第三話 【嬉しい侵入者 待望の非日常】
はい。ようやく本編、といいますか・・・戦争と絡んできます。
まずはジャッ君が「今戦争が起こっている」ということを知る必要がありますね。
そう考えて、ジャッ君の縄張りの中に彼を投入・・・・って、これ以上言っちゃいけませんか(笑)
それでは、始めます。
ようやく、ですな。
「南岸・・・異常無し・・・」
ジャックが角を上下に振りながら飛ぶ。
山の天辺と同じ高度で翅を忙しく振りながら、地面を見下ろす。
島の南端の浜辺に流れ着いていたのは無人船の破片のみ。
異常が無いことを確認した後、対極の北岸を目指す。
「んん・・・こっちも特に・・・」
南岸と同じく、自分の生活が揺らぐような侵入者はいないようだ。
万が一人間が島に降り立った時のために近くの岸に大岩を準備していたが、杞憂だったようだ。
まぁあの岩は三ヶ月くらい前に設置したもので、まだ使ったことは無かったことから、今更利用することもないと踏んでいたのも確か。
次は東岸。島の東に異常は・・・?
「相変わらずだな。こちらも別に・・・」
別に異常があることを予想していた訳でも無い。
特別に「人間」という障害が現れるのは数ヶ月に一回くらい。
だからといって油断のしすぎも駄目だ。
島中に色々な罠を仕掛けたが、やはりあの脳の大きさ。
これまで全てが破られたことは一度も無かったが、もしも頭の良い人間が現れたら危ないかもしれなう。
そういう場合は全力で応戦するつもりだ。
自分のテリトリー内に入ってくる奴は容赦しない。
大岩も、用心だ。一応東西南北全岸に設置してあるし、予備も山の麓に並べてある。
さて、最後は西だ。
何故か西岸は人間が集中してやってくる。
これまでの侵入者は皆東からやってきた。西の大岩はしょっちゅう(といってもやはり数ヶ月に一回だが)取り替えてる。
落下地点には点々と血痕が残っている。あの場所で潰れた人間達のそれだ。
若干グロいが、残念なことにジャックはこれに慣れてしまった為、掃除は意外と進みやすい。
「異常無・・・ん?」
不意に白い浜辺に何かを見つけて、ジャックはそれを目指して急降下していった。
グングンと迫りくる白の中に、キラリと黒く光るものがあったのだ。
「貝殻か・・・?いや・・・あれは――――――」
ジャックは地面から一定の距離で急停止し、遠くからその「黒い光」をみつめた。
一瞬信じられなかった。作り物かとさえ思った。
いや、でも間違いない。自分と同じような形、大きさ・・・
違う所といえば、微妙に色が違って漆黒なところと(ジャックは艶やかな焦げ茶色)、頭部から生える角が、二本あるところ、そして若干体が押しつぶされたように平べったいところだ。
疑念が、確信に変わった。
「――――――虫!」
声を殺して叫んだ。久方ぶりに全身が興奮で小刻みに震えた。
取り敢えず、あいつがどんな奴か見よう。知能はどんなもんかね・・・。
やや上から目線だが、この際どうでもいい。彼も許してくれるだろう。
タイミングを見計らって登場するべきだな。今は見守っとくか。
ジャックは感づかれないように身を縮めて、ゆっくりと森林に向かった。
どっかの木にしがみついて監視してやろうじゃないの。
一瞬予期せぬ嬉しい侵入者の両目がこっちを向いた気がしてゾクっとしたが、そのまま森林へ。
ゴツゴツの枝に足を絡ませ暫くすると、侵入者が動き出した。
ジャックと同じ棘だらけの足を用心深く前に出す。地面に足を置いても、体重をかけない。
落とし穴を警戒しているのか?わかってんじゃねぇか。
その用心が森林の奥深くまで持つかっつーと、どうだろうな。
お前の予想通り、落とし穴は至るところに設置してあるぜ。
ジャックは不敵な笑みを浮かべながら侵入者を見守る。
やがて、あの虫は森林に踏み込んだ。
その瞬間、ビクッと何かを感じ取ったのか、身を震わせた。
そして小さく口を開くと、低い声がそこから飛び出した。
「罠・・・か?」
・・・人間より全然鋭いなコイツは。畜生め。
内心ワクワクしながら、成り行きを見守り続ける。
彼は、小さく翅を羽ばたかせ、地面から数cmのところまで上昇し、そのまま前進しだした。
