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Survival Project  作者: 真城 成斗
三・純白の欲望
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純白の欲望 2

「シャワーと着替え、ありがとうございます」


「どういたしまして。服のサイズ、大丈夫でした?」


「えぇ。でも……変わったTシャツですね」


「あぁ、よく言われます」


 笑ったテイルに笑みを返そうとして、ハッとした。「よく言われます」って、この変なTシャツはテイルの物なのか!?


 驚いてテイルを凝視すると、彼は悪戯っぽく肩を竦めた。


「そういう顔もよくされます。しかもそれ着てると、誰も一緒に出掛けてくれないんですよ」


「着るの!? テイル様が!?」


 素っ頓狂な声を上げた俺に、テイルは不思議そうな顔をした。


「変ですか? いいと思うんですけどねぇ」


 テイルのような美男子が「大盛」などとプリントされたTシャツを着ていたら、世の女性達はどんな反応をするのだろう。……いや、それでもテイルは美しいに違いない。


「そうそう。僕に〝様〟なんて付けなくていいですよ。普通に喋ってください」


「えっ、でも……」


 混乱に紛れてというのならともかく、リダに格の違いを見せ付けられて立場を思い出した今、王宮騎士であるテイルと対等に話すような度胸は無い。


 躊躇っていると、テイルは有無を言わせぬ口調で言った。


「いいから。楽にして」


「いや、え……わ、わかった」


 俺が恐る恐る頷くと、テイルは満足気に微笑んだ。


「ところで……その紙、何見てるんだ?」


 気を取り直して、俺はテイルがテーブルに広げている紙を覗き込んだ。どうやら大陸地図のようだ。


「今後の行先です。リダの居場所もわからないことですし、とりあえず特殊生体駆除協会に向かおうと考えているのですが、どう思いますか?」


「特殊生体駆除協会……」


「ライムにも聞いたんですけど、お二人とも協会員ですよね? 何か知っていることはありますか?」


「ミドールがあんなことになる前日に、友達と一緒に協会へ行ったんだ。イリア草原に大量のレッドウルフとブラッドマンティスが現れて、絶対変だっていう話になったから。そうしたら、協会の人達が死んでた……」


「それは何時頃の話?」


「夕暮れ時だ。協会に行くまでに特殊生体がたくさん現れて、足止め食ってた」


「それなら、僕の部隊の者に会いませんでしたか?」


 言われて、俺は少し驚いた後、首を横に振った。テイルは眉を寄せ「そうですか」と小さく呟く。


「僕達も王国周辺の異常を感じて、随分前から協会と連絡を取り合っていたんです。ただ、どうにもはっきりした回答が出なくて――ミドール壊滅の四日前と当日に、それなりの人数を協会の調査に向かわせていたんです。先発隊が音信不通になって後発を出したのですが、彼らとも連絡が取れなくなってしまって。――そうですか、会いませんでしたか」


「俺はかなり序盤で気絶しちゃったからエントランスの周りしかわからないけど、騎士隊の姿なんて無かった。荒らされた形跡はあったけど、建物中が静まり返っていて……防護壁が下りてたよ」


「防護壁?」


「俺の友達が管理室まで行って防護壁を解除したんだけど、協会にいた人達はみんな死んでたって。騎士隊がいたっていう話は聞いてないから、多分見てないんだと思う」


「…………」


 沈黙したテイルに、俺は知らず拳を握り締めていた。もし協会内で騎士隊に何かがあったのだとしたら、俺もジンも、よく生きて帰れたものだ。


「やはり一度行ってみる必要がありますね。クレス達も一緒に来てくれますか?」


「でも、俺達が行っても足を引っ張るだけかもしれない」


「あの地下通路を抜けられる戦闘力があれば十分ですよ」

テイルは言うと、重たい雰囲気を振り払うようにニッコリと笑った。


「――とりあえず、何か食べましょうか。クレス、ずっと寝入っていて、お腹空いたでしょう?」


「…………」


「そんな気分じゃない、って顔ですね。でも、腹が減ってはなんとやらです」


 そう言われて、俺は渋々頷いた。


「さ、行きましょう。幸い厨房と食堂は無事ですから」


 立ち上がったテイルに促され、俺は部屋を出た。石造りの廊下は、見た目には何ともないのに、微かに血の臭いが漂っていた。床に敷かれた赤い絨毯が、まるで血の色に見えた。


「なぁ、テイル」


「何ですか?」


「協会とのやり取りは、テイルが一人でしてたのか?」


 尋ねると、テイルは苦い顔になった。


「いいえ、団長達も動いていました。でも、圧倒的に対応が遅い。僕でもそう思わざるを得ません」


「やっぱり異変は随分前から……?」


「それほど前ではないはずです。ここ数日で急激に事が進んだようですね。でも、それにしたって遅い。というか、協会へ向かう後続の部隊に、本当は僕も同行する予定だったんです。でも、どうにも嫌な予感がして――単身戻ってみれば、既に国は手の施しようの無い状態に」


 言葉の端々には怒りと慟哭が滲んでおり、彼がそれを必死に抑えようとしているのが窺えた。それでも隠れ切らないその雰囲気に気圧されてゾクリと悪寒が走り、俺は思わず半歩ばかり身を引いた。


「あぁ、そうだ」


 すると思い立ったようにテイルが言った。俺は咄嗟に、ピッと背筋を伸ばしてしまう。テイルは怪訝そうに眉を寄せた。


「何を怯えているんですか?」


「え? うん、何でも無い。えっと、それで、何だ?」


 しどろもどろになって先を促すと、テイルが不思議そうに首を傾げ、続けた。


「僕はちょっと用事があるので、クレスは先に行っていてください。この廊下を真っ直ぐ行くと、食堂の看板が掲げられた扉がありますから。厨房は勝手に入って構わないし、残っている食材も、保存食として持って行けそうなものだけ残して、好きに使って構いません。用が済んだら、僕も手伝いに行きます」


「わかった」


「ライムが随分泣いていたようでしたから、慰めてあげた方がいいんじゃないですか? では」


 勝手に会話を打ち切り、テイルは角を曲がって去って行く。彼の言葉の意味が飲み込めず、俺は目をパチパチさせながら彼の背を見送った。


 ライムが泣いていただって?


「……冗談」


 呟いて、踏み出した足は心成しか早足になる。いつの間にか小走りにさえなっていた。


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