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子猫と信じる気持ち

作者: ミント



課題で提出したもの

人は嘘をつく生き物だ。平然と人をだまし、欺く。だから私は人が嫌いだ。嘘にまみれた言葉を聞いていくうちに人を信じることができなくなり、そして嫌いになっていた。


放課後学校が終わり帰宅するものや、部活へ行くものたちそれぞれが目的に向かっている中、一人教室で外を眺めていた。

友達なんて一人いない私はこの後用事があるわけでもなく、ぼーっとしていた。時計を見るとHRが終わって三十分が経っていた。

「つまんない。学校なんて行く意味ないのに」

誰に言うわけでもなくつぶやいた。私は学校が嫌いだ。たくさんある嫌いなものの中でも特に嫌いなものである。理由は簡単。

人がたくさんいるし、騒がしいから。学校には私の嫌いがたくさん詰まっている。そんな所にいるのはつまらないし苦痛だ。ただ一か所だけ好きな所がある。私はそこへ向かうことにした。


体育館裏。ここが私の一番好きな場所。なぜかベンチが設置されているのだが、そのことを知っている生徒はおらず人気もないので一人でゆっくりできるのだ。一人でゆっくりするのなら家に帰ればいいのだろうが、ここでゆっくりするのには理由がある。そしてそれはここが好きな理由の一つでもある。しばらくするとベンチに座っていた私の足元に子猫がやってきた。慣れたように私に近づき足にすりよってくる。この子猫が私がここでゆっくりする理由であり、ここが好きな理由だ。そしてこの猫は私の癒しでもある。

「今日も来てくれたんだね。お前は優しいね。そして嘘をつかないし裏切らない」

猫を抱き上げ頭をなでてやりながら語りかける。子猫は嫌がるそぶりを見せず喉をゴロゴロならしながら、気持ちよさそうな顔をしている。しばらくすると子猫が催促するように鳴きはじめたので、いつものように鞄からエサをだし子猫にやるとおいしそうに食べる。私はその光景を見守る。それがいつもの風景であり、私、野川(のがわ)美子(みこ)の高校に入ってからの日常だ。


しかし最近その日常が崩れている。最近よくやってくる男のせいだ。そして今日もまたやってきた。

「野川さん今日も来てたんだ。ルルの調子はどう?」

ルルとは子猫の名前だ。私がなんとなくつけたのだ。

「来てちゃ悪い? ルルは相変わらずよ。あなたも飽きずによく来るわね」

やってきて話しかけてきたのは原因、柳田流(やなぎたりゅう)。こいつのせいで私の日常は崩れている。そもそもこいつとの出会いは最悪だった、今思い返しても腹が立つ。


その日もいつものように体育館裏でルルと戯れていたとき、突然ルルが逃げ出した。わけもわからず、ルルの逃げていった方向を見ていると、

「あれ、そこにいるのってもしかして野川さん?」

「えっと、あなたは……?」

突然声をかけられた。名前を呼ばれたが誰だかわからなかった。名前をしっているところからすると同じクラスなのだろうが、あいにく私は周りに興味がないためクラスメイトを誰一人覚えていない。

