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Survival Project  作者: 真城 成斗
四・裏切りと崩壊
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裏切りと崩壊 8

「ぬおっ!?」


「うわっ!?」


 キョロキョロしていると、知らない声とテイルの驚愕の声が耳に飛び込んできた。驚いてそちらを見ると、ドサドサッと派手な音を立てて、テイルが床へ押し倒された。


「テイル!?」


 なぜかテイルの上には、黒い軍服姿の黒髪の青年が乗っていた。テイルは頭を打ったのか、倒れたまま動かない。


「んっ」


 すると黒服の青年が小さく声を漏らし、顔を顰めながら身を起こした。眉間に皴を寄せてゆっくりと目を開き、そして――


「え……?」


 彼は微かに疑問の声を漏らした後、頬を赤らめて、気を失っているテイルの顔を凝視した。彼は少し躊躇った後、あろうことかテイルの口唇をそっと指先でなぞり、そこへ自分の唇を近付けていった。


 俺はあまりのことに声をかけるタイミングを失い、口をパクパクさせながら、それを見ていた。


「うぅ……ん」


 しかし、そうしている間にテイルが小さな声を漏らし、瞼を震わせながら目を開いた。


「!?」


 途端に、超驚愕の表情がテイルの顔に広がる。


 刹那。


「ふっ!」


 鋭い呼気と共に、テイルは右手で青年の襟首を掴み、更に左手で袖を握って、青年の体を上方へと引き上げた。青年が声を上げる間もなく、テイルは青年を右足で勢い良く蹴り上げた。


「ぐぇっ!?」


 蛙が潰れたような悲鳴を漏らし、青年の体が思いっきり吹っ飛び、背中から壁へと突っ込んでいく。テイルは青年を投げ飛ばした勢いのまま、後方回転して立ち上がった。目にも留まらぬ早業だった。


 バンッ!


 見事壁に激突した青年は、ハエタタキに潰されたハエが壁から剥がれ落ちるかのように、床の上に転がった。


「なっ、何だ今の……!」


 テイルは動揺している様子で口元をゴシゴシと拭い、俺を涙目で睨んだ。


「見ていたなら止めてくださいよ! 何で僕が男と……!」


「だ、大丈夫。未遂だ……」


 唇を手の甲で押さえながら叫ぶテイル。俺が斜め上のフォローを入れながら呆気に取られていると、転がっていた青年がモソモソと起き上がった。床に座った状態のまま、ぼんやりとした目で彼は呟く。


「僕? ……男?」


 ゆっくりと首を回してテイルに視線を移した青年は、微かに驚いたような表情を浮かべた。彼はテイルの顔を見ながら自分の口唇に指で触れ、少しの間思案顔になり、吹っ切れたように頷いた。


「まぁいいや。イケる」


「全然よくありませんッ!」


 テイルが叫ぶが、青年は全く悪びれた様子もなく立ち上がる。


「何だよ。どう見ても二十歳過ぎの男が、純情気取っても気色悪いぞ?」


「そういう問題じゃないでしょう!」


 好奇心の強そうな黒い猫目が特徴的な青年だった。顔立ちは精悍で、真っ直ぐに伸びた背筋は彼の雰囲気を堂々としたものに見せているし、服の上からでも全身がバランス良く鍛えられていることが窺える。


 だが、その容姿を全て無駄にする発言が、躊躇いもなく青年の口から飛び出してくる。


「え。おまえくらい綺麗な男なら、喜んで抱くけど」


「いっ……」


 変態という単語は、彼の為にあるに違いない。テイルの顔はみるみるうちに引き攣っていく。


 しかし彼はドン引きしているテイルを他所に、変わらぬ口調で続けた。


「さて。おまえらがクレスとテイルだな? 俺はジルバ公国騎士のヴェネス・グレイアスだ。ジルバ公国近衛騎士隊隊長、メロヴィス様の命によりおまえらを連れに来た」


 どこかで聞いたことのある国名に、俺は眉を寄せた。……そうだ、ジルバ公国といえば、確か騎士の一人が反乱を起こしたとかで内乱中の国だ。


「ジルバ公国って、海の向こうのジルバ公国ですよね? 僕はともかく、どうしてクレスのことまで?」


 テイルは、彼をやや警戒している様子で尋ねた。


 ヴェネスと名乗った青年はテイルの問いには答えず、俺とテイルを交互に見比べた。


「なるほど。黒髪のおまえが、王宮騎士のテイル。で、冴えないこっちがクレスだな。ミドールの生き残りは四人だけ?」


 冴えない、というのが気になったが、「生き残りは四人」という言葉の方が重要だった。


「だから、どうして僕達のことを?」


「残りの二人、リダとライムに聞いたからさ。多分ここにいるから迎えに行けって言われたんだ」


「リダとライムが!?」


 うん、とヴェネスは飄々とした態度で頷いた。だが、一方で俺は、勝手に震え始めた体に顔を引き攣らせていた。ヴェネスは続けた。


「二人とも、魔術でこっちに飛ばされてきた。怪我の治療は済ませたし、元気でいるから安心して」


「そうですか……ありがとうございます」


「おう」


 ヴェネスはニッと人懐こい笑みを浮かべて、俺に視線を向けた。


「おい、クレス。何だか顔が青いけど、大丈夫か?」


「あぁ……少し疲れてるだけだ」


 俺は頷いて、ヴェネスから目を逸らした。ヴェネスは俺の態度を不審に思ったようだったが、何も聞いてこなかった。


「リダとライムのところに案内するよ。向こうに着いたら、二人ともゆっくり休むといい。本当はすぐにでも戻りたいけど、まだ三人分の〈ワープ〉を使えるほど俺の魔導力が回復してないんだ。だから悪いけど、もうひと踏ん張りしてくれ」


 ヴェネスはそう言って口の端を吊り上げ、不意に腰から銀色の銃を引き抜いた。すると突如勢い良く部屋のドアが開き、同時にヴェネスの銃が連続して火を噴いた。ドア付近に一瞬見えた何かはそれを察したのか、素早くドアの影に身を潜めた。ヴェネスは開いたドアの方に銃口を向けながら、そちらへと歩を進める。


「お客さんはもてなさないとな」


 見ればテイルも、いつの間にか戦闘態勢である。


 新たな特殊生体の出現に気付いていなかったのは、どうも俺だけらしい。


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