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大家族  作者: ひらたまひろ
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冒頭

『皆さんがこれを読んでいる頃は、私はもうきっとそちらの世界にはいないのでしょう。体調は大丈夫ですか? 何がなんでも健康が一番です。私は自分が長生きしたと思います。ボケることもなく、孫、そして曾孫ひまごにも会えて、色々なことを学びました。本当にありがとう。……

(中略)

 ねえみつるさん。私はもうすぐ死にます。この人生で悔いがあるとしたら、あなたとの思い出でしょうか。出会った頃、あなたはあんなに私を大切にしてくれたのに、私はあなたを受け入れられませんでした。あなたが戦場に旅立つ時、私はあなたを見送れなかった。心残りです。でもあなたもあなたです。何も言わずに出て行くなんて悲しいです。この七十五年間、あなたのことを考えなかった日はありません。紀薇きら実秀みつひでさん、孫や曾孫にも決して心の内を打ち明かすことはありませんでしたが、今になって正直にうと、あなたという存在がいたということを教えておくべきだったのかもしれません。

 佐倉さくら財閥の末っ子として産まれて、記憶のないくらい幼い頃に過ごした東京に、疎開先より戻ってきた私を優しく迎えてくれたあなた。でも当初、その優しさを拒んだ私は一体何様なんでしょう。今はどこかで生きているのでしょうか。どこかで楽しい人生を送っているのでしょうか。それとも、私と同様にこの世を去る、もしくは去ったのでしょうか。私には分かりません。もう瑠璃るりわたるさんも亡くなってしまいましたよ。人間は歳を取ります。そしていつか老いて死にます。

 あなたがもし生きているのなら、私は黄泉よみの世界であなたを待ちます。この七十五年間と同様に、ずっとずっとあなたの帰りを待ち続けます。もし死んでしまっているのなら、私はもうじきあなたに会えます。そして伝えたいです。「大好き」と。あの頃、最後の別れに云おうとしていたのですが、ついに云えず終いでした。だから伝えたいのです。

「想いは声に出さなきゃ伝わらない」と云ったのは、確か瑠璃でしたっけ。その言葉は正論で、本当にそうなのです。私もよく知っています。ですが、心の内を相手に伝えるという行為は焦りと躊躇ちゅうちょの狭間にあって、どちらとも複雑に絡まっています。その行為をしようとすると、いつどんなときでもそれらを率いて心に現れます。だから難しいのです。そう簡単に、ほいっと云えるものではないのです。若い頃はそうでした。云おうとしても、躊躇ためらいが先を越えてしまうのです。そうして伝えられずに終わった想いを、私はまだこの胸にしまってあります。

 ですが、もう伝わらないかもしれません。黄泉の世界が存在する証拠は無いですし、現世で直接伝えることに意味があると私は思うのです。あなたが生きているなんて正直思えません。あの大日本戦争で、東京は散々な有様になりました。あの中で戦闘をしていたのであれば、あなたが生きているなんて思えません。せめて、あなたの墓やあなたの亡くなった場所が分かればいいのですが。そうしたら、そこにこの想いを伝えに行くのに。もうあなたを知っている人は片手で数える程度でしょうね。死ぬ間際にもなって、探す元気なんてありません。伝えたいという願望は、胸の内にしまうことにしましょう。

 暗い話になってしまいましたね。皆さんを置いてけぼりにして申し訳ないです。……(以下略)』

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