壊れたもの壊れた私壊れた君
一部残虐的な描写を含んでいます。
苦手な方は閲覧をご遠慮願います。
神様 私は罪を犯しました
神様 私は大切なものを忘れてしまいました
神様 私は私の物語を捨ててしまいました
神様 だけれど私は幸せです
ё ф Я й ю
リーン。リーン。
階段から降りてくる猫の足音。
黄色いリボンを首につけて、私を、眺めている。
ああ、神様。
この子に罪など無いのに。
*** ****** * * *** * ** *
「お父様、これから何処へゆくの?」
小さな白い手。
赤いフリルのドレス。
大きな手は隣の小さな声には反応せず、
ただ白い寒い道を歩く。
雪から覗く赤いレンガの石畳。
続くその先には黒い大きな門。
その向こうには、大きなお邸。
「お父様、ここにお母様がいるの?」
大きな手は何も言わない。
大きな手は私を抱きしめる、「ここに住むのだよ」と。
黒い門を潜り抜けた。
広い邸の扉は私には重くて、あけるのが難しかった。
大きな手が開いたその先には、
叶うことのない約束を待ち続けた美しい女性。
そして、その傍には小さな少年。
大きな手は私を部屋へ押し込んで。
大きな物音と共に、小さな少年の泣いている声が聞こえた。
必死の思いであけようとするけれども、
扉は一向に開かない。
だけれど、小さな鍵穴からかろうじて向こう側が見えた。
覗いた先には叩かれて続けている少年。
約束を待ち続けた、血塗れの美しい女性。
女性は邸の裏で眠りについた。
少年は私に出会い、私達家族の為にせっせと働いた。
大きな手は何も言わない。
少年も何も言わない。
だけれど知っていた。
この少年は、私の愛する弟であることを。
私達は、【あまりにも似すぎて】いたから。
「ねえ、貴方は何故何も言わないで私達の為に働き続けるの?」
「僕は、償わなければ、ならないから」
「ねえ、何を償うというの?貴方が何をしたというの?」
「母様が、待ち続けてしまったから」
ねえ、貴方。
何故、私に笑ってくれないの?
私が、穢れてしまっているから?
寒い冬の日。
手の荒れた少年が出稼ぎから戻ると、
彼はとたんに大広間で倒れた。
私は一生懸命看病をした。
見えにくい目はとても不便だった。
看病についていた私を、
彼から無理やり大きな手が引き離した。
「無残なものよ…」
忘れていた大きな存在。
リボンの落ちる音。
引き裂かれる赤いドレス。
アルコールの匂い。
大きな手。
ああ、私は、私は何をしているのだろう。
助けなければならないのに、彼が、笑ってくれるように。
大きな手は高熱の彼をせせら笑った。
扉の向こうの彼の目の前で。
一瞬に起こった出来事。
割れた酒瓶は、大きな手の後頭部に刺さる。
隠し持っていたナイフを
私は男の胸に深く突き刺す。
溢れる赤。
溢れる心。
これで彼は、笑ってくれるのかしら?
*** ****** * * *** * ** *
けして叶わない約束を守り続けた美しい女性
壊れ狂っても尚約束だけ覚えていた大きな手
大きな手を愛してしまった盲目の女性
盲目の女性の為に野犬を育てた男
飢えをしのぐ為に狩りをした犬
わが子を守る為にその身で守った母猫
愛されることを忘れてしまった少年
愛するものを守る為に己の心を壊した少女
美しい女性が撫でた黄色いリボンの子猫
繰り返すだろう。
繰り返さなければならないのだろう。
壊れたもの
壊れた私
壊れた僕
壊れた世界の物語。
ё ф Я й ю
「おかえりなさい、リオ」
貴方は微笑んで私を抱きしめてくれた。
壊れたもの壊れた君壊れた僕の対になります。