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Survival Project  作者: 真城 成斗
三・純白の欲望
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純白の欲望 4

「クレス!?」


 思わずその場に片膝を付き、ライムの声で我に返った。ゆっくりと焦点を取り戻していく俺の瞳を、ライムの濡れた双眸が覗き込んでいる。


「クレス? 泣いてる……大丈夫?」


「え?」


 言われて、慌てて目元と頬を拭う。俺は泣いていた。


 さっきの映像は一体なんだったんだ……。魔術を習っていた時のものと同様、こんな記憶、俺は持っていない。だがあの黒い刃を義父母に向けて振るっていたのは、確かに俺だった。そう、ちょうど二人が死んだ頃の――十二歳の頃の。


「どこか痛むの? ……クレス?」


 不安気に見つめてくるライム。俺は彼女の深い蒼色の眼を凝視し、心の中で唱える。違う、俺じゃない。ライムの両親を殺したのは俺じゃない。絶対に違う。だってあれは特殊生体の仕業のはずじゃないか。


「……大丈夫。何でも無い」


 目を伏せて、辛うじてそれだけ答える。ふらふらと立ち上がり、俺はライムの視線から逃れるように、彼女に背を向けた。


「飯、すぐに作る」


「クレス、本当に平気――」


「大丈夫って言ってるだろ!?」


 声を荒げて振り返ると、ライムがビクリと身を竦ませた。リダの鋭い視線で射抜かれても、微動だにしなかった彼女なのに。凄まじい罪悪感に駆られた。俺はなぜこんなにムキになっているのだ。


「悪い。俺も気が立ってるみたいだ。……慰めに来た意味ねーな。おまえに怒鳴り付けたりして」


 肩を竦めて笑ったが、そこに明るさなど生まれるはずがなかった。ライムは首を横に振った。


「クレス、ねぇ、休んでた方がいいんじゃない?」


「いいよ、身体動かしてた方が楽だ。よしっ……それで、俺は何人分作ればいいんだ? 俺達の分だけでもいいけど、他に怪我人とかいるだろうし、何ならそっちの飯の準備を手伝いに行っても――」


「いないよ」


「え?」


 キュッと下唇を噛んで、ライムが少しだけ俯く。


「生き残ってるの、私達だけなの」


 言葉の意味が分からず、俺は眉を寄せる。


「嘘だろ? だって、レットは!? クローヴィス様と一緒に、城へ来たじゃないか! 怪我人の治療をするって!」


「…………」


 黙り込むライム。途端に、俺の思考は完全に停止した。気付いた時には床の上に崩れ落ちていた。……そう。そりゃぁ、そうだ。他に生存者がいるなら、いくら別棟と言え、食堂がこんなにがらんどうなわけがない。


「レットが死んだって、そんなの有り得ねぇよ。だって、あいつ――まだたったの九つだぞ!? ほんの子どもなのに!」


 悪戯っぽい笑顔が蘇る。彼の振るう軽い剣の手応えも、声も、温もりも、まだはっきりと思い出せる。


「王宮騎士は最強なんだろ!? 何でだよ!? クローヴィス様と一緒にいたのに……あいつは王宮騎士になるのが夢だったのに!」


「クレスっ!」


 パンッ!


「っ!?」


 突如放たれたのは、ライムの平手打ちだった。驚いて彼女を見ると、じっと俺を睨んでいる。


「テイルにもそれを言うの?」


「…………」


 平気な顔で俺達に笑いかけてくれるテイルは、王宮騎士だ。自分のいない間にミドールがこんな事態になって……自責の念は、きっと俺達以上に彼を蝕んでいる。彼を責めることなどできるはずがなかった。


「飲み込めって言うのかよ……」


「わかってるじゃない。ねぇ……部屋に戻って少し休む? 簡単なものなら私でも作れるわ」


 気を遣ったのか、ライムがそっと俺を見上げた。


 俺は首を横に振り、静かに息を吐いた。


「――俺だけ甘えるわけにはいかない」


 言うと、ライムは少し無理をしたように微笑んで、小さく頷いた。


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