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Survival Project  作者: 真城 成斗
八・喪失
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喪失 2

「あのコ」


「っ!」


「クレスの〝存在〟を外側から切り崩すなら、ライムは適役でしょうね。貴方をこの世で一番強く認識して、貴方自身、彼女を心の支えにしている――心の弱い貴方は、もう何度彼女に助けられたの?」


「やめろ……やめてくれ! あいつにはもう手を出すな!」


 懇願した俺に、リィナは「クスクス」と愉しそうな笑いを漏らす。ひんやりとした白い指先が二本、俺の唇に触れた。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。あのコは殺さないわ。殺すならもっと早くに殺してる」


 間近に迫ったリィナの容貌は美しく、その妖艶な笑みに、俺は息を呑んだ。肌がザワザワと粟立ち、恐怖に身が竦む。


「彼女にはね、クレスを救う良い方法を教えてあるの」


「!?」


「抜け殻の貴方なら、消すのは容易いわ」


「おいっ、どういうことだ!?」


 声を荒げると、リィナは一層笑みを深めて、スゥッと姿を消した。


「――くそっ!」


 ガンッ!


 握り締めた拳で壁を殴り付けるも、悲しみも憤りも苛立ちも、ひたすらに募るばかりだった。


「俺はクレスだ! アルベルトなんてもういないんだよ!」


 頭を抱えて小さく被りを振ると、なぜか視界が歪んだ。過去の記憶が戻ってくる。もう何度目になるか分からない感覚に目眩を起こし、俺は床に膝をついた。


「うぁっ……?」


 ――アルテナ、俺達は二度、神に逆らった。


 縦横無尽に走るコード。濁った緑色のカプセル。点滅する小さな光。


 ――私達の行いを赦さないのは、神だけじゃないわ。でもね、代償を怖いとは思わないの。報復が来るなら戦うまでよ。


 ――はっ、おまえらしい。


 口の端を上げて笑ったディーナ。傍らに寄り添うアルテナ。


 ――ねぇ……ディーナ。成功したんでしょう?


 ――あぁ。あとはこいつが暴走しないことを願うばかりだ。


 ――仮にそうなったとしても、策はあるわ。大丈夫よ。


 ――上手くいく保証は無い。


 ――上手くいったわ。少なくともここまではね。きっと大丈夫。


 ――どっからその自信が湧いてくるんだか。


 ――だって、愛は無敵でしょう? 貴方は私を信じてくれたじゃない。


 ニコッと笑ったアルテナに、ディーナは少し驚いたような顔をした。


 ――誰かをこんな風に愛する自分なんて、想像もしなかった。


 ――うぅん、きっと今の貴方が本当の貴方よ。そもそも私、協会の為に好きでもない男の子どもを産もうなんて、これっぽっちも思ってなかった。


 ――えっ……。


 ――この話が持ち上がった時、私は断れば殺される立場だった。でも、自分で死を選ぶこともできたの。


 ――俺の目が覚めなかったら、どうする気だったんだ?


 ――賭けには勝つって確信してたから。……でもね、どんなに貴方との関係を正当化しようとしても、私達がやっているのは呪われた所業。それに変わりは無いわ。


 ――それでも今は、何よりもおまえやこの子達を守りたいんだ。


 ――そうね、私もよ……。


 開かれたカプセル。横たわっている血塗れの少年。しかしよく見ると傷は一つも無い。血で汚れているだけだ。


 ――さぁ、クレス。家に帰ろう。


 ディーナの腕に抱かれた俺。


 そうか……これは、あの森での出来事と繋がるのか。


 でも、特殊生体駆除協会にこんな施設があっただろうか。


 ……わからないことだらけだ。


「ライムのところへ……ライムを助けないと」


 戻ってきた薄暗い視界に、俺はフラフラと立ち上がった。ヴェネスを探して、彼がいた場所に顔を向ける。


「ヴェネス!?」


 声が聞こえないと思ったら――ヴェネスが倒れていた場所には影一つなく、慌てて辺りを見回してみても、姿はどこにも無い。


「あいつ……!」


 あんな身体でどこ行きやがった!?


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