表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Survival Project  作者: 真城 成斗
六・捕らわれの鎖
70/138

捕らわれの鎖 9

「足元、凍ってるから気を付けろ」


 ヴェネスが言って、先頭に立って歩き出す。ツルツル滑る床に足を取られながらも、俺は彼に続いた。


「なぁ、どうしてジルバはこんな悪趣味な牢獄を作ったんだ?」


 尋ねると、ヴェネスは少しだけ俺の方を振り返った。


「昔、ジルバは王政だったんだ。ジルバの王族は魔導の扱いに長けていて、強力な魔術でこの地を治めていた。でも、王族の血統と強大な魔導力を守る為に、血を濃くし過ぎたんだ。王族の力は衰退していった。こんな寒冷地だから、力の無い者が治めようとすれば、当然襲ってくるのは飢餓だ。反乱を恐れた王族は、優れた戦士や魔導師を、魔獣憑きとして虐殺し始めた」


「魔獣憑き……?」


「あぁ。ずっと昔、氷の魔獣がここらの土地を荒らしていたのを、当時の王族が魔術で倒したっていう伝説があるんだけど――その魔獣が人間に乗り移ってまた悪さを企んでるって。それで、気に入らない奴を手当たり次第に捕まえて、この牢獄に閉じ込めた。一週間で潮は満ち引きを繰り返して、ここは何度も極寒の海に沈んだ。普通の人間じゃ、到底生き残れない。何人かの魔導師は魔術で身を守って生き残ったらしいけど、そうすると魔獣だから死なないんだとか言われて、もっと酷い目に遭って殺された。でも、そんなことをしていたら遂に革命が起こって王族は滅んだ。以来、革命の中心になってた公爵家が国を治めることになった」


 不意にゾクッと背筋に悪寒が走り、俺は後ろを振り返った。当然、真っ暗な廊下が暗闇に溶けるまで続いているだけだ。


「気のせいか……」


 呟くと、ヴェネスはなぜか声を潜めて続けた。


「だがな、クレス。王族達はみんな、革命軍に倒される前に殺されていたらしい」


「え?」


「死んだはずの戦士や魔導師達が、氷の海から蘇ったのさ。彼らは悪政を敷く王族達を滅ぼした後、煙のように姿を消した。だからこそ革命は成功したんだ」


「死んだ奴が……蘇った?」


「そう。そしてここには、彼らの怒りと怨念が渦巻いてる」


 ヴェネスがニヤリと笑い、フゥッと背後を冷たい風が通り抜けた――ような気がした。


「……って、おい。何してんだ、クレス」


「無理無理無理無理っ! 幽霊とかお化けとか、絶対無理!」


 呆れた顔のヴェネス。俺の体は、全自動かつ全力でヴェネスの背中にしがみついている。


「てめっ、離れろ! 男にしがみつかれても楽しくねぇっ!」


「楽しくなくていいんだよ! こうしてないと俺が怖い!」


「はあっ!? おまえ、もうちょっとプライドは無いのかよ!?」


「プライドなんて地上三センチあれば十分だ!」


「低いなオイ!」


 ヴェネスのツッコミを受けながら、俺はヴェネスの背中を握り締める。


「うぜぇ! そんなのただの伝説に決まってるだろっ」


 ヴェネスは苦々しげに舌を打ち、俺を引き摺るようにして歩を進めた。


 暗闇に二人分の足音が響き、ヴェネスの白い光が照らす範囲以外は何も見えない。どこまで続くかわからない通路と肌を刺すような寒さが、ひたすらに不安を掻き立てた。


「なぁ、気になってることがあるんだけど」


「何だよ?」


 ヴェネスは少し不機嫌そうな口調で応じた。俺は少し悩んでから、尋ねた。


「ヴェネスに魔術を教えたのって、クレイっていう人じゃないのか?」


「……っ!」


 ヴェネスは驚いた様子で目を見開き、俺の顔を見た。


「魔導属性も、(カイト)じゃないんだろ。……コーラーって何?」


 質問を重ねると、ヴェネスは黙ってしまった。俺から目を逸らし、小さく溜め息を吐く。


「何でそんなとこ聞いてんだよ」


 ヴェネスはぼやくように言った。


「だって気になったんだから、仕方ねーだろ」


「……。内緒だ」


「えぇっ?」


「おまえには言わねー」


 ベ、と舌を出したヴェネス。俺は食い下がった。


「だって、コーラーなんて聞いたこと無いぞ!? 魔導属性はそりゃ、たくさんあるけど……。それに、何で自分の呪文隠してたんだ?」


「えぇい、うるさい! それ以上しつこいと、無理矢理引っぺがすぞ」


 ヴェネスは鬱陶しそうにそう言って、彼にしがみついている俺の手を引き剥がそうとする。


「あぁっ、無理無理っ! もう聞かない、聞かないから!」


 慌てて首をブンブン振ると、ヴェネスが突然足を止めた。ドンッと彼の背中にぶつかって、俺はヴェネスの後頭部で鼻を打った。


「あたっ!」


 反射的に声を出すと、ヴェネスに「しっ」と怒られた。何やら耳を澄ませている様子のヴェネスに倣うと、カチカチカチカチ……と、何かが小刻みにぶつかり合う音が聞こえた。


「何だ?」


 ヴェネスが銃に手をかけながら、ゆっくりと歩を進める。そんな彼に張り付いて、俺はおっかなびっくり歩を進める。向かって左側の牢獄の奥に、何かが蹲っていた。


「おい、誰だ……?」


 鉄格子の向こうに、ヴェネスは問いかけた。カチカチという音が止んで、蹲っている影が小さく動く。


「ヴェネス……?」


 低く唸るような男の声。途端に影が動き、こちらへ飛びかかってきた。


 ガシャンッ!


 彼の体は鉄格子に阻まれて、大きな音を立てた。彼は服を着ておらず、金色の髪は凍り付いて、手足は紫色に変色していた。


「何でヴェネスがここにいるんだ!? 姉さんは!?」


「ハルこそ、どうしてこんなところに!? ――リィナにやられたのか!?


 おいクレス、いい加減に離れろ。こいつはミレイの弟のハルだ。お化けでも何でもないっ! ハル、今出してやるから、少し下がってろ」


 俺を振り払って魔力を紡ごうとしたヴェネスに、ハルは「やめろ!」と声を荒げる。ヴェネスは驚いた表情でハルを見た。


「俺がここで生きてる限り、姉さんがリィナに殺されることはない。リィナにそう言われたんだ」


 挑むようにヴェネスを睨んだハルに、俺は思わず目を伏せる。ヴェネスも言葉を失っていた。


「……何だよ、その反応」


 自分でも最悪のシナリオは想像しているのか、ハルが僅かに怯んだ。ヴェネスは少し躊躇った後、ゆっくりと首を横に振る。ハルが大きく目を見開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