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大家族  作者: ひらたまひろ
第3部『さくらを捜して』
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第11章

「私たち、結婚を前提に付き合うことになりました」

 私たちがお墓参りを終えて家に着くと、待ち受けていた姉と冬継さんがそう言い出した。みんなから有り余るほどのおめでとうを受けて、その日の夜はどんちゃん騒ぎだった。宿はそれぞれ取ってあったので、夜といってもそこまで遅くはないのだが。

「でも、結婚前提だなんてすごいね。どっちから言ったのよ?」

 ホテルに着いてから私は姉にそう訊いた。

「別に、どっちってわけでもないわよ。お互いそういう意志があったってだけ」

「ふぅん」

 私はジトッとした目で姉を見た。

「な、何よその目は」

「べっつにぃ?」

 少しうざがられるような声で私は姉に返した。姉はムスッとして、

「でも、あんたに先を越されなくて良かったわ」

 と言った。

「あら、心外ね」

 私がそう言うと、姉が焦ったような顔で私を見る。

「ま、まさかあんた、もう既に男がいるとか?」

「まっさか。生まれてこのかた誰ともお付き合いしたことありませんよーだ。それに、そういう意味での心外では無いわよ」

「どういう意味よ?」

 私の言葉を聞いて、頭に疑問符を大量に浮かべた状態の姉が訊く。私は笑いながら、

「そんなの競ってた覚えはないって意味よ」

 と言った。姉は何か納得したように頷くと、

「確かにそうね」

 とだけ呟いた。

 その日の夜はそれ以降何も聞かないで、そのままぐっすり就寝することができた。


 翌日、私たちは松本に帰った。なお、大叔母たち瀬谷一家は帰省でもあるため、大月にしばらく残るらしい。からかい半分で姉に残るか尋ねたら頭に拳骨を落とされたので少し後悔している。

 高速道路でまたも6時間かけて家に向かう。帰りは祖父が小出家の車で、祖母が蔵本家の車で帰ることとなった。

 道中、祖父は姉に簡単な祝辞を述べた。祖父は一番大きな孫娘として姉を溺愛とまではいかないが、それなりに可愛がっていた。だから結婚を見据えた付き合いに嬉しみを覚えたのだろうけど、不満も少なからずあるようだった。それには大叔母の存在が大きいようで。

「可憐の息子との結婚なのが少々複雑な気分だ。自分の甥と自分の孫が結婚する。なんだか複雑なんだよ」

 言われてみればその通りなのだが、そればかりは仕方がないことなのではなかろうか。私たち小出家一同、遠い親戚であることはもちろん分かっていた。だが、そこにはあえて触れてこなかったのだ。今それを言うか。誰もがそういう目で祖父を見ていた。

「それに、ただの甥だったら良いのだが、可憐の息子とくると、母親が母親であるがために信頼が置けない面もある。もちろん冬継が良いやつであることは俺も分かっている。可憐に似ず、優に似たのが良かったのだが、それでも……」

 その言葉は姉を少し不快にさせたようで、

「言いたいことがあるならはっきり言ってよ。冬継さんを悪く言われると、私少し腹が立つんだけど」

 と強い口調になって祖父に言った。祖父は目を閉じてしばらく黙っていたが、細く目を開けたと思ったらこう言い出した。

「うむ、そうだな。では言うか」

 そこは言うのか。普通そう釘を刺された場合黙るのが道理なのでは? そう思ってしまったが、祖父はどうやら語る気でいるようだ。そしてそのまま、語り出すのだった。


ーーーーーーーーーー


「俺が可憐を嫌っていることは知っているだろう。原因はあいつが親父の葬式に参加しなかったからだと思われているようだが、実は違う。いや、少なからずそれもある。だが、俺はそれ以前からあいつを信頼できていなかった。

