7
その日、翌日の朝は平穏だった。
カーテンから漏れ出る朝日、小鳥のさえずりによって、起こされ、3人分の朝食の準備。
母は少し遅れて、妹である乙葉とともに2人食卓に着く。
それから仲良く朝食をとり、後片付け。
それからコーヒーを嗜み…というところまでは。
ブ〜ッブ〜ッブ〜ンッ!
そう…こんな福音…もといバイブ音が鳴るまでは…。
「ん?」
龍蔵はカップを置くと、画面を確認し、カオルからのメールだとわかると、一度無視した。
ブ〜ッブ〜ッブ〜ンッ!
ブ〜ッブ〜ッブ〜ンッ!
ブ〜ッブ〜ッブ〜ンッ!
しかしながら、何度も何度も同じようなバイブ音が鳴り響くので、舌打ちをしつつ、それを開くと、ほんの僅かながら目を見開くような内容がそこには書かれていた。
【芽吹カオルは預かった。返してほしければ、指示に従え。】
「別に返してほしくないので、焼却炉に放り込むなり好きにしてくれ…っと。」
なぜ返してほしい前提で話が進んでいるのだろう?と思った龍蔵は処理の提案と加えて即座にそう送ると、再びコーヒーブレイクに洒落込んでいる間に返事が返ってきたらしい。
やれやれまたか…。
と複数人のセールスが短時間の間をおいて来た時と同じような気持ちで、再びそれに視線を落とすと、今度は違ったメールアドレスからのものらしい。
最近、自分の裸などが載せられたスパムメール(中学の元同級生から)などが送られて来ており、一応そちらの可能性についても考えたのだが、件名と意味がありそうなアドレスを確認し、それはないだろうとそれを開くと、こう書かれていた。
【引き取りに来てください。場所は生徒会室ですので。】
それを見た龍蔵は、優雅だったティータイムを、冷めたコーヒーの一気飲みという形で終え、流しにそれを置くと荷物を持って家を飛び出した。
―
そうして、生徒会室へと辿り着いた龍蔵は腕を組み、仁王立ち。そして、説明を求めた。
ゴゴゴゴ……。
…有無を言わせず。
ゴミでも見るような視線や、そんな雰囲気に当てられたのだろう、蓑虫のように縄でグルグル巻きにされたカオルはペラペラと話してくれた。まるで弁明でもするかのように。
「あの…これはなんというか…。…あの…その…実は…。」
先日龍蔵のアドバイスを受けたカオルは、性的な魅力を高めるべく、朝早起きして、AVをたっぷり見てから、登校したらしい。
たっぷり興奮し、息を荒らげながら、道を歩き…。
…そして、学園の廊下でトレジャー(エロ本)を見つけ…見入っていると、背後から近づいてくる生徒会役員どもに気がつかず、目を覚ますと、このありさまだった。
…とのこと。
「なんか発情期の雌の獣みたいにハァハァしてて、凄く気持ち悪かった。もし女でも…って、今は普通に女もあるのかな?…とにかく電車に乗ってたら、女相手でも痴漢だと思われるんじゃないかな?ってくらいキモかった。」
目撃者少女A談。
「パンツどころかスカートまでグッショグショだったものね。両方保健室で借りてくるの凄く恥ずかしかったわ。」
被害者少女B談。
「で…汚物はそこのビニール袋の中。」
報告者少女C談。
「……。」
龍蔵は言葉を失った。
ドン引きもドン引き。超ドン引きだ。
まったくカオルというやつは一体、俺の耳をどれだけ汚せば気が済むのだ。
「はぁ…それで?」
「「「?」」」
「アンタたち…いや、生徒会が俺になんのようだ?」
龍蔵はもうカオルのことなど視界にすら入れたくないと、「後生だ!ここからなら3人のパンツが見えるんだ!!」という必死な変態台詞を無視して蹴り飛ばして壁の端へと寄せる。
ベチンッ!!と良い音が鳴ったが、この空間は汚物は消毒という概念に支配されていたのか、なんだかんだ言って、「あっ…ヤバッ…。」などと優しい気持ちを持っていたのは龍蔵のみらしく、3人は軽く口元に笑みを浮かべていた。
すると、程なくして、彼女たちは龍蔵の言葉を理解したのか、驚きの表情を浮かべた。どうやら本来の目的を忘れていたらしい。
「「「……ハッ!」」」
と、思い出した様子を見せると、彼女たちはプチ会議を開き、誰が言うかで揉めた結果、仲良く全員でいっせ〜の!なんてものをしようと結論付けたらしいが、上手くいかず結局はツリ目がちのツインテール美少女(真っ平ら)と表現して相違ない1人がピシッと龍蔵を指さすと、こう告げた。
「小森龍蔵!感謝しなさい!アンタを生徒会に入れてあげる。」
「カオルが一緒ならいいぞ。」
「「「……。」」」
マジで…と呆然と龍蔵を見つめる3人。
「……。」コクリ。
「「「……。」」」
今度はベチンッ!と痛そうに顔を打ち付けながら、「絶対に見てやる!」と意気込み身体をクネクネとさせながら、後ろを必死に向こうと足掻く蓑虫を見る3人。
「……。」そんな半分死んだような目を龍蔵はこのような様子で見つめていると、3人はようやく結論を出した。
忸怩たる思いとでも言えばいいのか、歯噛みしながらこう告げられる。
「「「…っ…ま、またの機会に…。」」」