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Survival Project  作者: 真城 成斗
九・冷たい花
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冷たい花 7

 長い睫毛が伏せられて、俺を見つめていた蒼い瞳が、震える瞼の奥へと隠れる。驚愕の行動に目を見開きながらゴクリと喉を鳴らし、しばらくの硬直と思考停止の後、俺は小さく吹き出した。


「嫌だよ」


 ライムの片方の目だけが開かれて、彼女は不服そうに「何でよ?」と口を尖らせる。俺は両手を広げ、肩を竦めた。


「誰が好き好んでゲロ塗れの唇とキスなんかするか」


「……あぁ」


 ライムは納得したように頷いて、パタンとその場に横になった。


 ゲロもそうだが――実のところ、俺はわからずにいる。ライムのことはとても大切だ。でも、それを彼女に対する恋愛感情と捉えていいものか……。仮に俺が本当の人間だったとしても、きっと同じ。ライムに投げかけられた想いに流されるような形で、それに応えていいのだろうか。


 まぁ、外見にほとんど人間の面影が無い俺には、もう悩んでも仕方の無いことだが。


「そう言えばコレ……」


 俺はジンの遺した揃いのお守りを取り出して、自分の右腕のそれと見比べた。


「組み合わせてみろって言われたけど……」


 女王の守護者(セイヴザクイーン)と共に右腕と同化してしまったお守りを左手で引っ掻いてみると、途端にポロリと取れてしまった。


「わわっ!」


 コンッ。


 軽やかな音を立ててお守りはライムの前へと転がり、ライムがそれに手を伸ばす。


「これ何? 綺麗ね」


「ミドールの崩壊前に、ジンにもらったんだ。ジンは戦果とか言ってたけど、どういうことだろう」


 ライムが空いた手を差し出してくるので、俺はその手にジンの持っていたお守りを乗せた。


「組み合わせるにしたって、留め具も何も無いけど――」


 言いながら、ライムは両手のお守りの裏側を、恐らく何の気なしに重ねた。


「あれっ? 取れない!」


「えっ?」


 噛み合う部分も無かったと言うのに、確かにお守りはライムの手の中で一つにくっついている。すると、突然宝玉の部分がボゥッと白く淡い光を放ち、透き通ったその中に、何かの模様を浮かべた。


「これ……」


「ミドールの紋章だ!」


 宝玉の中に浮かび上がっているのは、確かにミドール王国の紋章だった。目を見開く俺達の前で、宝玉は熱い程の魔力を滲み出させている。


「この感じ、ジンじゃない。ミドールの地下に満ちてたものと同じだ」


「ミドールの地下って、あの超強力な〈ファントム〉の?」


「うん、この宝玉の持ってる力も、半端なものじゃない」


 そう言うライムに、俺はリダに聞いたミドールの地下のことを話した。ライムの感覚が確かなら、これは王宮騎士団長のエルアントがリダに探せと命じた、王女の力に違いない。


 ライムは目を見開き、光り輝く宝玉を、俺の手の上に戻した。しかし途端に、お守りは光を失って半分に別れてしまった。


「えっ? 何なの、どういうこと?」


 ライムはもう一度俺の手からお守りを取り上げ、二つを重ねた。すると、それらは再び一つになって、ミドールの紋章を浮かべて輝き始めた。


「おまえじゃなきゃ駄目ってことか?」


「わかんない。でもこれを使えば、私の渾身の一撃と同じくらいの威力が出そう。それこそ、私でも死んじゃうくらいの」


「……これでリィナを倒せってことか?」


「とにかく、テイル達に知らせて――」


 言いかけた時、ライムが不意に眉を寄せ、辺りに視線を彷徨わせた。


「どうした?」


「今、何か聞こえなかった?」


 言われて、俺はキョロキョロと辺りを見回した。


「いやあああ―――――っ!」


「うぉっ!?」


 はっきりと聞こえてきた悲鳴。驚いて身を竦めたが、その声は、俺達の知る者の声だった。


「リダ!?」


 目を見開いた俺に、ライムがギリッと唇を噛む。


「クレス、私はいいから行って。落ち着いたらすぐに追うから」


「でも……」


「リダがこんな悲鳴上げるなんて尋常じゃないわよ! あんたが行っても役に立たないだろうけど、いないよりマシ!」


 俺は躊躇ったが、再度劈くようなリダの悲鳴が上がり、ライムに頷いて立ち上がった。


「ライム、そのお守り、おまえが持ってろ!」


「えっ!? でも、これあんたがジンに貰った物じゃ……」


「いいんだ。ジンならきっと、おまえを守ってくれる!」


 言い残し、俺は助走を付けて出入り口の足場の方へジャンプした。


「クレス、ヘマしたら許さないからね!」


「可愛げねーな。気を付けてね、くらい言えないのかよ」


「キヲツケテネ?」


「やっぱり可愛くねー」


 思いっきり片言のライムに俺は舌を出し、声の聞こえた方へと駆けた。


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