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Survival Project  作者: 真城 成斗
一・外れた鍵
6/138

外れた鍵 5

*   *   *


 シャワーでさっぱりした体と、夕焼け色の美しい空。可愛らしい白のスカートを揺らすライムから香る、ふわりとした石鹸の匂い。それから、たっぷりの鶏肉と新鮮な魚介。


 特殊生体との戦闘後、一旦解散して身の回りを片付けて、すっかり夕暮れ刻。ジンを招いた食卓に、俺は料理を並べていく。


「キャロットライスに、ホワイトシチュー、鮭のムニエル、タコの三食マリネ、デザートはプリン。……何か文句は?」


 尋ねると、ジンが小さく笑った。


「全部、大好きだ」


「それならよかった。俺も作りがいがあったよ」


 俺は笑みを返して、食卓に着く。


「いただきま~す」


 言うなり、いきなりプリンに手を付けるライム。


「ん~、美味しいっ」


「ありがとう。でも普通デザートは口直しに食べるんだよ?」


「半分今食べて、半分後で食べる」


「あぁ、そう」


 幸せそうにスプーンを咥えているライムは、何とも可愛らしかった。今日は爆炎に晒されたり雷を落とされたり無意味に蹴られたりと散々な扱いを受けたのに、そんな風に思ってしまう自分に苦笑。もういいかと水に流すことにして、俺はシチューを頬張った。白ワインで煮込んだおかげで、鶏肉はいい具合に柔らかくなっている。


 空腹も手伝って、俺達はしばらくの間ひたすらに食べ物を口に運んでいた。だが、全員が何度目かのお代わりをして鍋底が見えてきた頃、ライムが口を開いた。


「そう言えば、クレス知ってる?」


「何を?」


「海の向こうで戦争。ジルバ公国だっけ。騎士が反乱起こしたらしいわよ」


「内乱みたいなもんか。でも、何で?」


「詳しくは知らないけど、特殊生体が絡んでるみたい。国が特殊生体に襲われて混乱してるのに乗じて、何とかっていう騎士が反旗を翻したとか」


 ライムは言うと、半分残していたプリンに手を伸ばし、美味そうに口に運んだ。すると、同じくプリンを頬張りながら、ジンが言った。


「その話、俺も聞いた。内乱はともかく、海の向こうでも特殊生体が大量発生してるってことだよね……一体何が起こってるんだろう」


「協会に大きな動きが無いのも妙よね。こんな事態じゃ、全協会員が招集されてもよさそうなのに」


「そもそも、協会からの依頼と実際が違いすぎる」


 ジンは呟き、小さく息を吐いた。


「もしかしたら、協会が正常な機能を果たしていないのかもしれないね」


「おいおい、それどういう意味だよ?」


「ミドール王国の周辺は、元より平和極まりない。でもレイヴンの森を越えたら、それなりの特殊生体がいるだろう? ミドールですらブラッドマンティスなんだから、森の向こうにある協会はもっと強い特殊生体の襲撃を受けているかもしれない」


「でも、レイヴンの森なんてすぐそこよ? 協会が機能しなくなるような事になってるなら、ミドールの王宮騎士が黙ってないわよ」


 俺は「う~ん」と唸りながら立ち上がり、冷蔵庫から余分に作っておいたプリンを取り出した。


「でも、まぁ心配無いだろ。それこそ、王宮騎士から何も警告は出てないんだし」


 ミドール王国王宮騎士団は、騎士達の中から貴族平民を問わずに選ばれた精鋭七人によって成る、最強の騎士団だ。平和な王国の軍に所属しているにも関わらず、彼らの戦闘能力は大陸一とまで言われている。気候が安定している上に特殊生体が少ない地域にあるミドール王国を欲する国は多いが、侵略を阻み同盟関係を結ぶ方向へ導いているのが王宮騎士の存在と言っても過言ではない。


 俺はテーブルに戻り、ジンの前にプリンを置いた。


「ジン、これ食べていいぞ」


「えっ?」


 ジンが少し驚いたように俺を見る。一方で、ライムが大きく見開いた目を輝かせながら、じっと俺に視線を送ってくる。


「ライムのは無いぞ。おまえはいつでも食えるだろ」


「あはは。……じゃぁ、悪いな、ライム。俺もクレスのプリン好きなんだ。もらうよ」


 嬉しそうに二個目のプリンを食べ始めるジンに、ライムが口を尖らせる。


「クレス、食べ物の恨みは深いのよ」


「作るのは俺だ」


 俺は意地悪く口の端を上げてみせた。だが、ライムはしばらく俺をじっと見つめていたかと思うと、おもむろに食卓を離れて、冷蔵庫を開けた。その顔に、満足そうな笑みが灯る。


「さっすがクレス」


 ニコニコしながらもう一つ余分にあったプリンを取り出して、食卓に持ってきた。


「……あんまり食い意地張ってると、豚になるぞ」


「クレスのご飯が美味しいのが悪いの」


「そりゃどうも」


 俺は苦笑して、二人が美味そうにプリンを食べているのを眺めた。こういう時間は、俺にとってのささやかな幸せだ。いつか特殊生体退治を辞めて飲食店で働くのもいいかもしれないと、たまに本気で考えてしまう。


 ……だが、俺にとってその道は有り得ないものだ。


 六年前、俺達が今いるこの場所で、ライムの両親が特殊生体に殺された。リビングに敷いたカーペットの下には、色こそ薄れたが、夥しい量の血痕が残っている。俺とライムは当時現場にいたのだが、詳しい事は頭に霞がかかったように思い出せない。唯一覚えているのは、飛び散った肉片と真っ赤な血の海の中、茫然自失としているライムを抱き締めていたことだけ。ライムはその後、随分と長い間、笑うことを忘れてしまった。


 二人が殺された日、ライムは俺の腕の中で「許さない」と凍り付いた声音で呟いた。「父さんと母さんを殺した特殊生体を、いつかこの手で引き裂いてやる」と。それが、俺達が特殊生体駆除協会に入った理由だ。


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