、皆を好きなカイは嬉しいかしら?」

ゆっくりと語りかけるチエリの言葉に、ミサキの目から力が抜ける。

ぽろぽろと涙が零れる、

「…ごめんなさい。うそだよ。カイ、ごめんなさい。チエリ、いなくならないで」

ミサキは、チエリに抱きつく。

チエリも優しく抱きとめる。

「ミサキは、カイから、特別な好きが欲しかったのね」

うん。

レースに包まれて、くぐもった声でミサキが答える。

「カイを好きだっていうと、皆、ミサキをバカにするの。」

誰もわかってくれない。

ミサキはしゃくりあげる。


ミサキは小さい癖に、おばさんみたいな子供だ。

いつも噂話ばかりして、人のことを気にしている。

そしてカイを独り占めしようとして、出来なくて、不機嫌になっている。

「子供だからって言うの。何もわかってないって。だったら教えてって言うと、子供だから教えてもわからないって」

そうだったの。チエリが優しく背中をさする。

「子供だっていってごめんなさいね。でも、私も、もちろんカイだって、まだまだ子供なのはしょうがない事実なのよ」

自分は子供に過ぎないと言い切るチエリは格好いい。

僕はいつも、今の僕以上のふりをしなきゃ、と思うのに。

「そんなの、大人になってからでも遅くないだろ?」カイの言葉に、ミサキが溜息をつく。

そっと『卵』に触れる表情は、とても大人びて見えた。

「…ミサキ、早く大人になりたいなあ。ちゃんと好きになってもらえるくらいの。早く、子供の時間が終るといいのに。」

その瞬間、ミサキの『卵』が発動した。


発動した、としか言いようが無い。

ミサキはそこにいた。

でも、ミサキは大人になっていた。

ぽかんと見つめる僕達を、ミサキは不思議そうに見下ろした。

服装も持ち物も変わってしまって、ふっくらとした体に、ストンとしたワンピースを着ている。

「…あら、チエリちゃん?」チエリは、慌ててミサキの手を離す。

ミサキは僕の顔を見て、一瞬、目を細めた。

「君は、タカノリ君の弟、ユウスケくんだっけ?お兄さん元気?」

僕は慌てて頷く。何で、僕の兄さんの事を知ってるんだろう。

「ミサキ…」呟いたカイを振り向いて、ミサキはにっこり笑う。

鮮やかな赤い唇が釣り上がる。

「カイくんじゃない」相変わらず可愛いわねえ、と、カイの頭をぐりぐりと撫でる。

後ろで固まっていたシノブが、僕をつつく。

道の方から大きなエンジンの音が聞える。

「ああ、旦那が来た」ミサキが振り向いて言った。

「喧嘩して家出したんだけどさ」

ぺろっと舌を出す。

確かにミサキの仕草だ。

「迎えに来た」やっぱり私がいないと駄目なんだよね。

そう言うミサキは幸せそうで、僕達は何も言えない。

「?あんた達もさっさと学校行きなさいよ」

ほらほら、と追い立てられて、僕達は歩き出す。

茫然としているチエリの手をひっぱるカイを見るミサキの表情が、一瞬、切なげに見えたのは気のせいだろうか?

