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Survival Project  作者: 真城 成斗
二・紅い舞踏会
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紅い舞踏会 3

 城下町で一番大きな公園には、様々な遊具の他、サッカー場ほどの広場も設けてある。昼間こそ子ども達の声で賑わっているが、夜になれば特殊生体駆除協会員達の軽い訓練場になっている。


 広場には何人か先客がいたが、剣の稽古をするのに、十分な広さは確保できる。俺はレットに準備運動を促し、自分も軽く伸びをして、身体をほぐした。


「よしっ、準備完了! いつでもイケるよ」


 レットはそう言うと、元気良く木剣を構えた。


「じゃぁ、久々に素振りを見せてもらおうかな――って、何だよその顔」


 素振りと口にした途端に、膨れっ面になったレット。千里の道も一歩からというのに、素振りはご希望でないらしい。


 俺は苦笑して、置いてあったレットの木剣袋の中から、もう一本の木剣を取り出した。


「わかった。お手並み拝見だ」


「お願いしまっす!」


 言うなり、レットは両手で剣を構えたまま、ぐっと力んだ。何をするのかと見ていると、風も無いのに彼の衣服がはためき、髪が大きく逆立つ。


 このまま俺が距離を詰めてバランスを崩してやるのは容易いが、何をするのか非常に気になる。ゆっくりと足を引き、剣を地面と水平に持ち上げたその構えは、俺の使う氷晶輪舞(フローズン・ロンド)にそっくりだ。


「フラワシ・エロウ・エレクト・レット!」


「っ!?」


 呪文と共に、少年の持つ木剣が、青白い光を帯びる。


「行くぞっ! 氷晶輪舞(フローズン・ロンド)!」


「嘘だろ!?」


 まさか本当にその技が出てくるとは思わず、俺は素っ頓狂な声を上げた。だが、いくら何でも「これから突きます!」と言わんばかりのレットの攻撃は、当然掠りもしない。冷気を帯びた刃を軽く躱して、後ろから尻を蹴飛ばしてやった。よろけたレットが、前のめりになって奇妙なステップを踏む。


「こら、おまえせっかく魔術使えるんだから、もっと頭を使――えっ!?」


紅円舞(ガーネット・ワルツ)!」


 しかし、レットが体勢を崩したと思ったのも束の間、彼は右足を軸に身を翻し、燃え盛る真っ赤な剣を叩き付けてきた。炎の魔術で包まれた刃を、魔導力の無い俺が受けることは不可能だが――まだまだ隙だらけだ。


「いつの間にパクりやがって」


 言いながら軽く身を躱し、もう一度、後ろから彼の尻を蹴飛ばす。


「あだっ!」


 今度こそレットは、砂埃を立てて地面と熱い抱擁を交わした。しかしすぐにガバッと身を起こすと、何かを期待するような眼で声を張り上げた。


「見ただろ、クレス兄ちゃん! まだ二種類しか使えないけど、俺も覚えたよ!」


「基本からって言っただろう。あれじゃただの的にされる」


「えぇ~」


 レットはガックリと肩を落とし、大きく溜め息を吐いた。そんな彼に、俺は笑って見せる。


「でも、凄かった。驚いたよ」


 するとレットの顔がパッと明るくなって、口元から嬉しそうに小さな歯がのぞいた。


「技は盗めって、父ちゃんの口癖なんだ」


「おまえの父ちゃん、小説家だろ。盗んじゃ駄目だろ」


「クレス兄ちゃん、約束!」


 くだらない上げ足を取りつつも、結局は期待に輝くレットのキラキラした視線に負けて、俺は小さく溜め息をついた。


「わかったよ。……でも、真剣は危ないから、木剣でな」


「やった!」


 ガッツポーズを取ったレットに、俺は講義を開始する。


「いいか、この木剣に一番近いのはブロードソードだ。俺の剣はツーハンドソードだから、さっきみたいに俺と同じ構え方だと威力は出しきれない」


 俺は木剣を右手に構え、レットに少し離れるように言った。


「ブロードソードは、通常は片手で振る。これで突く時は、まず肘を伸ばして、顎を上げる。鼻先で相手を見下ろすくらいでいい。それで、本来ブロードソードで重視するのは連続攻撃なんだが、氷晶輪舞(フローズン・ロンド)を使いたいなら、それを無視することになる。一撃必殺を狙った、大振りの攻撃だ。使い処はよく考えろ」


 一応の長ったらしい説明をしながら、俺は腰の回転を使って右足で踏み込み、肩、肘、手首へと捻りを伝えていく。解き放った一閃は、靴裏が大地を踏みしめると同時に、鋭く宙を切り裂いた。ヒュォンッと風が啼き、レットがピクッと身動ぎした。


「まぁ、これは応用だ。あくまでも基本を守れ」


 じっと俺の動きを見つめていたレットは、「すげぇ」と小さく呟くと、空いたスペースに駆け出してきて、早速剣を構えた。そして、あぁでもない、こうでもない、と試行錯誤を始める。そんな彼に時折アドバイスを加えてやるが、基本に忠実で、剣筋も悪くない。俺の技量では、そのうち教え切れなくなるだろう。


「おい、レット」


「何?」


「おまえ、さっきの剣が燃えたり凍ったりするのは、どうやったんだ? 威力こそ違ったけど、義父さんの魔導剣と同じだ。今は学院の授業でそんなのも習うのか?」


「うぅん。授業で習うのは、ただの〈フレイム〉とか、そういうの」


「じゃ、どうやって覚えたんだ?」


 俺がレットに教えられるのは、剣の振り方だけだ。尋ねると、彼はちょこんと首を傾げた。


「勘」


「え……」


 俺は驚愕のあまり目を白黒させて、目の前にいる少年を凝視した。例えば炎系統魔術なら、下手をすれば木剣自体が燃えてしまっても不思議はない。だが、木剣には焦げ目一つ見当たらなかった。


「松明とか、蝋燭みたいなイメージだよ。木剣が芯の部分で、魔力が油。そしたらできた」


 簡単そうに言うが、特定の物だけを燃やすという芸当だけ見れば、既に大魔導師クラス。どうやらこの少年、将来は大物になりそうだ。


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