〜6〜
用事を終わらせ、彼は気になっていたことを解消しにいった。
「あら、真一君じゃない。」
そこは昔からお世話になっている病院だった。
「今日はどうしたの?」
「ちょっと検査に。」
検査の結果は彼にとっては幸せだったのかもしれない。
彼の心臓は恐怖によって確実に蝕まれていた。
医者からは自宅で過ごすか、入院するか選択肢を渡された。
彼は入院することを選んだ。
入院してから数日後、ある女性が来た。
それは瑠璃だった。
「調べてきたよ。瑠璃と僕の関係について。
ずっと気になっていたんだ。」
「そう。」
「お父さんは元気なの?」
「もう死んじゃった。」
「そうか。瑠璃も僕と一緒なの?」
「真一ほどきつくないけどね。
これからどうするの?」
「そうだ、人間って羽が生えてるの知ってた?」
「どうしたの?急に?」
やっとふたりの会話に笑みがこぼれた。
「人間って生まれた時から羽が生えてるんだ。
いや、羽から人間が生まれてくる。
それは永遠に消えることなく、常に存在している。
みんな羽の大きさはバラバラなんだけど、大きくなくちゃ空を飛べないんだ。
この世界は一日中曇っていてね、一生晴れないんだ。
羽が大きい人はある程度まで大きくなったら、雲の上に飛んで行ってしまう。
小さい人は大きい人に嫉妬し、貶し、上の世界に興味すら持たない。
そして羽が大きい人は小さい人の羽を大きくする。
その結果羽が大きくなるんだ。」
「上の世界って?」
と、瑠璃が興味をもった。
「晴れているんだ。」
「それだけ?」
「ああ。だけど簡単には上に行けないんだ。
雲の中を通らなくちゃ行けない。
こいつが厄介でね。下手すると羽が小さくなって下に落ちてしまう。
一人で上に行く人もいれば、複数で行く人もいる。
全員行けるわけじゃないけどね。」
「上にいる人は何してるの?」
「雲の中に落ちないように飛び続けてる。
自分から下の世界に行く人もいるけどね。
そして一生に何回か羽を落とすんだ。
それを下の世界にいる人が拾う。」
「拾うと?」
完全に瑠璃はその話にのめり込んでいた。
「羽が大きくなる。
光を浴びた羽は不思議な力があるんだ。」
「なるほど。それで真一は羽を落としたいの?」
「近いけど、ちょっと違うな。
さらにその上に飛んで生きたいんだ。」
「まだ上があるの?」
「ああ。」
「どういう世界?」
「診察の時間です。」
看護婦さんが入ってきた。
「今日はここまで。」
「えっ、ちょっと!」
「話はまた今度。」
「明日もまた来るから!」
「いいけど、明日はいないよ。」
「なんで?」
「上に飛び続けることに決めたんだ。」
その日は12日だった。
なぜか痛みが和らいだ気がしていた。