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Survival Project  作者: 真城 成斗
二・紅い舞踏会
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紅い舞踏会 1

【 二・紅い舞踏会 】


 気が付くと、俺は自室のベッドの上だった。


「クレス! よかった」


 ジンの歓喜の声が聞こえて、俺はのそのそと身を起こす。何だか頭がぐらぐらする。


「ジン……?」


 頭重感に頭を抱えていると、ジンは「ちょっと待ってて」と言って部屋を出て行き、すぐに氷水の入ったコップを持って戻って来た。


「はい、クレス」


「あぁ……ありがとう」


 差し出されたコップの水を一気に飲み干し、俺は深く息を吐いた。窓の外は既に明るい。


「ジン……あの、俺……一体何があったんだ?」


 尋ねると、ジンは申し訳無さそうに眉を下げた。


「ごめんねクレス、俺が無理をさせたばっかりに」


「無理……あぁ、確かに無理だ」


 俺がマリオネットと戦うなんて、例え空と大地が引っ繰り返っても無理だ。


「クレスを一人にしたのは間違いだった。本当にごめん」


 ジンの言葉に頷きかけて、俺はハッとした。あの時確か、俺はマリオネットの攻撃を全身に浴びて死んだ――と思ったけれど、どうやら生きている。だが、とにかく深手を負ったはずなのだ。


「俺の怪我、ジンが治してくれたのか?」


「いや、ライムだよ」


 軽い口調で答えたジンに、俺は不安になって眉を寄せた。


「ライムが?」


 着ているシャツを恐る恐る捲ってみて、目を見開く。あんなにひどい攻撃を浴びたのに、傷痕一つ残っていない。ライムは治癒系統魔術を、こんなに巧みに操れただろうか。


「どうしたの? お腹でも痛い?」


 ジンは怪訝そうに首を傾げた。


「いや……」


 俺は右手で腹部をそっと撫で、ジンを見上げた。ジンは小さく笑う。


「もしかして夢でも見た? クレスが怪我をしたのは頭だよ」


「頭?」


「レッドウルフに襲われたんだろうね。それは容易く避けたんだろうけど、残念ながら落ちていた空き缶を踏んで転倒。そのまま後頭部を打って脳震盪を起こした。……多分そんな感じ。ちょうどクレスが引っ繰り返ったところを見たけど、俺の方へ空き缶が飛んできたから」


 ジンはおかしそうにクスクスと笑っているが、俺はポカンとして自分の頭に触れる。


「もしかして、覚えてないの?」


「……全然」


 頷くと、ジンは「もう少し休んでなよ」と言って、俺の肩をポンと叩いた。


 マリオネットにやられたのは夢で、現実はレッドウルフに襲われて気絶。……あまりにも情けない。


「マジかよぉぉぅ」


 俺は恥ずかしさのあまり頭を抱え、ベッドの上で蹲った。ジンは声を立てて笑い、ベッドサイドに腰を下ろした。そして、急に真面目な顔になる。


「クレス。結論から言うと、特殊生体駆除協会は壊滅状態だった。でもそうなった理由は全然わからない。防護壁の先にあったのは死体の山だったよ。フローラだけじゃない。みんな殺されていた。……多分、特殊生体にやられたんだろう」


「特殊生体に!?」


「うん、あそこには俺よりもよっぽど腕の立つ協会員もたくさんいたはずだけど……生きてる人は誰もいなかった。俺、もう一度協会へ行って、詳しく調べてみようと思う」


 ジンはそう言って、ズボンのポケットから銀色の何かを取り出した。それを俺に差し出してくるので、何となく手を出すと、ジンはそこに重みのあるブローチのようなものを乗せた。紫の宝石が嵌め込まれた、シルバーの装飾品だった。


「あげる」


 ジンはニッコリと笑って、自分の弓を取り出した。持ち手の部分には、俺にくれたものと同じデザインのシルバーが埋め込まれていた。


「お揃いなんて子どもっぽいけど。離れても繋がっていられるように。俺の傍にはいつもクレスがいて、クレスの傍にはいつも俺がいる」


「……ありがとう」


 爽やかに熱い友情を語るジンに、何だかむず痒くなる。嬉しかったが、気恥ずかしさが先に立った。


「ってか、ジンは俺に守られるようなレベルじゃないだろう」


「そんなことない。俺だって、迷うこともある」


 俺は手の中の宝石を見つめ、それをぎゅっと握り締めた。するとジンが言った。


「ねぇ、それ、クレスの剣に付けていい?」


「できるのか?」


「うん。ちょっと貸して」


 ジンに宝石を渡すと、彼は壁に立てかけてあった女王の守護者(セイヴザクイーン)を引き寄せて、柄の部分にそっと指で触れた。


「〈ヒート〉」


 短く唱えられたのは、炎系統低位魔術だった。高熱の球体を生み出す魔術なのだが、ジンの指先に宿った熱の塊は、周囲の空気を陽炎のように揺らしながら、柄の金属部分を僅かに溶かし始めた。


「器用だなぁ」


「慣れだよ」


 ジンは言って、溶かした金属部分にシルバーを埋め込んだ。


 使い慣れた剣に収まったジンからの贈り物を見つめ、ようやくそこで、俺はその意味に気が付いた。


 ――離れても繋がっていられるように。


 遅いながらも襲ってきた不安に、俺はジンを見上げる。


「なぁ、ジン……任せればいいじゃないか。俺達みたいな小さい力が、単独で何するんだ。必要なら戦闘要員として国から召集がかかるだろうし、このタイミングで動く必要あるのか?」


 するとジンは口の端を吊り上げて肩を竦めた。


「待つのは嫌い。っていうワケでもないけど、何もかも後手後手に回ってる。自分で動かないと、そろそろ気が済まない」


「だったら俺も――なんて、言えるくらい強かったらよかったのに。付いて行ってもまたすぐ戻ってくる羽目になるよな」


 肩を落とすと、ジンは励ますように俺の頭をガシガシと掻き回して、ベッドから立ち上がった。


「そういうワケだから、当分お別れってことで。今日は休んでなよ。頭打ってるんだし」


「えっ!? もう行くのか!?」


「うん」


 俺はベッドから出て、階段を降りて行くジンの背を追った。


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