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Survival Project  作者: 真城 成斗
二・紅い舞踏会
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紅い舞踏会 7

「遅くなってすまなかった」


 クローヴィスはレットの前に膝を着くと、上気している彼の頬をそっと撫でた。


「怖かっただろう? ごめんな」


「ん……うぅん、大丈夫です。このくらい平気です! あの……それより、どうしてミドールにサンドワームが? 俺、魔術が得意です。何かできることはありますか?」


 しっかりとした口調で尋ねたレットに、クローヴィスは目を見開く。それから、感心したように言った。


「軍の兵士よりしっかりした子だな。……――ただ、すまない。強力な特殊生体がミドールに出現した原因は、俺達にも分からないんだ。だけど、俺達はこの国を全力で守る。城を避難所として開放しているから、魔術を使えるのなら、城にいる傷付いた人々を助けるのに協力して欲しい」


 クローヴィスの申し出に、今度はレットが目を見開き、それから力強く頷いた。


「もちろんです、クローヴィス様。俺で力になれるなら」


「助かるよ、ありがとう。俺も今から城に戻るから、一緒に来てくれ。――君、名前は?」


「レット。レット・レンジャーです」


「レンジャー! もしかして、お父さんは小説家? ルー・レンジャーのファンなんだ。よろしくな、レット」


 クローヴィスは言って、俺の傍らにいるライムに視線を移した。


「ライム、くれぐれも無茶はしないでくれ」


「大丈夫。任せてください」


「ありがとう、助かるよ。……それじゃぁ、俺はこれで。レット、行こう」


「はい! クレス兄ちゃん、ライム姉ちゃん、気を付けてね!」


 クローヴィスはレットを連れて、駆けて行ってしまった。クローヴィスとライムのやり取りの意味がわからず、困惑している俺を残して。


 するとライムがニヤッと笑った。


「取り乱さないのは、レットの手前? 『任せてくださいってどういうことだ!?』って言うと思ったけど」


「うん、それね。凄く言いたい。言っていい?」


「私達の仕事は二つよ。一つは、町の救助活動に協力すること。もう一つは、自分達の階級よりも強い特殊生体に遭遇したら、一目散に逃げること」


 まだ「どういうことなんだ!?」と言っていないのに、ライムは淡々と説明し始めた。


「安全な城へは行かずに救助活動か。無駄な正義感に溢れてて、おまえらしい」


「正義感? 私は合理的に判断したまでよ。あんた、この緊急事態にお荷物になりたくないでしょ? 魔術も使えない、医術の心得もない。怪我人のいる城へ行って何するの?」


「……。確かにその通りだ。レットに『クレス兄ちゃん何やってるの、邪魔!』とか言われたら立ち直れない」


 俺は頷いて、大人しく力仕事に徹することにした。早足で歩を進めるライムに続いて、町中へと向かう。


「…………」


 そういえば、俺とレットの近くでキャッチボールをしていた親子は無事だったのだろうか。辺りに人影は無く、ガタガタになった地面の上に土砂が散らばっているばかりである。それに――


「ライム、ゼロを見なかった?」


「ゼロ? ……青い顔で公園から飛び出して来たわよ」


 ゼロの名前だけで全てを見透かしたように、ライムが淡々とそう言った。


 次にゼロと会ったら、今度は許さん。全力でぶっ飛ばしてやる。


「そうだ。ねぇ、クレス。さっきの黒い光、見た?」


「黒い光?」


「そう。ちょうど地震が起きた頃――空が赤く染まって、真っ黒な光がそこら中に散らばったの」


「だったら見てないな。文字通りな土砂降りのせいで、空どころじゃなかった。……って」


 広場を出るなり俺の眼に飛び込んできたのは、崩壊した家々や割れた石畳。その上に流れる赤い血と、あちこちから立ち上る黒煙だった。倒れた壁の下から見えている腕は、助けを求めるように伸ばされたまま、動かなくなっていた。


 凍り付いた俺の傍らで、ライムが震える声で呟く。


「嘘……さっきまでこんなじゃなかった」


 思わず立ち止まって辺りを見回した俺達は、崩れた家屋の向こうで揺らめく、不気味な影を見た。


「特殊生体っ!」


 ズルズルと不気味に蠢く、幾本もの深緑色の触手。それらが複雑に絡み合い、人型を形作っている。その姿には、俺達も見覚えがあった。


「ヴァインドロセラ……十二階級なら、いけるな」


 頷き合い、それぞれの武器を構える。だが、何か様子がおかしかった。


 それに気付いた時、俺は思わず息を呑み、ライムは短い悲鳴を上げた。


「何なの、あれ……」


「俺に聞くな……」


 ヴァインドロセラの右足に当たる部分には、足元を空色のパンプスで飾った、すらりとした血塗れの足――人間の女性の足があったのだ。それも、ヴァインドロセラの触手の中に埋もれているわけではない。太腿の辺りから皮膚を食い破るようにして生え出している黒い触手が、胴体を構成している深緑色の触手と絡み合っているのである。更に人間の足の部分からは、俺達が見ている間も次々と黒い触手が生え出してくる。


「どう思う? パンプス履いたヴァインドロセラ。流行の最先端を行く特殊生体だぞ」


「つまんない冗談言ってる場合じゃないっての……」


 ライムが若干後退りをしながら、ヴァインドロセラの方を指差す。その指の先を辿ると、恐ろしいことに、ヴァインドロセラの集団が街路を右から左までぎっしりと覆い尽くして、こちらに迫ってきていた。触手の蠢く音が今にも聞こえてきそうだ。


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