「ひどいなぁ同じクラスなのに覚えてくれてないんだ?これでも目立ってる方なんだけどな……」

ひどいも何も興味がないから仕方ない。

「改めまして自己紹介、同じ1年C組柳田流です。野川さんのななめ後ろの席にいるんだよ俺? まぁとりあえずよろしくね、野川さん」

「そう、よろしく」

まったくもってよろしくする気は皆無だが。

「ところで野川さんここでなにしてるの?」

「別に何してるわけでもないよ、柳田君あなたはここになにしに?」

ぶっちゃけ早くどこかに行ってほしい。私は一人でいたいのだ。

「俺は校内探索ってところかな。……ところで野川さん今、子猫といなかった?」

見られていたのか。見られていないと思っていた私は、しまったという表情をしてしまった。

「顔に出てるよ野川さん。つまりは肯定ってことだよね?」

「…だとしたらなんだというの?」

「それってさ、ずいぶん不味くないかな…、」

ずいぶんどころかだいぶ不味い。なぜなら、

「うちの学校動物禁止だよね?野良猫も見つけたら報告しなくちゃいけないし」

そうなのだ、うちの学校は動物はすべて禁止なのだ。つまりルルも禁止なわけで、しかし手放したくはない。 ルルがいないと本当に困っちゃう…

「黙っててほしい?」

その問いかけに即座にうなづいた。

「いいよ。その代り条件がある」

「じょう、けん?」

「僕も次からここに来てもいいかな?すごくその子猫に興味があるんだ」

次からもここに? それは正直嫌だけど、ルルを守るためならば

「誰にも絶対言わないならいいよ。」

こいつとはなるべく関わらないようにしよう。ルルを守るためとはいえ、あいつは信用ならない。それなら距離を置けばいいのだ。それに、ここに来るためにルルを人質、猫だから猫質のように扱ったのは許せない。これが私とあいつ、柳田君との出会いだ。


そして柳田君は次の日も来た。

「こんにちは野川さん。子猫は元気かい?」

「こんにちは柳田君。本当に来たのね」

嫌味に聞こえるかもしれないが、これが私の本音だ。ここには本来一人になりたくて来てるはずなのに……。

「言っただろ、子猫に興味があるって。実は結構前からその子猫のことは知っていたんだ。……それに野川さんのことも」

最後のほうは小さくてよく聞き取れなかった。けど彼の話にまったく興味がなくて聞き流していた。そんな私を見て彼が苦笑していた。

その日を境に彼は毎日体育館裏に来るようになった。


毎日彼が来るようになって少しづつ私の日常が変わっていった。最初は体育館裏でしか話さなかったのに、教室でも話かけてくるようになったのだ。私は静かに学校生活を過ごしたいのに、彼に邪魔をされる。さらに彼は、クラスの中心人物だ。そんな人物が自ら積極的に声をかける人物のことを、周りの生徒が気にならないわけがない。おかげで、クラスメイトから声をかけられたり、好奇の目で見られるようになった。しかし声をかけてもたいした反応を返さず、ひどいときには無視をする私の態度に周りは距離を置き始めた。とある二人を除いて。


一人はもちろん柳田君。そしてもう一人は、クラス委員長の(はる)()陽子(ようこ)さんだ。

「ねぇ野川さんもしよかったら、お昼一緒に食べない? 一人で食べるより二人で食べた方がおいしいよ」

「私一人で食べたいから。それと何度誘っても同じだから」

彼女は何度も何度も誘ってくる。お昼に限らず二人一組で活動するとき、自由活動のとき、私はすべて断っている。二人一組だろうが信じられない人と一緒に活動する気はないので一人でいる。元々誰かしら一人余るので問題はない。そのような態度をとっていたため、ある日担任に呼び出された。生徒指導室に行くと担任の海山(うみやま)(ひろ)先生がすでに待ち構えていた。

「野川、お前なんで呼び出されたかわかるか?」

「まぁなんとなく理解しています。」

「理解してるなら、何とかする努力をしろ。このままじゃ本当に学校生活を、一人で過ごすことになるぞ」

話を聞いて本当に心配してくれていることがわかった。先生として、そして私の幼馴染として。


海山先生は私と幼馴染だ。小さいころから、よく面倒を見てもらっていた。だから彼は知っている、私が人を嫌っており、信じられないこと。そして私がなぜそうなってしまったのを。

「それでもいいよ。ごめんね浩ちゃん、どうしてもだめなの」

それを聞いた彼は少し困った顔をした後

「お前の事情は分かってるつもりだから、無理にとはいわねーよ。」

と悲しげに笑いながらそう言ってくれた。

「ただやっぱり俺は、美子に楽しい学校生活を送ってほしい。無理にとは言わないが、少しは周りと仲良くしてみろ。」

「ん、努力はしてみるよ。」

私の返事を聞いた彼は私の頭をなで生徒指導室出ていった。部屋を出て扉を閉める直前に

「そうそう美子、学校では浩ちゃんって言うなって言ったろ? 今後気を付けろよ」

そう言い残していった。

「何それ、浩ちゃんだって私の下の名前呼んでるじゃん」

浩ちゃんの言葉が面白くって一人で笑ってた。


呼び出された次の日から少しだけ周りと仲良くするようにした。些細なことだけど、挨拶をかえしたり、今まで無表情だったのを笑顔にしてみたり、たったそれだけのこと。それでも周りからの評価は変わった。