「ミサキ」

僕は思わず声をかける。

怪訝そうにミサキが振り返る。

「もし、もしも一つだけ望みが叶うとしたら、何を願う?」

本当は、何を願い、何を差し出したのか。

「願い事、ひとつだけ?何それ、何かのゲーム?」

ミサキは、手を繋いだカイとチエリをちらっと見る。

「…私だけを愛して欲しいってことにしておく」

気障だけどね。そう言ってミサキは笑った。


「私の手の中にいたのよ」チエリが掌を見つめながらつぶやく。

ミサキは賑やかな音をたてながら、旦那さんと一緒に去って行った。

僕達は流石に学校に行く気になれず、裏山の神社に来ていた。

お祭りの時以外は、人がいないので、好都合だ。

「…怖いわ」私、そんなに重大に考えていなかった。

チエリは震えながらしゃべり続ける。ショックを紛らわすためか、珍しく饒舌だ。

「ミサキの気持、私、全然わかっていなかった」

ミサキは、愛されたかったのね。チエリは掌をぎゅっと握る。そんなに強く求めていたなんて…。

「私、コレを手にいれて改めて、自分は恵まれているんだと気付いたわ。人形のように扱われて、面倒くさいとは思うけれど、願い事にするくらい嫌だとは思わないし。」

ふうっと息をつく。

「…病気でもないし、わざわざ願うほど、辛い生活でもないし、欲しい物はお金で買えるし」

「それ、僕も同じ事、思ったよ」

思わず口を挟むと、チエリが僕を見て頷く。

「ユウスケは、そうじゃないかと思ったわ」

そして、シノブに、ごめんね、と謝ってから続けた。

「私、今にして思えば傲慢だけど、シノブの事を願ったのよ」

シノブは、目を逸らしてうつむく。

皆が知っている事なのに、シノブは虐待のことを言われる事を恥じている。

「ミサキと同じだわ。誰かのことを自分の願いにするのは、私のわがままで勝手なんだわ」


大人になったミサキは、普通のおばさんになっていたけど、幸せそうだった。

ミサキは『自分だけの愛』を手に入れた。

代償に持ってかれたのは何だ?

「若さでしょ」チエリが言う。

僕の兄と同い年だとしたらミサキは18歳だ。

十年という年月が、果たして『愛』の代償として適当なのかどうか、僕らには判断できない。

「俺はふられたわけだ」屈託無く笑うカイを複雑な表情でチエリが見る。

「カイは、何か願ってみたの?」

「おう。願ったよ」こともなげにカイが言う。

カイの願い事は僕にもチエリにも想像がつかない。

「消しゴムが無くなったから、新しいの欲しいと願ったんだけど、駄目だったな」

はあ?

ぽかんとする僕達に、カイが続ける。

「何だよ。また無くしたのかって怒られて大変だったんだぞ」

チエリが笑う。

シノブと僕は、そんなチエリの様子に、安心して笑った。


「こういうのはくだらないことに使っちゃった方がいいんだよ」カイが言う。

「ススムはともかく、ミサキのなんか見ていると、本音とか本心って思いもかけない物かもしれないじゃん。それって怖くねえ?」

忘れちまって、後悔だってできないんだぞ。俺はそんなの知りたくないよ。

「だって、俺、今、幸せだもん」

カイの言葉に僕達は黙り込む。


僕は幸せなのだろうか。

ちょっとした不満はあるけど、少なくとも自分が不幸だと思った事はない。

でもこれって、幸せって言い切っていいものなのだろうか?

