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約束通りすぐに帰ってきたカオルはいつものようにウザかった。
散々喚き散らし…まあ、それだけならば録画しておいたテレビ番組を流し見るのに差し障りなかったのだが、時折大して上手くもないのに肩を叩いてきたり、揉んできたりと本気で、夏の夜に出てくる蚊並みの存在感を放つようになって来たので、久々にテキトーに殴って気絶させて、アイツの家に送り届けてやった。
その時カオルのお母さんに「いつも迷惑掛けてごめんね。お茶でも…。」というのを固辞してすぐに帰ろうとすると、お菓子なんかを貰ってしまい、なんだか申し訳ない気分になった。
こんなことなら道端はマズいにしても、アイツも知っている近くの公園にでも寝かせてくればよかったか?
たぶんもし攫われるなりしても、アイツと少しでも会話すれば、帰ってくるだろうし…。
「あっ…アレ帰ったの?」
「帰ったというか、送った。」
「ホントギフト的に人を贈れるようなサービスがあったら、良いのにね。」
「…まったくだな。」
もうそれは半分人身売買の配送と大して変わらないのでは?というそんな物騒な会話?なんかをしていると、きゅ〜っとお腹が鳴る音が聴こえた。
「お腹空いた。ところでご飯は?」
「まだ。だからカオルママから貰ったお菓子でも食べてろ。」
「う〜い。それじゃあ持ってくね。」
お菓子を取るなり、階段を上っていこうとする乙葉。
それを見て、龍蔵はふと思い出した。
「乙葉、食べるなら、自分の部屋で食べろよ。」
「やだ〜。」
「……おい。」
「だって兄さんの部屋のほうがWiFi繋がりやすいんだもん。」
…とまあ、なぜカオルを部屋へとやりたくなかったかはこういうことだ。
あのクソガキ的根性のカオルのことだ。
きっと、「あ〜、いけないんだ!!勉強してない!!」などとほざき、龍蔵だけでなく乙葉にまでウザさを際限なく振りまくという迷惑を掛けるに決まっているのだ。
ストレッサーへの対処として、二階にアイツを上げなくて正解だろう。
「…はぁ…それならなるべくベッドを汚さないように食べてくれ。」
「う〜い。あっ…夕飯ちゃんと入るようにホント摘むくらいしか食べないから、安心して。」
……。
果たしてそれは安心なのだろうか?と龍蔵は苦笑を浮かべていると、自室のドアが閉まる音が聴こえてきた。
「…とりあえず葉月さんが帰ってくるまでには作り終えないとな…。」
龍蔵はキッチンに立ち、冷蔵庫を開けるなり固まる。
「……まさか卵が切れているとは…明日の朝どうしよう…。」
冷蔵庫に卵がないという不安は異常。
明日は忘れないように買ってこなければ…。
今日?今日はもう疲れたよ。
葉月さんは頼んでも、たぶん忘れるって。