 流石に10歳も年が離れていると、いくら妹とはいえど世代が違う。それにいる世界だって全く違う。俺は戦時中生まれだが、あいつは戦後生まれ。俺は戦争の生々しい傷跡をこの目で見てきたが、あいつは見ていない。そういう点でも全く違うのだ。あいつからしたら俺は一昔前の人間だ。だから考え方なんかが古いと思われていたな。あいつが中学生の頃、散々そう言われた。ま、それはどうでもいいのだ。問題なのは、あいつの性格だ。あいつは機嫌を取るようなことばかりする。誰かに怒られないように、周りから見た自分というものを大事にする。小学校の頃までは大いにそれは彼女の役に立ったスキルだったと思う。だが、中学生以降は大きく変わった。

 機嫌を取るということは、人に対して柔軟に嘘をつくということになる。そしてそれが定着したあいつは、日常生活においても平気で嘘をつけるようになっていった。親や友人、もちろん兄である俺ですらもその嘘に何度も惑わされた。あいつは頭が良かった。それも相まって、自分の立場が常に有利であり続けられるような嘘を吐こうとするのだ。それが本当にたちが悪くてな。それから俺はあいつを信用できなくなった。

 あいつはよく口に出していっていた言葉がある。聞いたことがあるかもしれないが、

『真実は心の中だけに留めておくもの』

 という言葉だ。これは大きな嘘を吐いた時に決まって使った。楽しげにウィンクしながらな。その言葉を聞けば、俺たち蔵本家は可憐が嘘を吐いていると一瞬で判断できた。たとえば怪談噺のような、聞く限り作り話なんかはジョークだろうなで終わる。だが、少し真実をねじ曲げた程度、もしくは全部作り話なのにあたかも全て真実に聞こえてしまうものについては判断のしようが無いわけだ。本当にタチが悪い。可憐は普通にそうやって嘘を吐いた。すぐに分かるジョークのような嘘も、すぐに分からない真実のような嘘も。

 そんなことをずっとされ続け、葬式に来なかった理由を尋ねたら、親父から親孝行を頼まれたと言われた。

「お母さんが死んだ時にあたしは塞ぎ込んじゃったから、それを心配してお父さんが自分のお葬式に来るなって言ってた」

 と。もう分かるだろう? 俺はそれに関して真実かを問うた。そしてその時もあいつは、

「真実は心の中だけに留めておくものなの」

 と言ったのだ。もうこれっきりだと思った。親父も死んで、俺とあいつを繋ぐ者はいなくなったと思った。真実かもしれないが、俺はそれを真実だと思わない。少なくともその言葉が付いたのであれば、あいつの今までの話は全て嘘だと、俺はずっとそう思ったのだよ。

 だから俺は、可憐が嫌いなのだ」


ーーーーーーーーーー


『真実は心の中だけに留めておきなさい』。私の頭をその言葉が過ぎる。列車の中、網棚の荷物、ニッコリ笑った大叔母の顔。あの話は、全部嘘、なのか? あの時に列車の中で話した会話は全部嘘なのか?

「……」

 私は黙って俯いて、ずっとずっと考えていた。しかし、拉致が開かない。もちろん嘘か本当かなど、本人である瀬谷可憐という人間にしか分からない。私が今どれだけ考えようと無駄なのだ。

「まぁ、可憐姉さんといえば虚構ゲームよね」

 母がそう言って笑った。

「なんだそれ?」

 父が母に訊くと、

「小さい頃ね、可憐姉さんと会うと絶対にやった遊びよ。可憐姉さんの話を聞いて、それが真実か嘘かを考えて、真実だと思ったら右手を挙げて、嘘だと思ったら左手を挙げるの。兄さんと私はそれにハマりにハマってた時期があってね、可憐姉さんが高校を卒業する頃にやってたのかな? そんな頃だと思ったけど、それが真実かどうかは分からないまま終わるの。

『真実は心の中だけに留めておくものなんだよ』

 て言葉でね」

「そんな遊びがあったんだな。でもまあ、今の話を聞いただけじゃ、そこで話された話は全部嘘みたいなものになるな」

「はは、そうかもね」

 そんな話をしている両親の後ろで、私はずっと考えていた。なんだろう、心に引っかかる。

(もし大叔母の話が全部嘘だったとしたら)

