表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Survival Project  作者: 真城 成斗
五・闇と交わす口付け
55/138

闇と交わす口付け 6

*   *   *


「何だ、クレス。今度は夜這いにでも来たのか?」


 ドアを開けて俺と目が合うなり、そう言われて愕然とした。


 そんな俺の反応に構わず、リダはライムに視線を移し、困ったように眉を寄せる。


「何だ、泣きっ面そのままにして。顔くらい洗ってこい」


 リダはライムの頬を親指でこすり、入室を促すようにドアを大きく開いた。ライムは照れたように笑って、「洗面台借りるね」と、部屋の中に入っていった。


 それを見送って、リダは鼻を鳴らした。


「顔が随分明るくなったじゃないか。さっきまで死にそうだったのに」


「あはは……」


「それで冷静になって、私に疑問を訊きに来た? 単純だな、おまえも」


「……。よくわかりますね」


 苦笑して、リダに続いて部屋の中に入る。奥のベッドでは、テイルが静かに眠っていた。


「リダ、タオル借りるよ~?」


 洗面所から声が聞こえて、「あぁ」とリダが短く応じる。いつの間にそんな仲になったのだろうと驚いていると、間もなくライムが部屋に戻ってきた。


「ありがとう、リダ」


「構わない」


 リダは言って、テーブルの椅子に腰かけた。


「おまえとテイルが来たこと、メロヴィスには伝えておいた。テイルも目を覚まさないし、詳しい話は明日でいいそうだ。……それからクレス、言いそびれていたんだがな――私のことを『リダ様』なんて呼ぶ必要は無い。敬語を使われるのも好きじゃないから、普通でいい」


「いや、でも……」


 するとリダはテイルの方を振り向いて、淡々とした口調で言った。


「敬語を使われると、アレの顔が出てきて腹が立つ」


 まるでテイルを嫌っているかのような台詞だった。先刻は「彼を失う方が恐ろしい」と言っていたのに。それともあの言葉は〝王宮騎士団の一員であるテイル〟として、言わば戦力を失うことが恐ろしかったのだろうか。そんな風には見えなかったが……。


「リダって、テイルのこと嫌いなの?」


 ……ライムの奴、聞きにくいことをサラッと聞きやがる。


 するとリダは片眉を上げて一瞬黙った後、「さぁな」と小さく肩を竦めた。


「とにかく、リダでいい」


 年上というだけならともかく、能力も格上で身分は天上。ビビリの俺としては慣れない行為だが、実行しないと怒られそうだ。高確率で、猛禽類の一睨みという特典まで付いてくるだろう。


「えぇっと……じゃぁ、リダ」


「あぁ」


「義父さんと義母さん――ディーナとアルテナのことで何か知ってることがあれば、教えて欲しい」


 尋ねると、リダは俺とライムを交互に見た後、首を横に振った。


「親しくしてもらってはいたが、二人については良く知らない」


「え?」


「ミドールが強力な特殊生体の少ない平和な地域だったことは、おまえ達も知っての通りだ。戦が頻繁にあるわけでもない。それにも関わらず、ミドール王国軍の強さは大陸でも有名だった。……理由の一つは、王宮騎士団が中心となって常に実戦に身を投じていたからだ。私達ミドール王国軍は、強力な特殊生体が出現する地域に赴いて、王宮騎士の指揮の下、特殊生体退治をしていた。それがミドールに戦が少ない理由の一つでもある。訓練の為に軍隊を駐屯させてもらう代わりに、その国に不利益を齎している特殊生体を倒す。最初は特殊生体退治を理由とした侵略を恐れてそれを受け入れない国もあったが、まぁ、しばらくしたらそれも無くなったな」


「ミドール軍って、そんなことしてたのか?」


「あぁ。力のある者が弱い者を守るのは当然だろう? ――というのは、もちろん私ではなく団長の持論だがな」


 もちろん。そう言い切ってしまうリダに、俺は苦笑いを浮かべた。


「ディーナさんとアルテナさんは――何が楽しかったのか、よくその特殊生体退治に同行していた。特殊生体駆除協会の上級会員なんだから、自分達の仕事も山積みだったろうに。……ただ、本来の目的は訓練のはずなのに、かなり本格的な戦闘になることもしばしばでな。危険の大きい特殊生体退治もあったから、二人の存在は私達にとっても心強かった。そんな調子だったから、何度か軍にも勧誘したんだが、それは毎回断られたよ」


 もしかしたら戦闘の後で兵士達と一緒にタダ酒飲んで、大騒ぎしたかっただけかもしれない。リダはそう付け加えた。


「私はミドール国内に留まっていることが多かったから、二人のことはよく知らないんだ。他国の特殊生体退治に赴いていたのは、団長のエルアント、クローヴィス、フィラルディンの三人がほとんどだったな」


「ちょっと待て。王宮騎士団長が国を空けていたのか?」


「団長が不在の時は、副団長のセンジュがいたから問題無い。むしろセンジュの方が事務仕事は早かったよ。センジュが死んでからは、団長が他国の特殊生体退治に行くことは少なくなったがな。聞いた話では、ディーナさんとアルテナさんは、いつもおまえ達の話ばかりしていたそうだ」


 リダの言葉に、俺とライムは顔を見合わせた。ほらな。ライムが両親に愛されてなかったなんて、嘘だったじゃないか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