放課後体育館裏に行くとすでに柳田君がいた。

「今日は早いんだね、柳田君」

「ちょっとね、それより最近野川さん変わったね。前よりクラスになじみ始めたよね」

彼からみてそう見えるということは努力が報われているらしい。

「そう見える?」

「うん。だからね少し不思議に思うんだ。」

不思議と言われ訳が分からないという顔をすると

「だって野川さん人嫌いでしょ? それに信じられないんじゃないかな。だから周りと仲良くし始めたのが不思議なんだ」

「なんで、なんで知ってるの。誰にも言ったことないのに、隠してたのに」

怖い、そんな感情が私の中にうまれた。何が怖いのかよくわからない。焦りで考えがうまくまとまらず、頭の中がごちゃごちゃしてきた。

「だいたいみてればわかるよ。俺ねそういうの得意なんだ。野川さんね、昔の俺と同じような顔してるんだ。」

「同じような顔?」

「そう。俺さ、自分で言うのもなんだけど、昔から人気だったんだ。だからさいろんな人が周りに集まるんだ」

彼の言う通り周りにいろんな人が集まっている。

「でもさ、周りにいる奴ら全員が俺に好意的なわけじゃないんだ。何度も騙されたり、はめられたりしていくうちにさ、そういうやつらの見分け方が分かったんだ」

無表情で淡々と彼は語っていく。

「見分けがつくようになると、人によって態度を変えることを覚えた。そうしていくうちに俺は周りを信じられなくなった。今までと違う態度で接しられただけで、コロッと変わっちゃう奴らだらけだったから、信じられなくなるのも仕方ないよな」

彼も同じ類の人間なのか。人を信じることができなくなった人なのか。

「柳田君も同じなの……?」

「昔の俺は同じだったよ。でもさ、今は違うんだ。中学の時な担任の先生に言われたんだ。『柳田、お前が下を向いてるから暗いところしか見えないんだ。少しだけでもいい、上を向いてみろ。そしたら世界は変わる。明るいところを見ることができれば、少しずつ信じられるようになるさ』って言われたんだ。最初は意味が分からなかった。でもその言葉に俺は救われたんだ。」

意味が分からない。その言葉の何に、彼は救われたのだろうか。

「その時の俺はみんなの暗いところ、悪いところばかり見ていたんだと思う。だから言われたとうり少しだけ上を向いて、みんなの良いところを見てみようと思ったんだ。そしたらさ、世界が変わったんだよ、うまく説明はできないけどさ。俺自身も変わって、少しずつ人を信じられるようになった」

羨ましい、そんな風に思った。そんな風に

変われるなんて、人を信じられるなんて。

「きっとさ、野川さんも変われるよ」

まるで私の考えを見透かしたかのように彼は言った。

「そんな風に思えるってことは大丈夫、変わることができるよ」

柳田君の言葉がなんだかとても胸にひびいた。

「ありがとう、柳田君」

「むしろ俺がお礼を言いたい。話を聞いてくれてありがとう。野川さんの話も聞きたいけど、今日は遅くなっちゃったしもう帰ろうか。野川さんのは今度絶対きくよ。」

意外と時間が経っていたようだ。少し空が暗い。

「そうだね、もう帰ろうか。……また明日ね」

今までまた明日なんて言ったことがなかったから少し恥ずかしかった。柳田君は少し驚いた顔をした後

「うん、また明日ね、野川さん」

家に帰ったあと柳田君から聞いた話を思い返していた。彼の話を聞いてなんだか少しだけ、心にかかっていたもやが、晴れた気がした。

「あれ、でもなんで柳田君は私に話してくれたんだろう」

そんなことを思いながら眠りについた。


次の日のお昼いつもと違うことが起きた。

「野川さん、よかったら一緒にお昼どう?」

柳田君からお昼のお誘いが来たのだ。正直困る。なぜなら彼は人気者だ、そんな彼が言ってしまえばクラスの日蔭者の私を、お昼に誘ったのだ。周りの好奇の視線が突き刺さる。一緒にお昼を食べたとしても周りの視線が痛いし、断ったとしても何故断ったのかと視線が刺さる。どうしようかと悩んでいると

