空色図書館
午後三時の少し前。
眠気を誘う時間に。
お仕事のちょっとしたすきま時間に。
コーヒーのかわりに途中のお話を。
午後三時、空色図書館へ
─── ・ 。☆☽☆゜.───── ・ 。☆☽☆゜.─────
午後三時の少し前。
街の喧騒がゆるやかに沈むころ、あなたはふと立ち止まった。
いつもと同じ道のはずなのに、いつもと違うところに目が惹かれる。
角を曲がると、淡い空色の扉が静かに佇んでいる。
地図にも、記憶にも、ここに扉があることは書かれていない。
その扉は、どこか古びているのに、不思議と色あせてはいなかった。
─── 空を薄く溶かしたような青。
午後の光を受けて、やわらかく静かにそこにある。
真鍮の取っ手は、長く触れられてきたように滑らかで、指先にひんやりとした重みを残す。
迷うように手を伸ばし、扉に触れる。
ひんやりとした金属の感触が、ほんの少しだけささくれかけた心を落ち着けた。
─── そのまま、そっと扉を押す。
空気がふわりと流れ、まるで世界の端に立ったような静けさが広がった。
外の街の音は、もうどこにもない。
光も音も柔らかい館内。
天井まで届く本棚が、静かに並んでいる。
古い紙の匂いと、少し乾いたインクの匂い。
ページをめくる音が、遠くで一度だけ小さく響いたような気がした。
それもすぐ、静けさの中に溶けていった。
本棚に並んでいるのは、普通の本ではない。
書きかけの手紙。
途中で終わった旅行日記。
送れなかったメール。
下書きのまま残されたポスト。
書き直された履歴書。
書き出しだけの小説。
破られたままのメモ。
そこには「誰かの途中」がそっと置かれていた。
大成功も、大失敗もない。
ただただ、日々を生きる誰かの途中。
まだ終わっていない物語ばかりが、この図書館には並んでいる。
静かに、司書が姿を現す。
いつからそこにいたのか分からない。
年齢も、性別も、何もかも掴めない存在。
けれど、目が合うと、なぜか心がふっと軽くなる。
声は低くも高くもなく、ただ温かい。
柔らかな光のように、あなたの周りを満たしていく。
「今日は、どの途中を覗きに来たのですか?」
司書の問いかけは、質問というよりも、そっと背中を押してくれるような気配だった。
─── あなたは本棚の間を歩いていく。
背の高い本棚のあいだには、静かな影が落ちている。
けれど不思議と暗くはない。
本の背表紙に触れそうで、触れない距離。
ページを開けば、そこにはきっと、誰かの途中が書かれている。
静けさの中で、心の中のざわめきが少しずつほどけていく。
ここでは、誰も急かさない。
誰も評価しない。
この図書館では、時間も立場も関係なく、ただ「途中であること」が許されているのだ。
ページを開くたび、あなたは少しずつ、
自分の迷いも、希望も、受け止められる気がした。
空色図書館は、午後三時にだけ扉を開く。
─── そして今日もまた、別の「途中」を静かに待っている。
ひと息つけましたか?