 そう考えた途端、心がギュッと締め付けられるような気になるのだ。

 私はその思いを抱いたまま、松本の家まで戻った。


 家に帰って、インターネットを使って検索をかける。

『虚構ゲーム』

 何もヒットしないかと思っていたが、ヒットしたのがあった。

『今はもはや絶滅危惧種!? かつて京で流行った虚構ゲームとは』

 そんなサイトがあった。クリックして中を見る。

『1970年代後半に、NNB西日本京放送局で放送されたクイズ番組『ドンナモンダイ』のチームトーナメント最終決戦に用いられたゲーム。司会者のます清貞きよさだの話を聞いて、それが真実か嘘かを考える二択ゲーム。真実だと思ったら緑の札を挙げて、嘘だと思ったら赤の札を挙げるゲーム。問題が出し終わっても、その答えについては発表されず、どっちが勝ったのかは最後の得点発表になるまで分からない。運営がいくらでも改竄かいざんできるように思えて、当初は視聴者からの人気は著しく低いものであったが、段々とその最後まで分からないモヤモヤ感がやみつきになり人気が拡大。80年代初頭、地方から京に修学旅行などでやってきた学生らが地元に持って帰ったことなどで全国的に有名になるが、正確に伝わったのはおそらく最後の締めの言葉『真実は心の中だけに留めておくのさ!』だけであろう。なおこのセリフは、1979年に司会者の升清貞が西日本の全国番組に出演した際に使っていて、その年の流行語大賞に入っている。』

 その記事にはそう書かれていた。ということは、大叔母はもしかして、この番組をなんらかの方法で知っていて、それにハマっていたということか? その言葉がずっと頭から抜けずに使い続けた結果が祖父との対立を招いたのか? もう分からない。真実は一体なんだというのだ。

 そう思って、私はソファにドッカリと座った。自然と大きなため息が出た。疲れた。考えるのも、なにもかも。ボーッとして、このまま意識を失って、そして気づいたら朝になっていて……。そんなことを望んでしまっていた。

「……寝よ」

 私はそう呟いて、自室に戻りベットに入った。睡魔はすぐにやってきて、次に気づいたのはそれから4時間後であった。そしてすっきりした頭で改めて考えて、そんなのが真実かどうかなど、私には関係のない話だから気にしても無駄なことに行き着いた。

「次に会った時にでも訊いてみようかな。きっと同じこと言われるだろうけど」

 私はそう呟いて、ベットを後にした。


 それから数日後の月曜日。夜に1本の電話が掛かってきた。母が出ると、すぐに私を呼んだ。電話を変わったら、その相手は晴海だった。

「どうしたの?」

『いや、あのね。前に話したじゃん、凉ちゃんのこと』

「え、ああ。あの秘密だか内緒だかってやつ?」

『そう。あの内容が分かったの』

「へえ」

 私がそう抑揚のない返事を返すと、電話の向こうで晴海がふふっと笑った声が聞こえた。

『聞いて驚きだよ?』

 いきなりそう言われて、小さく笑いながら、

「なによ」

 と私は返した。しかし電話越しから聞こえた言葉は、想像のレベルを遥かに超えた驚きの内容だった。

『凉ちゃんがね、松本に引っ越してくるの』

 一瞬それが日本語なのか分からなかった。しかし思い返して、確かにそう聞こえたことを認識すると、

「え、どういうこと?」

 と訊き返さずにはいられなかった。

『凉ちゃんね、母親との思い出の詰まった館にずっといるのはただの苦痛でしかなくて、お兄さんとも上手くいっていないから、一人暮らしをして生活を変えるとともに、もう環境も大きく変えようということで、私の通っている高校に編入しようってなったんだって』

「待って待って、話が凄く飛躍してるよ?」

『うん、してる。でもね、凉ちゃんは凄く嬉しそうだった。だから私もそれでいいし、それ以上に私を頼ってくれたことが嬉しくてさ』

「……」

 状況が飲み込めない。つまり、佐倉財閥の令嬢の凉は、過去の自分の都合と家庭の都合で一人暮らしを始めると。だがおかしい。何かが引っかかる。凉には凄く大きな欠点があったような……。そうだ、あれだ!

