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Survival Project  作者: 真城 成斗
四・裏切りと崩壊
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裏切りと崩壊 3

「クレス!」


 振り下ろした剣が何かに止められて、テイルが目の前に現れた。


 そう……コレだ。


 ゾクゾクと背が震えた。


「クレス、しっかりして!」


 テイルの怒鳴り声。ハッと我に返ると、俺から距離を取り、糸を指に絡めているテイルの姿があった。重々しい音を立てて大剣が俺の足元に転がり、同時に、残っていたマリオネット二体がテイルの糸に切り刻まれた。


 パタパタと真っ白な液体が落ちる。


 それはマリオネットからだけではなく、俺の右手の甲からも零れていた。


「テイル?」


 あれほど高まっていた熱が消え去り、思考が不意に澄み渡る。俺は一体、何をしたんだ。


「クレス……よかった……」


 安堵したように表情を緩めたテイル。彼が糸を使って、俺の手から剣を打ち払ったのだろう。多分その時に甲が裂けたのだ。


 それなのに、痛みが全く無い。


「そんな……」


 俺はテイルにどんな顔を向けたのだろう。きっとひどい顔だ。


「俺、おまえに剣を向けて――殺そうとしたのか?」


 テイルと分からなかった? いや、そうではない。俺は彼を認識した上で、剣を振り上げた。そうだ、彼を殺そうとした。その行為に快楽すら覚えて。


「嘘だろ……これが特殊生体化? ――こうなるのがわかっていたから、あの時テイルは俺を殺そうとしたのか?」


 畳み掛けるように尋ねる。体が震えて力が入らないのは、恐怖のせいだろうか。


「クレス、落ち着いて。あの時は僕が――」


 間違ってた。


 テイルはそう言いたかったのだろう。しかし彼が言い終わる前に、突如膝の力がガクンと抜けてしまって、俺はその場に倒れ込んだ。


「クレス!?」


 駆け寄って来たテイルが俺の傍らに膝を付き、僅かに顔を青褪めさせた。俺はなぜか上手くいかない呼吸を不規則に繰り返しながら、彼を見つめていた。


「失礼します!」


 言うなり、テイルは俺の服の留め具を次々と外し、シャツを胸元まで引き上げた。


「こんなに……!?」


 俺の服を掴んだまま、テイルは愕然とした様子で呟き、顔を歪めた。


「どうしたんだ?」


 掠れてしまう声で尋ねて、俺は首を動かし、自分の身体を見下ろす。


 体の至る所に刻まれている傷。中の肉が覗くほどに深い傷口から、嘘のような量の白い血が溢れ出していた。


「何だ……これ」


 呆然として呟く。だって、痛みなんて欠片も無いのだ。


「喋らないで。マリオネットの群れに強引に飛び込んだんですから、こうなるに決まってる。……すぐに塞ぎます」


 彼は言うと、俺の身体に両手を翳した。


「〈フェアリーブレス〉」


 優しい光と共に治癒系統中位魔術が発動し、みるみるうちに全身の傷が癒えていく。途端に体が自由を取り戻し、俺は足りなくなっていた酸素を、深く肺に吸い込んだ。


「クレス、大丈夫ですか?」


 俺を心配そうに見つめているテイルは、体の所々に傷を負い、血を流していた。


「大丈夫かって……俺がおまえに聞きたいよ」


「僕は大丈夫ですよ。心配しないでください」


 テイルは苦笑を浮かべ、手の甲で顔の傷を拭った。


「俺……急に体が熱くなって、それからよく覚えてない。痛みも全然感じない。ただ、戦うのが楽しくて――いや、戦いながら、何かが欲しかったんだ。マリオネット達を倒しても、全然満たされない。テイルの持ってる何かが欲しくて、テイルを殺そうとしたんだ。何が欲しかったのか、もうさっぱりわからないけど」


 そう言ったら、テイルは黙ってしまった。


 しかし浮かんできた衝動的な言葉を俺が発しようとしたその瞬間、テイルがピシャリと言った。


「殺してくれ、なんて言わないでくださいね」


「……え?」


「顔に書いてあった。死にたくもないのに『殺してくれ』なんて。そんなこと頼まれるのは、もうたくさんです」


 テイルは俺から離れると、辺りを見回して顔を歪めた。


「僕の部隊はマリオネットに殺されたようですね……」


 エントランスには、崩れ落ちたマリオネット達の残骸だけでなく、蒼い軍服姿の死体がいくつも横たわっていた。どれもみな、全身を無残に切り裂かれている。


 テイルは拳を握り締め、低く唸った。


「クレス達はよくマリオネットと遭遇しませんでしたね」


 俺はマリオネットの残骸を見回し、剣を拾って立ち上がった。


「マリオネット、いたかもしれない」


「え?」


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