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Survival Project  作者: 真城 成斗
十一・暗い幻
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暗い幻 2

「ルルカ・ディーナ・バーナ・ライム――」


 ライムは久し振りに、呪文の中に父親の名を加えた。彼女の魔導力を抑える効果があるはずの言葉だが――きっとその効果を覆すほどの確固たるイメージがライムの中にあり、且つディーナのイメージの力も必要なのだろう。


「〈アダム〉!」


 魔力が集束していくと共に、生み出された真っ白な光が、滲むように辺りを照らし始めた。光の中心では強大な力の奔流が巻き起こり、ライムの髪やドレスが勢い良くはためいている。


 特殊生体を人に変える……そんなこと、本当にできるのだろうか。〈アダム〉は極めて人に近い、しかもまっさらな存在を生み出す魔術だったはずだ。俺の元となり、アルベルトが命を落とすことになった魔術……。


「ライム……」


 いや、今はライムを信じるしかあるまい。祈るような気持ちで彼女の名前を呟くと、膨れ上がった真っ白な光が俺とライムを飲み込み、吸い込まれるように意識が遠くなった。


 ――――。


 溢れていた光が収まると、辺りに広がっていた花畑が消え、代わりに薄暗い闇が立ち込めていた。


 見回してみると、床や壁には幾筋ものパイプやコードのようなものが走っており、足元がぼんやりとした光に点々と照らされていた。


「ここって……」


 何となく見覚えがある。記憶を辿ってみて、それは俺自身の記憶ではないことに気付いた。ここは、薄暗い光に照らされた通路を必死に駆けていた二人――リィナとアルベルトが、迫り来る追手から逃げていた道とよく似ている。


 傍らにライムの姿は無い。辺りに人の気配も無かった。


「……あ!?」


 しばらく辺りを見回してから、ようやく俺は自分の身体の異変に気付いた。


「戻ってる……!」


俺の体は、明らかに異形を呈していた腕も、指も、何もかも、すっかり元の見慣れた姿に戻っていた。


「すげぇ……」


 思わず呟き、そして次には嫌な想像に襲われる。混沌系統魔術が発動したのは間違いないのに、なぜ術者であるライムがここにいないのか。強大な魔力を操った為に、それに伴う何らかの影響を彼女が受けてしまったことは十分に考えられる。


「ライム……ライム! どこにいるんだ!? 返事しろ!」


 不安に駆られながら叫ぶと、後ろから誰かの走って来る音がした。


「クレス!」


 聞き慣れた声に振り返ると、体当たりと紙一重の勢いで、ライムが胸に飛び込んできた。


「よかった! どこもおかしいところない!?」


 両の腕を俺の体に回して、ライムは涙の滲んだ瞳で俺を見上げた。彼女の耳では、赤い雫石の宝石が揺れている。


「おまえの方こそ、何ともないか?」


 尋ねるとライムは大きく頷いて、花畑でした時と同じ様に、また俺の胸に顔を埋めた。


「……ごめんな。本当に危ないことさせて。ありがとう」


 言うと、ライムは首を横に振り、小さく鼻を啜った。そんなライムの頭を撫でながら、俺は胸の中にひどく熱い感情があることに気付いた。それは決して不快な熱ではないし、特殊生体化の時のように攻撃的なものでもない。このまま浸っていてもいいくらいだった。


 だが、その時響いてきたズゥゥンという鈍い音と振動に、俺達はハッとして通路の奥に視線を向けた。薄っすらと黒い煙のようなものが立ち込めているのが見えた。


「何だろう」


 何事か確かめに行きかけて、不意にライムが服の裾を引っ張った。


「待って」


「どうした?」


「体調は何ともないの。だけど私、多分今は魔導力を全然使えない。……魔導力なんて持ってないに等しいくらい、魔力の存在を一切感じないの。もし戦闘になっても、魔術のサポートは無いと思って」


 そう言われて、思わず目を見開いた。


「魔導力を使えないって……いつもみたいな吐き気は? 我慢してるのか?」


 薄暗いせいか、ライムの顔色まではよくわからない。だが少なくとも足取りはしっかりしているし、ふらつく様子も無い。


「本当に体は平気なのよ。いつもみたいに魔力の影響を受けた感覚とは全然違う。……それだけだから大丈夫。そんなに不安そうな顔しないで」


 言うなり、ライムは俺の頬を両手でムニッと掴んで引っ張ると、おかしそうに笑った。


「変な顔! 元からだけど」


「おまえな……」


 げんなりした俺の頬から手を離し、ライムは黒煙を振り返る。その時だった。


「吹き飛べっ!」


 怒号と共に、突如黒煙の方向から轟音が突き抜け、通路の壁に何かが激突した。その何かを吹き飛ばしたらしい声の主は、恐らくリダだ。


「何でリダが――」


 言いかけた時、連続した銃声が雨霰のように通路の壁へと叩き込まれた。見れば、壁際で銃弾の嵐に穿たれているのは、全身を血に染めているセンジュだった。


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