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Survival Project  作者: 真城 成斗
六・捕らわれの鎖
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捕らわれの鎖 12

 これは駄目だ。逃げ切れない。


 そう思った次の瞬間、振り下ろされた爪がとうとう背中を掠ってきた。


「っ!」


 俺は女王の守護者(セイヴザクイーン)を抜きながら後ろを振り返り、一気に両生類との間合いを詰めた。ヌルヌルでテラテラの表皮が目前に迫り、俺は勢いに乗せて、そこに刃を突き立てた。


 ジュブッ!


 嫌な音と共に刃が特殊生体の中に入り込み、引き抜くと同時に生ぬるい液体が溢れ出した。しかしこの特殊生体は結構な階位の強さらしく、それでは全く怯まなかった。刃を意に介した様子も無くそいつが身を捻った次の瞬間、俺はマトモに尻尾の打撃を喰らってしまった。


「ぐあっ!」


 凄まじい衝撃が全身を駆け抜け、俺は辺りの壁や鉄格子にガンガンぶつかった後、水面を突き抜けて氷の床に叩き付けられた。喰らったのは打撃のはずなのに、胸は斬撃に裂かれたような傷口を広げている。水に埋もれた床の上を転がりながら、俺は目を覚まさないヴェネスを必死に抱えていた。


「俺も特殊生体なんだ。共食いしようとしてんじゃねぇよ」


 洒落にならないことを呟きながら、俺は軋みを上げる体を無理やり引っ張り上げた。


 間違っても、ここで意識を飛ばすわけにはいかない。


 俺は緑色の特殊生体を睨み付けながら、何とか体勢を立て直した。


 ――が。


「わっ!?」


 突如右足を何かに絡み取られ、俺は水の中に引き擦り込まれた。咄嗟に息だけは止めたものの、ヴェネスの体を手放してしまう。恐らくさっきの特殊生体の仕業だが、暗くて状況がよくわからない。途中、伸ばした左手で鉄格子を掴んだが、無駄な足掻きに終わった。


 息が続かず、堪らず口から気泡が漏れる。流れ込んできた水は、痛い程に冷たい。


 駄目だっ……飲んじまった!


「がぼっ……」


 何かを掴もうと伸ばした左手。すると、その手首を誰かが掴んだ。全身全霊でそれを握り締めると、釣られた魚よろしく俺は宙を舞った。


「げほっげほっ!」


 床に投げ出された格好のまま体を丸め、俺は水を吐きながら必死に酸素を貪る。咳込んでいる俺の視界の端に、誰かの足がある。口元を拭いながら視線を上げると、そこにはよく知った顔があった。


「……ジン!?」


 大きく目を見開いて驚愕の声を上げた俺に、彼はニッコリと笑う。


「ここは逃げることを優先するよりも、戦わないと。本気の君なら、あんな奴は敵じゃないはずだよ」


 からかうような、優しい声が降ってくる。思わずパッと顔を輝かせると、不意に彼の双眸から光が消えた。


「さっさと戦って、とっとと〝クレス〟を失ってよ。何の為にあいつを君にけしかけたと思ってるの?」


「えっ……」


 絶句した俺に、ジンの口元が不吉に歪む。俺の知らない笑い方だった。


「それとも、君にかけた魔法を解こうか? 怖がりのクレスがびっくりして腰を抜かさないように、これでも配慮してあげたんだ。そのせいでやる気が出ないなら、本当の姿で相手してもらうよ」


 ジンはゆっくりと特殊生体に手を翳した。


「ほら……早く戦って勝たないと。ヴェネスが溺れて死んじゃうよ?」


「!」


 言われて、俺はハッとしてヴェネスの姿を探した。だが、暗くて見つからない。


「ジン、頼む! 辺りを光で照らしてくれないか!?」


「……クレス。君は本当に馬鹿だね。どうして君が俺に頼み事してるの?」


 ジンは呆れたようにそう言って、暗闇の奥へ歩いて行った。少し離れた所からザバァッと音がして、そこに光が灯る。ジンがヴェネスの髪を掴んで、彼を壁にもたれかけさせたところだった。


「ジン! そいつ俺の友達なんだけど、今はコンディション最悪なんだ! もうちょっと丁重に頼むよ!」


「クレス、おもしろいこと言わないで。こいつは別に死んでもいいけど、〝友達〟の安否を気にしてたら、君が本気になれないだろ? だから助けてあげただけだよ」


「おまえ、そんな……!」


 ジンのあまりの言い様に言葉を失うと、ジンはまた、俺の知らない笑みを浮かべた。


「〝クレス〟を繋ぎ止める鎖は少ない方がいい。心配しないで。彼には手を出さない。俺は彼には興味無いからね」


「俺を繋ぎ止める鎖……?」


 ジンの不思議な言い回しに首を傾げながらも、俺はチラリと特殊生体の様子を窺う。驚愕に目を見開いた。


 暗闇の奥にぼんやりと浮かぶ青い発光体。骸骨がぼろ布を身に纏い、巨大な鎌を持って宙に浮いている姿のようにも見える。いや、そうとしか見えなかった。


「レイス……!?」


 さっきジンが言っていた、「君にかけた魔法を解こうか」とはこのことだったのだ。俺が追われていたのは、両生類のような姿をした特殊生体ではない。十九階級特殊生体のレイスだ。俺は両目をゴシゴシこすったが、何度見てもレイスだった。


「――ってことは」


 幽霊さながらのその姿。ゴクリと喉を鳴らした俺に、レイスは両手の中にボゥッと生み出した何かを、凄い勢いで飛ばしてきた。


「!」


 ガッ!


 咄嗟に大剣の影に身を隠すと、そこへぶち当たってきたのはボロボロの髑髏だった。さっき俺が鷲掴みにしたのは、コレだ。レイスはどこかに埋まった誰かの躯を、その手に呼び出す力を持つ。


「マジかよ……」


 ――もう一度言う。


 幽霊とかお化けとか、絶対無理!


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