どうやら、地面には何かがあると気づいたようだ。
匂い、か?俺が作り出した粘着性抜群の液体は仄かな匂いを発する。
人間達は鼻が弱いから気づかないが、コイツは判るようだ。只者じゃなさそうだな。
そして、白濁した液体がしきつめられた地面の上でホバリングしながら、彼は溜息をついた。
何だ今のは?罠が浅すぎるってか?腹立つなおい。
ジャックが枝の上でフンと言うと、虫の両目がすぐにこっちに飛んだ。聴覚も抜群かよ。
俺、大分音量落としたつもりだったんだが・・・な。
が、虫は何事も無かったかのように視線を戻し、同じように前進。
白濁の世界から抜け出した虫は、地面に降り立ち、その六本の足で歩き始める。
そして、ジャック御自慢の「水撃エリア」についた。
これは、ジャックが器状に巻いて、糸で固定した葉に溜めた雨水を標的に落とし、その重みで人間を始末するというもの。
勿論器状の葉はたいそう大きく、溜められる雨水も相当な量だ。数十ℓは入る。
が、問題は、「俺が器の向きを変えるところを見られないか」だ。
ことの直前でまたもや罠に感づかれて水撃を避けられてしまったら俺は確実に見つかる。
そうなれば色々面倒くさい。ここは俺の技量も試されるな。
一方の侵入者は水撃エリアに入るなり、いきなり上空を見上げた。
無論、視界に入るのは明らかに「作られた」器状の葉。それも大量の。
は?マジかよ。一瞬で感づかれたぜ?何でだっつうの。
何であいつ全て判ってる風な見上げ方したんだよ。
しかも上見ながら歩いてんじゃねぇか!あれじゃ俺が突入することすらできねぇ・・・。
仕方が無く、ジャックは水撃を断念した。
尚も侵入者は前進する。
そして、またもジャック御自慢の罠が仕掛けられたエリアに入った。
流石に今度ばかりは避けられないだろ・・・と、ジャックはほくそ笑む。
何故なら、今回の罠はこれまでとはレベルが違いすぎるからだ。
此処の地面には至る所に「スイッチ」がある。
勿論地面に擬態して、質感も色も、何も違和感が無いようになってある。
そして、侵入者がスイッチを踏むと、地下に仕掛けられた大量の太く、堅い枝が動き出す。
紐やら石を削って作ったネジまがいのものが動き出し、支えられた枝が地面から溢れるように飛び出す仕組みにしてある。
何十本もの枝は侵入者が踏んだスイッチを軸にして円を描くように飛び出し、侵入者を囲む。
そしてジャックが非常に頑張りに頑張ったところは、「屋根」。
なんとこの仕掛けは屋根付きのものなのだ。
枝の先からもう一本もう一本とマトリョシカ方式で枝が飛び出し、網戸のように交差しあって枝の屋根ができる。
これもネジ(まがいのもの)と紐だけで作動するようになっている。人間顔負けの罠である。
そして、何も知らず今度ばかりは素直に侵入者がスイッチを踏んだ。
飛び出す枝。枝。枝。囲む枝。枝。枝。天井となる枝。枝。枝。
流石の侵入者も驚いたらしい。ブルッと身を震わせた。
「さぁ、どう攻略するかね侵入者君・・・」
自分にしか聞こえない声で呟くジャック。
すると、唐突に侵入者が自身を囲うドーム状の枝の檻に近づいた。
そして、枝の中の一本を自分が持つ強靭な二本の角で挟み込み、大きく開いた。
は?まさか?折ろうっての?できるわけないじゃん?馬鹿か?もしかして本当に馬―――――――
―――――――バキッという音と共に、真っ二つになった枝が左右に倒れた。
チリチリと木片が飛ぶ。侵入者の前には、開けた檻の外への扉が出来上がっていた。
「な・・・何だよあの力・・・あの枝岩に思いっきり叩きつけても折れなかったんだぜ?そりゃないって・・・」
何だかんだほざいた所で、今目の前に転がる木片は現実だ。
その前に立つ侵入者も。
・・・・侵入者が、突然大声を上げた。
「そろそろ出てきたらどうだい!?色々話そうじゃないか!」
「・・・バレバレ、かよ」
・・・チッ。当たり前のようにバレてた。
俺は観念してユラユラと寂しげに地面に降り立った。
はい。まだ直接彼と話していないので現在の戦争情景は未だ判りません。
次話でジャッ君と侵入者が交流しますんで、その時ですね。
そしてまたまた言いたいことは特に無(ry
しゃひょうにゃりゃ(さようなら)。