「ごめんね柳田君、野川さんは私と食べるから。ねっ野川さん」

突然のことで驚いたが慌てて首を縦に振ったそれを見た柳田君は、寂しそうな顔をしながらそれなら仕方ないと言って離れていった。

「突然ごめんね野川さん。なんだか困っていたみたいだから……」

「ううん、謝らないで、むしろ助かったよ。ありがとう」

彼女のフォローがなかったら、断り切れなかったと思う。

「じゃあ私もう行くね」

「あっ待って、あのねもし、もしよかったら一緒にご飯たべない……?」

少しだけ勇気を出してみた。彼女は驚いた顔をした後、嬉しそうにうなずいてくれた。久しぶりに誰かと一緒に食べたお弁当はなんだかいつもよりおいしく感じた。


放課後昨日と同じよう体育館裏に行くとまたしても柳田君がいた。

「今日も早いね柳田君」

「今日は野川さんの話を聞こうと思ったからね。約束したでしょ。本当はお昼に話そうと思ったんだけどさ」

だからお昼に誘ってきたのか。一つ謎が解決した。

「私の話なんてきっとつまらないよ。それに……」

「それでも俺は野川さんの話を聞きたい。でも話したくないならいいよ、無理はしないで」

話したくないなんてことはない。本当は誰かにこの話を聞いてほしかったのだ。

「私ね、この学校にした理由、誰も中学時代の知り合いがいないからなの。誰とも会いたくなかったから、私の過去を知る人とは」

身内以外にこのことを話すのは初めてで少し緊張する。それでもがんばって口を動かした。

「中学の時ね、親友だと思ってた子に裏切られたの、それもほんの些細な理由で。その子が好きだった先輩が、私のこと好きだったらしくてね。それでその子が、私に先輩を盗られたって泣いたらしくて、女子たちはみんな彼女の味方しちゃってね」

その時のことは今でも私の心に重くのしかかっている。

「その日から私に対する態度が変わったの。無視されたり、悪口言われたり。変な噂も流された利したなぁ。特に容姿のことでね」

私の容姿は少しだけみんなと違う。目が青いのだ。母方のおじいちゃんがフランス人とのハーフでその遺伝らしい。ただお母さんには遺伝せず私に来たのだ。お父さんも黒目で青いのは私だけ。

「家族で私だけ目が青いから、不倫でできた子だとか言われちゃって、ほとんどがその噂信じちゃって私に近づかなくなった。その時くらいからかな、人を信じられず嫌いになったのは。」

そしてその時、私の嫌いなものも増えた。今まで好きだったものが、どんどん嫌いになっていった。学校も、その時嫌いになった。

「学校行くのすごくつらかったけど家族と幼馴染が支えてくれたから頑張れたの。そして今ここにいるってわけ。どう? つまらないでしょ私の話」

なんだか泣きそうだったから笑ってごまかした。

「野川さん無理して笑わなくていいんだよ。泣きたいときは泣くのが一番。だからねっ、」

『泣いてもいいんだよ』

その一言で涙腺が決壊した

「本当はやめてって言いたかった、皆と仲良くしたかった、一人でいるのが怖かった、誰かに助けてほしかった。また裏切られるのが怖くて仕方ない‼」

涙が出てくるとともに今までの隠していた思いも出てきた。泣きながらその思いを吐きだす。

「野川さんは頑張った。だからね、もういいんだよ、人を信じて。怖いかもしれない、それでも信じて。今度はもう大丈夫、君を支えてくれる人が見つかるよ」

泣きじゃくる私の頭を撫でながら柳田君はそう言った

柳田君は私が泣き止むまで頭を撫でてくれた。

「ありがとう柳田君。話して泣いてすっきりした。なんだか心が軽いもん。それに誰かに話す勇気が出たのも、昨日柳田君が話してくれたおかげだよ」

恥ずかしかったけど頭を撫でてくれてたのも嬉しかった。

「どういたしまして、俺なんかで力になれたなら何よりだよ」

「少しずつになると思うけど、また信じてみようと思う。前を見て歩いて行くことにする。もうしただけ見て生きていかない。世界を変えてみることにするよ」

今まで隠してきた気持ちを吐き出した後思ったのだ。一人はなんだかさみしいと。そしてお昼のことを思い出し、誰かといる温かさを思い出した。だから私は世界を変えてみる決意した。