「え、でもさ、凉ちゃんって、晴海と同じ高校に通えるの? 確かあの子、勉強が……」

『編入試験のためにあの後ものすごく勉強したんだって。そしたら普通に頭良くなっちゃって、そのまま編入試験に合格したってさ』

「へ、へぇ……」

 さすが、元主席。昔の要領を取り戻したってことか。凄い子だ。だが、どうしても気になってしまう。

「それじゃあ、これから一緒に学校生活送れるじゃない」

『うん、嬉しい。でもね、私たち受験生なのよ? 高校3年生の夏に転入してきても、それがいい選択だったかは分からないわ』

「同感よ」

 そう、なぜこの時期に転入したのか。そのまま大学まで頑張ればよかったのに、なんでわざわざ高3の夏に転校してたのか。それがどうしても、理解ができないのである。

『でも良かった。元気になったみたいで。ちなみに手紙は凉ちゃんに渡しておいた。正月かどっかで持って帰るって言ってたから多分大丈夫』

「分かったわ。ありがとう」

『うん。それだけ。じゃあね』

 そう言って電話は切れた。高校か。楽しそうだななどと回想し、青春の思い出にしばらく浸っていた。


 そして時は過ぎた。私は今、結婚式場にいた。曾祖母が亡くなって2年と少し。桜の舞う4月の吉日に、姉、小出美菜と従妹叔父、瀬谷冬継の結婚式が行われた。

 つつがく全てが終わり、披露宴もどんちゃん騒ぎで大笑い。父はメッセージで泣き出してしまうし、いつもムスッとしているイメージの祖父も今日はにこやかに笑っていた。

 そんな中、私はある人に近寄って話しかけた。

「お久しぶりです。息子さんのご結婚おめでとうございます。あと、ひいバアの件ではお世話になりました」

「あら、美佳ちゃん。お久しぶりね。そちらこそ、お姉さんのご結婚おめでとう」

 そう、大叔母である『瀬谷可憐』だ。2年前に出てきた新たな疑問。ついにその解決をする時が来たのだ。

「あの、言いにくいのですが、今日はお話がありまして」

「なにかな? また何かの協力?」

「ええ、まあ。真実を知りたくて」

 私がそう言った瞬間、大叔母はクスッと笑った。

「真実ね。となると、兄さんに聞いたのかしら?」

 大叔母が何かを含んだような笑いを浮かべた。

「ええ。2年前に祖父から少し」

「へえ、結構昔じゃない。それで、その用件は?」

 そう訊かれ、私はひとつ咳払いをした。少し離れたステージでは優さんと父がマイクでやりとりをしている。

「私が大月に初めていった日、特急列車の中で可憐さんから聞いた話、あれは真実ですか?」

「ふふっ」

 その質問に彼女は笑った。そして、

「つまり、あたしと兄さんの間の過去が嘘かどうかってことね」

 と言った。

「そうです」

 私が答えると、彼女はこう答えた。

「あたしたちの胸の内に真実があるわ」

 その言葉を聞いて、私は少し口許が緩んだ。その答えが、妙に嬉しかったからだ。

〈さて、将斗くん。俺たちの子供が結婚するということは、家系図を見ると凄い事態になっているみたいなんだけど、分かる?〉

 会場に響く優さんの声。

〈みたいだね。まあ軽い親戚婚みたいなものだし、そうなってもおかしくないのだけどもね〉

 父がそう言う。そして、父と優さんは2人で目配せして、

《大家族になっちゃったねぇ!》

 と言った。するとステージの後ろのスクリーンに、家系図が映し出された。

 一番上に『瀬谷さくら』『瀬谷統』『佐倉凛』。さくらと統が線で結ばれ、同じように統と凛も結ばれている。

 そしてさくらと統の間に『瀬谷祐登』と『瀬谷優』があり、優の横に『瀬谷可憐』の文字がある。それも線で結ばれている。可憐の上には『蔵本渉』と『蔵本瑠璃』の文字があり、そこから『蔵本実秀』の分岐もある。

 それは置いておき、優と可憐の間から『渡辺夏津美』『明石坂春華』『瀬谷冬継』へと線がのびている。そしてその冬継の横にある『瀬谷美菜』という文字。線が結ばれ、姉がもう小出家にいないことを示しているような気がして、少しばかり寂しさを覚えた。