「このままじゃ、だめなのかなあ」

シノブが呟く。

そっと『卵』を掌に取り出す。

シノブにとっては、皆と一緒に居られる、今、この瞬間こそが確かに幸せなんだろう。


「サボリは良くないなあ」

我に返ると、シノブの父親がくわえ煙草でにやにやと立っていた。

「何をしているのかな?おじさんも混ぜてくれよ」

無言のチエリをかばうように、カイが立ち上がった。

僕も立ち上がる。

今のチエリは、弱っている。

そんなチエリをコイツに見られたくなかった。


アイツは、うっとうしげに僕達を見回して、シノブに目を留めた。

にやけ顔が、すっと消える。

ゆっくりと近づき、シノブの手を掴む。

「どうした、これ」

ガキの癖に色気づきやがって。

憎々しげに吐き捨てる。


『卵』を握り締めたシノブの手をアイツが引っ張る。

「ガキには必要ないだろ。どこから取ってきやがった!」

『卵』は見えていない筈だ。

銀の鎖の事を言っているのだろうか、シノブの手ごとひっぱる。

華奢な鎖はシノブの首にくいこみ、掌を傷つける。

「いやだ」

シノブが必死にもがく。

嘗て無いその抵抗がアイツを怒らせる。

空いている手でシノブの頭を殴りつける。

「やめろ!」飛び掛ろうとしたカイを足蹴にし、睨みつける。

「大人に逆らうんじゃねえよ。いいから寄越せ!」

「やめなさい!嫌がっているじゃないの!」立ち上がろうとするチエリを僕は抱きとめる。

コイツは切れたらたとえ相手がチエリであろうとも手を上げるに違いないんだ。

「うるせえ!」アイツが僕の背中を蹴りつける。

思わず息がつまり、力が緩む。

僕の腕をチエリはすり抜けた。

シノブとアイツの間に割って入る。

「やめなさい!」

「黙れ!俺に命令するな!」

横っ面を殴りつけられてチエリが倒れる。

「チエリ!」

シノブが擦れた声で叫ぶ。

駆け寄ろうとしたシノブは、鎖で吊り上げられる。

シノブは浮いた足をばたつかせてアイツに蹴りを入れる。

鎖と首に挟まれた手から鮮血が滴り落ちる。

「やめろ!」

「シノブ!」

叫んだ瞬間、目の前が真っ赤になった。


シノブの首から噴出す血を見て、アイツは、手を離した。

「シノブ!」

どさりと崩れ落ちるシノブに取り縋る僕達から、アイツはきょろきょろしながら後ずさる。

「…そ、そいつが悪いんだからな。抵抗するから…、俺は悪くないからな、」

「いいから、救急車!」

カイにどなられ、アイツは、わああああ、と喚きながら走り去った。


「シノブ」

チエリが泣きながらシノブの首筋を押さえる。

指の隙間から、血が流れ出る。

「…チエリ」

シノブが言うと、ごぼ、と口からも血の塊が出る。

「しゃべらないで、」

チエリの白いワンピースがどんどん赤く染まっていく。

「…泣かないで。チエリ」

シノブが、のろのろと手を上げてチエリの頬の涙をぬぐう。

「…チエリが笑うのが、好きなんだ」

「うん。わかった、わかっているから」

僕もカイも一緒に傷口を押さえる。

「…チエリと、皆と、一緒にいる時が、幸せだったんだ」

「うん、わかってるよ」

カイも頷く。だから、大丈夫だから。

「シノブ、祈って、願って!」

チエリが叫ぶ。

「卵に!生きたいって!助かりたいって!願いなさい!」

シノブの手を卵に導く。


シノブはふっとかすかに笑った。

確かめるように卵を握りしめる。

「…今、一番、幸せ、だよ。もう、いいよ」

シノブはゆっくりと僕らを見て、微笑んだ。

「…チエリちゃん、シノブ、チエリちゃんの子供になりたかったなあ」

そして、願い、発動。


 僕達は、ただ座り込んでいた。

 シノブの体は無くなっていた。

 チエリの白いワンピースは、深紅の物に変わっていた。


シノブはもういない。

いや、最初からいなかったことになっている。

シノブの両親はあの部屋に住んでいるけれど、子供はいない。

しょっちゅう派手な夫婦喧嘩をしては警察沙汰になっているらしく、近々マンションを追い出されるらしい。


ミサキは、まだ若いのにすっかり所帯じみて、と陰口を叩かれたりもしているが、それなりに幸せそうだ。今度、赤ちゃんも生まれるらしい。


赤ちゃんといえば、ススムの家は引っ越した。

引越しの挨拶に来たススムは、もうすっかりお兄さんの顔になっていて、身重の母親の為に、ドアを押さえたり荷物を持ったりしていた。

一緒に、不思議を体験したことも忘れてしまっているから、ススムは僕達に、あっさり別れを告げた。

僕達も、何も言わず見送った。


それしかできなかった。


僕達、僕とカイとチエリはあの神社に来ていた。

チエリはあの深紅のワンピースを着ている。

「これはきっと、シノブの血だから。シノブが確かにいた証拠だもの」

そういうチエリに、深紅のドレスはとても良く似合っている。

シノブが消えた場所に、持参したお茶をかけ、円錐のお香を焚く。

