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Survival Project  作者: 真城 成斗
五・闇と交わす口付け
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闇と交わす口付け 12

「林檎の芯は灰になった。水分は吹っ飛んだし成分も崩れたに違いない。この灰が林檎の芯の残骸。そして俺の集めた魔力は炎になった。じゃぁ、その炎は何になった? イメージを具現化して熱エネルギーになって、それで本当に終わりか? 俺は、魔力なんていう不思議な力がここで尽きるとは思えないね」


 ヴェネスの言わんとしている事がわからず、俺は眉を寄せた。無い頭を必死に絞りながら唸って、一つだけ思い付いた。


「……魔力と同じだ。何になるのか、わからない奴がいる」


 呟くと、ヴェネスが頷いた。


「そう。特殊生体はあれだけの質量と存在感を持ちながら、死ねば三日と経たずに消えちまうんだ。確証は無いけど、アレは魔術っていう奇跡の残骸なんじゃないかっていうのが、俺の持論なんだ」


「奇跡の残骸……」


「その奇跡の残骸の影響を受けちまうのが、今のおまえなんじゃないか? 本来はこの世のどこかで特殊生体になるはずの奇跡の残骸が、身体の中に留まっちまうんだ。それで特殊生体化が進行する。――でも、いいか? あくまで仮定、何の根拠もない俺の妄想だからな」


 ヴェネスは念を押すようにそう言ったが、魔力と特殊生体が繋がっているという考えは、あながち的外れでもないのかもしれないと思った。


「一瞬にして特殊生体になる人間と、ゆっくり特殊生体化が進行する俺やリダの違いはなんだろう。リダは黒い光を浴びた後、ライムの〈クリア〉でその光を取り除いたんだ。そのせいで進行が遅いっていうならわかるけど、俺は黒い光には当たってないんだ」


 すると、ヴェネスが「えっ!?」と大きく目を見開いた。


「リダが特殊生体化って?」


「あっ……」


 そういえば、口止めされていたのを忘れていた。俺が口に手を当てて固まっていると、ヴェネスは低く唸り、顔を歪めた。


「マジかよ。じゃぁ、あの痣……」


「見たのか? リダのは俺のよりずっとひどい。まるで亀裂みたいだった……」


「亀裂? 俺が見た時はただの痣だったぜ? それじゃ、何だよ、クソッ!

 リダの奴、そんな大事なこと黙ってたのかよ!」


 ヴェネスはギリッと歯を鳴らし、右手を握り締めた。


「なぁヴェネス、特殊生体化が魔術のせいって……どういうことなんだ? そんな魔術は聞いたことないぞ」


「聞いたこと無くても、関係してるのは間違いない。そうじゃなきゃ、そもそも〈クリア〉が効くはずないんだ。〈クリア〉はあらゆる障害を取り払う万能の魔術だけど、怪我なら原因に拘らず何でも治せるような〈フェアリーブレス〉なんかとは違って、魔力に関連したものにしか効かないんだ。ということは、〈クリア〉が効果を発揮したリダの特殊生体化は、魔術に起因してるはずだ。……よし。クレス、ちょっといいか」


 言って、ヴェネスは俺に右手を翳した。ぶわぁっとヴェネスの髪や衣服がはためき、強い力が彼に集まっていく。ヴェネスの掌から蒼い光が溢れ、まるで水晶の洞窟にでも迷い込んだかのように、辺りが美しい輝きに包まれた。恐らくこれは精神系統最高位魔術〈クリア〉を発動させようとしているのだろうが、ライムが使った時と比べると、まるで桁違いの輝きだ。


「ウォルト・クレイ・カイト・ヴェネス――」


 ヴェネスの静かな声が、低く呪文を囁いた。


「〈クリア〉!」


 柔らかな風が俺達を包み、オーロラのような光が一気に炸裂する。辺りの空気が宝石にでもなかったかのように美しく輝き、全身が滑らかな絹のヴェールに覆われたかのように心地良い。


 やがて光がゆっくりと薄れて消えると、ヴェネスは玉のような汗を額に浮かべながら、大きく息を吐いた。


「今の、割と全力に近いけど。どうだ?」


 ヴェネスは荒い息を繰り返しながら尋ねたが、俺の左手に変化は無かった。悔しそうにヴェネスが顔を歪める。


「クソッ、駄目か」


 ヴェネスはドスンと床に座り込み、後ろに両手を付いて、苦しそうな顔で天井を仰いだ。首を伝って流れて行く大粒の汗が、彼がどれだけ俺の為に力を使ってくれたのかを如実に物語っていた。


「ヴェネスの魔導力は風属性(カイト)なのか」


「ん? あぁ。……クレスは?」


防御(パラディ)


「あぁ、それっぽい」


 ヴェネスは笑って、手の甲で目元の汗を拭った。


「一瞬で特殊生体になっちまう連中と、ゆっくり特殊生体になるクレスとリダ。でも、リダは前者の奴らと同じ様に黒い光を浴びていて、おまえは浴びていないんだよな。……俺の集めた魔力がライムに劣るとは思えねぇ。俺がリダにもう一回〈クリア〉を試して……それでもし効いたとしたら、クレスを特殊生体にした奴とリダを特殊生体にした奴は別人ってことか?」


 ヴェネスは眉間に皺を寄せて考え込み、やがてワシャワシャと頭を掻き毟った。


「わっかんねぇ! とりあえずメロヴィス様に報告する」


 ヴェネスはそう言って立ち上がると、魔導力の使い過ぎで気分が悪くなったのか、若干ふらふらした足取りで部屋のドアへ向かった。彼は俺を振り返り、ぐいっと顎で促す。


「おまえも一緒に来い。そんで……」


 ヴェネスは言葉を切ると、少し照れたような、困ったような笑みを浮かべた。よく見ると顔が真っ白だ。


「ごめん、吐くわ」


 言うなり、ヴェネスはド派手に嘔吐した。


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