 その瀬谷美菜を辿っていくと、まず『小出将斗』と『小出美咲』に行き着く。もちろん私の名前である『小出美佳』へも分岐している。そしてその上に、先程出てきた『蔵本実秀』と『蔵本紀薇』の文字。蔵本家はその下の分岐である『蔵本晴』で止まっているが、瀬谷家と小出家の結婚に関係ないので気にしないのだろう。

 その『蔵本紀薇』の上なのだが、先程の『瀬谷統』と『佐倉凛』との間の線に結びついている。そう、どう見てもこの家系図は複雑なのだった。

〈いや、驚きですよ。新郎と新婦にはこの図を見ただけでも三人同じ人の血が混じっていますよ?〉

 優さんが少し笑いながら言う。

〈複雑すぎますよね。まあ、裏事情は色々あるので省きますが、ひとつ言いますと、戦時中だったことが大きいんですよ〉

 父がそう言う。確かに父は一部始終を私たちから聞いていたので、知ったか振りでは無いのだろう。

〈まあこれは、誰がどう見ても正真正銘の大家族でしょう〉

 優さんがそう言う。それを苦笑いで見ていたのは、私と母、そして伯父と晴海であった。

 なんといっても、私たちは知っている。更に複雑なのが、その『瀬谷さくら』という文字の上に続く道であるということを。まず瀬谷さくらの本名は『佐倉奏』だ。彼女は『佐倉凛』の兄の子である。つまり、それを辿っていけば、この家系図に載っている多くの人が佐倉凛の両親に辿り着いてしまうのだ。それは今晴海と同じ大学に通っている凉も同じであって、彼女もまた、私たちの遠い親戚であることを示しているのである。

「にしても、いい響きね。大家族なんて。将斗さんも優さんも、よく考えたわね」

 母が私にそう言った。そこに大叔母が私達に言う。

「それにあの家系図。あれを作るにはあなたたちの調査があってこそよ」

 なんか照れ臭い。でも確かにそうだ。さくらさんの身元を公開しても良いという許可さえ降りれば、更にその上を提示してみたいところではあったが、さくらさんの記憶を刺激するわけにはいかず、そこには触れずに話が進められた。

〈では、新婦からの一言で、この場の締めといたします〉

「え、私!?」

 急にマイクを向けられて挙動不審に陥った姉であったが、コホンと一つ咳払いをしてこう言った。

〈私たちの出会いは、2人の曾祖母が作りました。まず最初が瑠璃さんのお葬式。その時に私と彼は出会いました。そして次に凛さんの遺書。それがきっかけで可憐さんと親しくなりました。その息子の冬継さんを紹介され、お見合いをし、今こうしてここに立っています。私は2人の曾祖母に感謝をします。今の私を作ってくれてありがとうと、この場をお借りして言います〉

 姉の言葉を聞きながら、遺書から始まった難題な人探しの一部始終を回想した。

――遺書、伯父の話、大叔母の話、物語、恋愛、逃亡、捜索、出会い、意思伝達――

 2年前の思い出に浸っていたら、知らないうちに涙が流れていた。

〈そんな親族が作った出会いだったからか分かりませんが、こんな複雑な結婚となってしまい、申し訳ありません。ですが、家庭は絶対に複雑なものにしません。これからも私たち、瀬谷家をよろしくお願いします!〉

 最後に姉の締めの言葉が聞こえた。会場は拍手で満たされた。私は涙を拭って、結構遠いステージでお辞儀する姉に叫んだ。

「これ以上複雑にしたら、許さないんだからねー!」

 私の声は誰の耳にも届くことなく、ただただ拍手の中へと消えていった。ステージの上の姉が、顔を上げて、少しだけ微笑んだような気がした。

【分割日本シリーズ】『大家族』

最後までお読みくださりありがとうございました。

評価、感想、お待ちしております。


また、私の作品にご興味を持っていただけましたのなら、連載を続けております『神継者〜カミヲツグモノ〜』もぜひお読みください。系統はだいぶ異なりますが、お気に召すなら幸いです。

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