第十三話 【戦況反転 幹部雁首】
ようやっと戦争っぽくなってきた。うん。
同時にジャッ君の戦闘も殆ど終わった。うん。
BRTの戦いっぷりをどうぞご鑑賞下さいまし。
暇潰しにすらならないお話が今、幕を開けます。
ドヒュウッ!!!!
一匹の蜘蛛から発射された白い糸が兵士三人を纏めて縛り上げる。
ネバネバして、それでいて強靭に。「力」では決して切れない糸。
進化を続ける蜘蛛の糸。
縛り上げられた兵士の上を小さな塊が過ぎ去った。
小さな黒が大量に集まったその塊は別の人間の視界を完全に覆う。
同時に大量の蝿が織り成す羽音で耳をも塞ぎ、人間の五感の最も大切なところが次々と沈められる。
そんな悶える隙だらけの兵士達に焦げ茶色の閃光が飛び掛り、人間を――――穿つ。血が戦場に舞い上がる。
「グズグズすんじゃねぇ鉄持って来い!!」
威勢を張るのはノコギリクワガタの筆頭。
予め準備させた自然の鉄棒を同種の配下達に持ってこさせ、それを棘だらけの角で挟む。
そして、再び戦場に舞い戻って体を翻す。
「どおらァっ!!!」
自身の身長の三十倍の長さと重さを誇る鉄棒を振り回し、武装した人間の首筋にブチ当てる。
胸防具と頭防具の繋ぎ目、間接部分を砕き、崩し、壊していく。
次々に人間兵士の死体の山が築かれていく。
「おいガチス危ねぇ!!味方もいんだぞ判ってんのか!!!」
危うく胴体を横から打っ飛ばされるところだった虫が抗議の声を上げる。
が、その声も暴君に聞こえていないのが分かるとすぐにその針を振るう作業に戻った。
長年で進化したその毒針は何度相手に刺さっても自分は死なず、毒性もかなり増しているミツバチ集団。
既に彼等の手によって数百の人間が葬られていた。
人間の目の前で飛び回って翻弄する役の蜜蜂三匹が頑張ってる間に、別同体がやはり脆い首を狙ってその針をズブリと突き立てる。
女王、スズメバチ種に負けず劣らずのその毒は一瞬で人間の体を支配し、倒すに至る。
そして、蜂に続いて集団で縦横無尽に飛び回る種がまた一つ。
縦長の胴の左右から突き出した四本の翅を巧みに操り、最も完全な空中停止ができる只一種の虫達だった。
これまた発達した複眼で瞬時に戦況を確認することができ、それを総司令官に伝える役目。
基本的に戦には参加せず、攻撃をかわす、囮になる優秀な兵士達だった。
「やはり・・・・・圧してる・・・向こうも精鋭という訳ではなさそうだな」
「ああ、あの武器の扱い方にしてもぎりぎり玄人に分類される程度だ。ミスが目立ってる」
「多分一億の勢力で充分だっただろうに」
全員ただ一つの方向を見つめてホバリングしているので、仲間達が不気味に思って近づけないことだけを彼等は知らない。
――――乱闘だった。が、それは人間達から見たら完全に上も下も無い状況。
そりゃそうだろう。敵が大きかったり小さかったり飛んでいたり地面にいたりで、混乱必死だ。
虫達は至って冷静に、完璧なチームワークで人間を翻弄しつつ暴れまわっていた。
戦況は完全に虫達に傾いている。
―――――が。
「おいあいつ何だ!!!!」
「くっそ野郎どこで待機してやがった!!!!!」
予期せぬ敵側の暴君の登場に、虫達が一瞬我を忘れてどよめく。
その瞬間を狙ってか広範囲武器を振るわれて殉職した虫達も大分出てきた。
が、あの一際目立つ、戦場に降り立った悪魔からすれば大した変化では無いだろう。
「マズいな・・・・」
思わず戦場真っ只中で自ら戦っていたウィズの表情が曇る。
「幹部だけで抑えるか・・・一人だけならイケるか・・・!?」
「ぐうおあああああああああああ!!!!」
「化け物が・・・・!」
――――――何の前触れもなく現れたのは、通常の人間の数万倍のデカさを誇る「巨人」だった。
鬼よろしく憤怒の形相で金棒を背負い、鉄製の簡素な防具は下半身にしか纏っていない。
この三千年で、新たに地球上で確認された生命体、巨人だった。
「ガチス!クルウ!アージャス!!マーラ兄弟!!バオ!!僕等だけでコイツは片付ける!!!」
「「「「「「了解!!!」」」」」」
ウィズの掛け声で、今この戦場にいるBRT幹部の半分が雄たけびを上げた。
化け物目掛けて飛び立ったのはウィズを先頭に、鉄棒抱えたノコギリクワガタのガチス、スズメバチ女王のクルウ、オオカマキリ隊長のアージャス、二匹のホタル、マーラ兄弟、そして殿を務めるオオクワガタ、バオ。
どれも氷山の一角、BRT屈指の強豪達だった。
歴戦の勇士が今、化け物の咆哮と共に立ち上がった。
「デカくなったとて所詮は人間!!僕等の敵じゃないっ!!!」
━ ━ ━
「いよっと」
「うおあっ!?」
最後の一人の頭を俺の足が捕らえる。
この体格差でも俺が「暇潰し」で培った力には到底敵わなかったようだな。
「今更逃げるってのァ、どういうつもりだおい」
「・・・・!!!」
後ろを振り返ってみれば、目に入るのはコイツの同胞四人の骸。
いやしかし、故郷から持ち出した罠の三割をこんなところで使うとは思わなかった。
この様子だと本部に着く頃にゃあリュックは捨ててるか・・・
「そういやお前、これまでずっと一撃を受けずに逃げ回ってきたよな・・・」
「・・」
人間は答えない。
そうか。じゃ、お前がこの世で最後に喋った言葉は「「うおあっ!?」」で決定な。
・・・・・容赦しねぇぞ。
俺の足が翻る。人間がこっちを向く。
俺は慣れた手つきで上半身を右斜め上に持ち上げ、一思いに振り下ろす。
人間の分厚い頭蓋骨が重い衝撃に歪むのが角の感触で判った。
人間は血を吐きながらも口を聞かない。否、聞けない。
左斜め下に位置した角を今度は顎下目掛けて高速で振り上げる。
下がった頭部が骨の耐え切れない程の圧力とスピードで上に飛ばされる。
多分今、コイツの首の骨折れた。うん。そうだな。
そして、俺は角を刀でも振り回すように巧みに操り、次々と人間に連撃を重ねていく。
「最後の―――――」
俺は血だらけ、痣塗れ、切り傷だらけで元の肌色が失われた人間の顔に角を翳した。
「―――一撃っ!!!!」
――――――――ゴスッ――――――
血飛沫が俺の黒光を濡らす。
俺の、勝ち。
暇潰しにもならないお話が今、幕を閉じます。
ジャッ君の戦闘は大分省かれてしまったようです(´・ω・`)
まァ本物の戦闘の方が一話の大半を占めている時点で悲しいことなんですが。
巨人っていう種族についてはもう完全にテキトーですね。はい。
色々それっぽい設定を後から後から加えていきましょうか。うん。それがいい。
それでは、ここらでお開きにしましょーかねー。