〜1〜
彼は愛がほしかった。
ただそれだけだった。
他のものは何もいらない。
だって彼は愛がなければ死んでしまうのだから。
それが始まったのは彼が物心つく前だった。
毎年過ごす、じめじめした夏の昼間。その時彼の母は日頃の育児の疲れ、夫がいなく独りで育てなければならないという重圧にひどく疲れ果て、彼の行動につい感情的になり、手をあげてしまった。
ただそれだけだった。
それなのに彼は突然痙攣しはじめた。母はそれに見入ってしまった。突然のことだったから。彼の痙攣が生命の鼓動のようだったから。いやただ何もできなかったのかもしれない。痙攣がすぐ治まると同時に母は我に返った。
「真一、真一。」
母は彼の心臓に呼びかけた。だが問いかけに反応しない。
そして止っていた時間を取り戻すかのように彼を抱いて近くの病院に急いだ。診察の間短い髪をかきむしりながら母はずっと悔いていた。自身の人生の罪と名のつくすべての事を懺悔した。自分のこれまでの報いがすべて我が子に向けられたかのように思えたからだ。そして願った。彼をもう一度この手で抱けることを。
不意にドアが開き医師が母を呼んだ。医師の顔を見るや否や、母は
「真一、真一は!」
「大丈夫です。安心してください。」
すると後ろから彼を抱えた看護婦が出てきた。
「診断した結果どこにも異常は無いと思います。絶対とは言えませんが健康なお子さんです。」
医師の言葉を聞き母は安心する前に混乱した。先ほどの痙攣は何だったのだろう。母は何がなんだかわからなくなった。
それから彼に対して嫌悪の念に近い物を感じたとき、似た様な出来事が何度か起こった。
だが彼が成長していくにつれ症状が和らいでいったかのように思えた。