「シノブ、確かにいたよね」

生きていたよね。チエリの言葉に僕達は頷く。


シノブは死んだわけじゃないと、僕達は知っている。

いや、シノブという子供は確かに生きていた、と言ったほうがいいのかもしれない。

ここにはいないけど、ただそれだけだ。『シノブの存在』には関係がない。

「俺らが覚えてれば、いいだろ」カイが言う。

「そうね」チエリが膝のレースを愛しげに弄ぶ。

甘い香りが一瞬立ち込めて、すぐに風に吹き飛ばされる。


「私、生きるわよ」

ぽつりとチエリが言う。

「生きていたいなんて、改めて思ったこと無かったけど。年をとるって、嫌なイメージしかなかったけど」きゅっとフリルを握る。

「私は生きて、ちゃんと年をとって、結婚して、子供を産むわ」

顔をあげてきっぱりと言う。

「生きていかなきゃ。宿題もらったもの。シノブの、命をかけた願いだもの」

だから、待っていて、ね。

チエリの呟きは風に乗って空へ吸い込まれる。

「それが、私の願いだわ。生きて、シノブを産む。私がシノブを幸せにする」

何が代償として相應しいのか解らないけど。

呟くチエリにカイが言った。

「じゃあ、俺、父親な」

「え?!」

思わず僕はむせる。

「何でよ!」

「いいじゃん。俺だって、シノブの存在に関わりたいし。チエリが母親なら、俺が父親だって構わないだろ」

「構うわよ!カイはナチュラルに女たらし、ううん、人たらしじゃない。私、いやよ。感受性ゼロ、しかも浮気性の旦那なんて」

「っていうかさ、カイ、チエリを、好きだったの?」

「よく、わかんねーよ。そういうことって。誰かを好きだと思っても、それが他の人と口もきいちゃいけないようなことなら、誰のことも好きになんかなれないと思うしさ」

カイが顔をしかめる。

「…ただ、チエリがどうとかっていうよりも、俺も幸せなシノブに会いたいんだよ」

わがままだけど、それが俺の願いかな。

カイの言葉にチエリが呆れたように微笑む。

「仕方ないわね」

シノブがそれが幸せだと願うのなら、きっと叶っちゃうわね。

僕は、色々と複雑だけど、チエリが笑顔ならそれでいいやと思うことにした。

きっと、シノブもチエリが笑っていることが望みだろうし、チエリを笑顔にするのはカイの得意技だし。


「ユウスケは?」

チエリが僕を覗き込む。

「僕?」

僕の願いは決まっている。

今日、三人一緒に発動させようと決めてから、ずっと考えて、考えて、やっと見つけたんだ。

「内緒、じゃだめ?」

「言えないようなことなのかしら?」い

たずらっぽくチエリが微笑む。

シノブ、見たか?

これは僕があげた笑顔だ。

僕はちょっと誇らしい気持で天を仰ぐ。


まあ、もったいぶるような事でもないから、(改めて言葉にするのは恥ずかしいけど)僕は二人に教えてあげた。

「…さすがっていうか、ユウスケらしいよな」

それっていいよな。カイの言葉に僕は胸がいっぱいになる。


僕はカイになりたかった。

カイは僕のヒーローだった。

カイになって、チエリを笑顔にしてあげたかった。

シノブを守ってあげたかった。

ススムやミサキに頼られたかった。


でも、カイは言う。

「ユウスケはユウスケだろ」

「ユウスケはユウスケだから、いいのよ」

チエリも言う。

僕って、僕らしいって何なのかわからないけど、僕の大好きな二人が言うんだから、きっと僕って捨てたものじゃないと思うんだ。


僕は考えたんだ。

地球征服したって、責任とれないし、やりたいことなんか思いつかない。

欲しい物は、いつか自分で手に入れられる。


だから。


『忘れたくない。

 カイ、チエリ、シノブ、ミサキ、ススム、そして僕。

 生きてここにいた。

 この子供の時間を、ずっと覚えていたい』


卵を使うと、忘れてしまう。

それが約束。

卵が勝つか、僕の願いが勝つか。

賭けみたいなものだけど、でも、僕の願いはこれしかない。

子供に過ぎない今の僕の精一杯を、僕は、大事にしたいと思うんだ。

この願いが、ささやかなのか、大それたものなのか。

代償に何を持ってかれるかもわからないけど。


「そんじゃ、ま、願ってみますか」

カイの言葉に僕達は頷く。

「発動しなかったらどうする?」

「その時はその時だ。発動するまで試すんだな」

シノブが無事に誕生するか見守りあうんだよ。

カイが笑う。

「大丈夫よ」

チエリが晴れやかに笑う。

「シノブが待ってるんだから」


 三人で深呼吸して、片手を重ねる。

 風が僕達を包み、チエリのレースを優しく揺らす。

 僕達は頷きあい、それぞれの『卵』を握りしめる。


 願い。

 そして。


 発動。


<終>



何が幸せなのかは、それぞれが勝手に決めちゃってもいいんじゃないかと思います。

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