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Survival Project  作者: 真城 成斗
一・外れた鍵
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外れた鍵 6

 俺とライムの間に血の繋がりは無いが、彼女の両親は、生まれたばかりの状態で捨てられていたらしい俺を拾い育ててくれた。何でも、俺にとっては義母であるアルテナの出産が間近であると報せを受けて帰路を急いでいた義父のディーナが、雪道に滑って転倒。その拍子に、ごみ箱の陰で衰弱していた俺を見つけたらしい。


 寒い雪の日だったそうだ。俺は彼らとは何の繋がりも無かったのに、その日産まれたライムと共に、クライス家に迎え入れられた。


 ディーナとアルテナ。特殊生体駆除協会で、この二人の名を知らない者はいないだろう。二人は特殊生体駆除協会の十八階級に所属し、大陸のあちこちで数々の武勇伝を打ち立ててきた、美男美女のおしどり夫婦だ。二人とも膨大な魔導力を持つと共にそれを扱う技術にも長けており、特にディーナは魔導剣士として名を馳せていた。ディーナにかかれば、氷晶輪舞(フローズン・ロンド)は貫いたものを一撃で凍らせる極寒の刃となる。俺は魔術を使えないので、単に技の型を真似ているだけだ。


 そんな二人の娘だからこそ、ライムの魔導力は強大だ。腕が追い付いてくれば、いずれは二人のいた階級に手が届く可能性も高い。


 だが、十八階級だった彼らですら殺されてしまったのだ。復讐を果たすなら、俺達が目指すべきは二十階級だろう。俺達がそこへ行くには、まだまだ程遠い。俺が魔術を使えない分、もしかしたら一生かけても難しいかもしれない。


 先刻俺は、いざとなれば王宮騎士がいるとジンに言ったが……二人が死んだ時ばかりは、その最強の騎士達を恨んだ。


 なぜミドールにそこまで強力な特殊生体が現れたのか。なぜ侵入を許したのか。なぜもっと早く助けてくれなかったのか。俺達を守ってくれるんじゃないのか……。


「――レス、クレス!」


「えっ? ごめん、何?」


 思考に沈んでいた俺は、ライムに声をかけられてハッと我に返った。見ると、ライムが怪訝そうな顔で首を傾げている。


「大丈夫?」


「おまえが心配してくれるなんて。明日は洗濯物を干せそうにないな」


「何でよ?」


「雨ならともかく、もし槍が降ったら、服が駄目になるだろ」


 その言葉に、ライムが頬をフグのように膨らませる。膨らみ過ぎて物凄く不細工だ。


「あーあ。だからクレスはクレスなのよ」


「おい、今俺を全否定しただろう!」


「最初から肯定されてないわよ」


 ズバッと言われて、軽く凹んだ。


「そんなことより、今回の依頼よ。いつ来たか覚えてる?」


「そんなことって何だよ」


 ブツブツ言っていると、「クレス?」と急かされた。


 依頼がいつ来たかって?


 俺は立ち上がり、棚の引き出しをゴソゴソと漁った。取り出したのは、特殊生体駆除協会から届いた封筒だ。中身は今回のレッドウルフ退治についての依頼書。日付を見ると、ちょうど三日前。


「俺のも同じ頃だ。少なくとも三日前まで協会は稼働していて、寄せられた依頼を処理して、協会員に分配する機能があった。ん~、今もあるのかな?」


 協会からの依頼は、配達専門の協会員が依頼書という形で指定先に届けてくれる。もちろん協会に直接赴く方法もあるが、協会まではそれなりに距離もあって面倒なので、ほとんど配達に頼っている。


「行ってみようか」


 不意にジンが言った。


「行くって、協会に?」


「うん。それが一番早いと思うんだ」


「まぁ、確かにな。俺達の出る幕じゃないとは思うけど」


 俺は頷いて、ライムに視線を移した。ライムは大きく頷く。


「私も賛成。明朝の出発で構わない?」


「決まりだね。ところでクレス」


 ジンはそう言って立ち上がると、両手を腰に当てて、少し怒ったように俺を見下ろした。


「な、何だよ」


「俺に話すことあるだろ? 片付けはライムに任せて、部屋に行こうよ」


 まるで自分が家主のような言い草である。そこには俺に有無を言わせない威圧感があった。


「話すことって……」


「あるだろ?」


 ズイッと前に出て、ジンはニッコリ笑う。言わなきゃシメる、と顔に書いてある。


 俺は片付けをライムに任せ、ジンと共に二階の自室へ上がった。


「適当にくつろいで」


 部屋の戸を閉めながら促して、ベッドの脇にマットレスと毛布を広げた時だった。


「――っ!?」


 突如猛烈な目眩に襲われ、グルンッと視界が反転した。よろけた俺を背の低い棚が受け止めるが、飾っていた小物やら何やらが、派手な音を立てて床の上に散らばった。


「クレス!?」


 慌てた様子でジンが駆け寄ってくるが、俺は何が起きたのかよく分かっていないまま、ほぼ条件反射的に「大丈夫」とだけ返した。


 俺は頭を押さえて、近くの壁に身を預けた。視界は靄がかかったようで、その靄の向こうに何かがぼんやりと浮かんでいる。


 ――へぇ。珍しいな、君の魔導属性。あんまりいないよね。


 ――わかるんだ……凄いね。それなら、どうせ使えないのもわかるだろ。


 ――使えないの?


 ――俺には魔導力が無いんだ。意味無いよ。


 ――何言ってるんだよ。そんなの気分次第。それ、君の守る力なんだから。


 靄の先に、何やら覚えのある会話をしている二人がいる。声変わりも終えていない俺と、ほんの少しだけ、面影に幼さを残した少年。確かジンと初めて会った時の会話だ。当時、俺は捨て子である上に魔導の才が全く無い為、低等学院でイジメに遭っていた。昼休みにコソコソと校舎裏で弁当を食っていたら、特殊生体駆除から帰ったばかりだというジンが、フェンス越しに話しかけてきたのだ。以来、彼はよく俺に世話を焼いてくれるようになり、今では親友だ。


 しかし、なぜ今そんなことを思い出したのだろう。しかも目眩付きで。


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