「ところでさ、何で柳田君は私なんかに昔の話してくれたの?」

疑問に思っていたことを聞いてみた。

「うーんと、前言ったみたいに昔の俺と同じような顔してたから、中学の時俺に光をくれた先生みたいな人が必要かなって勝手に思ってさ。

少しでも野川さんの救いになればと思ってね。勝手な理由だろ」

困った顔で笑って答えてくれた。

「そんな理由でも私は救われたよ。本当にありがとう柳田君」

「なんか俺こそありがとう。さて、話も終わったし帰ろうか」

柳田君は少し照れたみたいで早口にそういって視線をずらした。赤面していたけど、きっとそれは夕日の色ってことにして見なかったふりをした。

「うん、帰ろっか。じゃあまた明日柳田君」

「うん、また明日野川さん」


次の日、いつもの様に学校に行って、いつもと違うことをしてみた。

「お、おはよう」

教室に入ったとき自分からクラスメイトに挨拶してみたのだ。でもクラスメイトの反応が怖くて、すぐ下を向いてしまった。

「おはよう野川さん」

一番最初に挨拶を返してくれたのは春瀬さんだった。そしてみんなも挨拶を返してくれた。なんだか嬉しくて笑顔が止まらなかった。

「野川さん、笑った顔すごく可愛いね。これからも笑顔いっぱいだと嬉しいな」

なんて春瀬さんに褒められ恥ずかしかった。前を向いて自分から歩みよったことで世界が少しづ変わり始めた。なんだか前よりも目に映るものがキラキラと輝きだした気がする。


今日もまた春瀬さんとお昼を食べた。その時

「もう私たち友達なんだし、苗字呼びはやめよっか。下の名前で呼ぶことにしよう。ね、美子」

久しぶりに女の子に下の名前で呼ばれ感動した。

そんな私の心境などお構いなしに、早く私の名前も、と催促される。春瀬さんは意外とパワフルだ。「よ、陽子ちゃん」

なんだか照れてしまい、うまく呼べなかった。きっと今真っ赤になってるだろう。

「あぁもう本当に美子可愛んだから‼」

なんて叫びだす陽子ちゃんをなだめながら楽しくお昼を食べた。

たまたま廊下で会った海山先生に、よかったなと言われた。なんだかほっとしたような顔をしていた。言葉の中に先生として、幼馴染として私が少しづつ変わり始めたことを喜んでいるような響きもあった。今まで心配をかけていたし何かお礼をしようと思う。


放課後、部活に行く者や帰宅する者たちの中、一人教室で最近のことを思い返していた。陽子ちゃんは部活があるらしくそちらに行った。することもないのでいつもの場所に向かうことにした。そこにはまた先に柳田君がいた。

「三日連続だね。どうしたの今日は」

「特に用って程じゃないよ、今日は普通に話に来ただけだよ。だって野川さん教室ではまだ話かけてくれないし」

それはまだ無理だ。彼はクラスの人気者、まだ自分から行くにはハードルが高すぎる。

「でもまあ、ここで話せるから構わないけどね。……それに二人きりだし」

最後の方は小さくてうまく聞き取れなかった。

「え、最後なんていったの?」

「何でもないよー。あっルルだ」

なんだか流された気がする。しかしそれよりもルルの方が大切だ。

「今日も可愛いなぁルルは。いつまでたっても私の癒しだよお前は」

ルルの頭を撫でてからエサを用意してルルに差し出す。それを見ながら柳田君とおしゃべりをする。最近はちょっと前の自分からしたらありえないことだらけだ。でも少しずつそれが日常となってきている。変わり始めた私の世界、日常。その中で私は今日も生きていく。

                   〈了〉




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