表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Survival Project  作者: 真城 成斗
八・喪失
89/138

喪失 4

 思わず目を見開いて、途端に、じわっと目頭が熱くなった。このままじゃ多分、感情が爆発する。〝特殊生体化に喰われるよ。堪えないとマズいんじゃないの?〟頭の隅で冷静にそう言った自分がいたが、俺はその忠告を無視した。


「親友が――ジンが死んだんです」


 口にした瞬間、信じられないくらい身体が震えて、まるで時間が寸断されたような感覚に襲われた。メロヴィスの胸元を、異形と化した手で縋り付くように握り締める。


「俺っ、ワケわかんなくて……! 特殊生体だからって、何で死ななきゃいけなかったんだ!? 何で諦めちまったんだよ! 魂とか心とか、俺にはわかんねぇ!」


 溢れ出した涙と声を、メロヴィスの胸に叩き付ける。彼は黙って、背中を撫でてくれた。


「もう会えないなんて、嘘だろ? あいつは俺よりもずっと強いのに! 俺は何も気付かなかった。苦しんでいたことに気付こうともしなかった。最期にあいつは泣いてたんだ! 死を選ぶしかないなんて、そんなことあるわけないのに!」


「クレス……」


「俺は何もできなかった……何もできなかったんだ! ジンはずっと傍にいてくれたのに!」


 その先は、自分でも何を言っているのかよくわからなかった。ただひたすら、声を上げて泣いた。メロヴィスはずっとそれに付き合ってくれて、俺が落ち着くまで、優しく抱き締めていてくれた。


 これだけ感情を爆発させても、俺の視界は赤くならなかったし、破壊の衝動は俺を駆り立てなかった。……メロヴィスのおかげだろうか。彼の雰囲気は、何となく義父に似ている。素直にそれを伝えると、メロヴィスは「せめて兄にしてくれ」と冗談めかして笑った。


 伝い続ける涙と、真っ暗になった思考。メロヴィスに促されるまま、俺は案内された部屋のバスルームで、古びたシャワーを捻った。呆然とした頭のまま、熱い湯で身体を流した。割れた鏡に、ひどい顔の自分が写っている。その頭を乗せているのは、化け物以外の何者でもない異形の体。こんな姿で、よくメロヴィスは抱き締めてくれたものだ。


 身体は思いの外冷えていたようで、湯に触れた肌がじんじんと痺れた。


 ――リィナの苦しみを対価に生まれて、挙句に彼女を殺したのは俺達だ。


 そういえばユーグも似たようなことを言っていた。王宮騎士はみんな、リィナの混沌系統魔術から生まれたのだろうか。


 ……リダとテイルも? だとしたら、リダに〈クリア〉の効果が現れたのはなぜだ? かけられていた魔術を解かれただけなら、魔術による干渉から身を守る〈クリア〉では意味を成さないはずだ。


 ミドールが特殊生体駆除協会に作られた国だということを、二人は知っているのだろうか。


「……知らないわけがない」


 俺は大きく深呼吸をして、しかし自分で思ったよりもずっと不安気な足取りで、バスルームを出た。脱衣場に俺の着ていた服は無く、代わりに古いシャツとパンツが置いてあった。袖を通すと少し埃っぽいような感じもしたが、血塗れの服よりずっとマシだった。


 部屋に戻るなり、ポイッと何かが飛んできた。受け止めると、真っ赤な林檎だった。


「ごめん、それの他には固いパンしかない」


 申し訳無さそうに言ったメロヴィスに、俺は首を横に振る。齧り付いて、その甘い果汁を飲み下す。


「……。ライムはどうしてます?」


「部屋で眠ってる。というより、気を失っていると言った方がいいかもしれない」


「テイルとリダは?」


「テイルは一度目を覚ましたけど、水を飲んでまたすぐに眠ってしまった。リダも一緒にいる」


「どこの部屋ですか?」


 メロヴィスは「右隣」と答えた。俺は頷いて、ドアへ向かう。


「何する気なんだ?」


 苦笑混じりのメロヴィスの横を通り過ぎながら、俺は言った。


「テイルには悪いけど、叩き起こす」


「……私も同席していいかな?」


 振り向いた俺に、メロヴィスが澄んだ瞳を鋭く光らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