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Survival Project  作者: 真城 成斗
八・喪失
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喪失 3

 階段は更に上へと続いている。俺はジンの弓から外れた宝石を拾い上げ、階段を駆け上がった。途中に扉は無く、石の回廊はまるで塔のように上へ上へと伸びて行く。そして、この階段はまさか幻覚ではないかと疑い始めた頃、光に照らされた青黒い扉が見えた。


「…………」


 そこで、はたと気付く。ジンもヴェネスもいない今、ここに照明は無いはずなのだ。どうしてあの光を見つけるまで、何の問題も無く階段を駆け上がってこられたのだろう。


「俺の眼、いつの間に暗視スコープ搭載されたんだ」


 鏡に俺を写したら、果たして俺だとわかるのだろうか。


 俺は溜め息を吐いて、光の先に進んだ。その時だった。


「悪いな、クレス。ここまでだ」


「えっ――」


 ヴェネスの声が聞こえた途端、カッと目の前が赤く輝き、全身が浮遊感に襲われた。


「ちょっと!? おい!?」


 既にお馴染みのこの感覚は、変化系統高位魔術〈ワープ〉だ。魔導力なんてとっくに尽きたとずっと体言しているくせに、何回高位魔術を使う気なのだ。


「ふざけんなっ!」


 俺をどこに飛ばす気だ!?


 捨て台詞を引き摺って、俺は雪の大地に放り出された。


「ふがっ!」


 大地に顔面を擦りつけて着地。ぶつけた鼻を押さえながら身を起こすと、そこは真新しい血肉の臭いが漂う廃村だった。


「…………」


 振り返ると一階のカウンターが大破した宿屋があり、二階に明かりが灯っていた。元いた場所だ。まだみんなここにいるのだろうか……。


「ヴェネスの奴、次に会ったらシバき倒してやる」


 俺は身体を起こし、宿屋の中へ向かった。


「クレス!?」


 驚いたような声に姿を探すと、階段のところにメロヴィスが腰かけていた。彼は目を丸くしながら腰を上げると、足早に階段を下りてきた。彼の無事な姿に、俺はホッと胸を撫で下ろす。


「メロヴィス様……身体、もう大丈夫なんですか?」


「あぁ、私は大丈夫。それよりクレス、ヴェネに付いて行ったんじゃないのか?」


「えぇ……そうなんですけど。突っ返されてきました」


 するとメロヴィスは眉を寄せて首を横に振った。


「ずぶ濡れじゃないか。何があったんだ?」


 メロヴィスの言葉に、俺は返答に困って目を逸らす。そんな俺に、メロヴィスは深くを追求しようとしなかった。


「とにかく、また無事に会えてよかった」


 メロヴィスは穏やかに微笑んだ。だが彼の顔にはヴェネスが気になるとしっかり書いてある。


「ヴェネスの奴、馬鹿なこと考えてるみたいです」


「……馬鹿なこと?」


 首を傾げたメロヴィスに、俺は頷く。


「この国が巻き込まれたのは、やっぱり自分のせいだって」


 言うと、メロヴィスは俺にゆっくりと手を伸ばした。その手は俺の頭をポンポンと優しく撫でた。


「ありがとう。自分も大変だろうに、ヴェネのことを心配してくれてるんだな。でも、あいつなら心配要らない。きっと何か企んではいるんだろうけど、それにクレスを巻き込むのが危険だと考えたから、ここへ戻しただけだ。ヴェネ自身に死ぬ気もない。あいつ、良いのか悪いのか、私の命令は絶対だから」


 メロヴィスはしっかりとした口調でそう言って、俺の頭から手を下ろした。


「命令って……死ぬな、とか?」


「まぁ、そんなところだ」


 メロヴィスは頷くと、笑みを消して表情を改めた。


「ところで……ハルに会ったよ」


「ハルに!?」


「あぁ。〈ワープ〉でここへ辿り着いた時には、もう息絶えていたが」


「そんな!」


 目を見開いた俺に、メロヴィスは悲しそうに俯いた。


「その反応だと、彼は生きていたのかな。……体温がすっかり下がりきっていて、手足は凍傷で壊死していた。眼だって見えていたのかわからない。彼らには、本当に申し訳ないことをしてしまった。いや、あの二人だけに限らないな……」


 あの牢屋での彼は、まさに執念で生きていたということだろうか。そしてメロヴィスとヴェネスへの憎しみを抱いたまま、息絶えた。


「ヴェネスを追わなくていいんですか? カンカンになって追いかけてくるはずだって、ヴェネスは言ってました」


「もちろん追う。でもみんなの回復が先だ。満身創痍で挑んでも、勝ち目なんてない。ヴェネだって、それは承知の上だろう」


「……。何があったか訊かないんですね」


 俯くと、メロヴィスは苦笑を浮かべた。


「ここには温かいミルクも、甘いハチミツも無いからね」


 彼の言う意味がわからず、俺は顔を上げて眉を寄せた。メロヴィスは肩を竦めた。


「ヴェネ曰く、その二つが無い時に質問攻めしようなんて、言語道断らしい」


 不意に、メロヴィスの腕が俺を引き寄せた。逞しい彼の胸に額がぶつかって、血の臭いの中に、薄っすらと心地良い香りがした。まさか抱き寄せられるとは思わず、「わっ」と驚きの声を漏らした俺の上に、優しい声が降ってくる。


「辛かったな、クレス」


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