幸せのホットケーキ
「いらっしゃいませ!」
いつもと同じように、私は店のキッチンでホットケーキを焼いていた。
が、次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
気がつくと、私はキッチンごと石造りの大広間に立っていた。
目の前には巨大な玉座。
そこに腰掛けているのは、角を生やした恐ろしい姿の……魔王?
「貴様!何者だ!」
魔王の側近の怒号が響く。
周囲を取り囲む魔物たちが武器を構える。
「あ、あの、ホットケーキ屋です……」
「ほっと、けーき?」
魔王が首を傾げた。私は震える手でフライパンを指差す。
「甘くて、ふわふわで……」
「作ってみせよ」
恐怖のあまり手が震えたが、ホットケーキを作り始めると不思議と落ち着いた。
慣れた手つきで生地を混ぜ、フライパンで焼き始める。バターの香りが広間に広がる。
焼きたてのホットケーキにメープルシロップをかけ、震えながら魔王に差し出した。
魔王は一口食べた。
そして、静かに涙を流し始めた。
「こ…これは……母の、味だ…」
魔王の声が震える。
「私がまだ小さかった頃……戦争で全てを失う前に、最後に作ってくれた母の料理。甘くて、温かくて……」
涙は止まらない。恐ろしかった魔王の顔が、幼子のように歪む。
「私は……ただ、あの優しかった日々を、取り戻したかっただけなのかもしれない」
その日、千年続いた魔王と人間の戦争は終わった。
一枚のホットケーキが、世界を救ったのだ。
魔王はその後、ホットケーキ屋を開いた。
「幸せのホットケーキ」




