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『現場からは以上となります。』
龍蔵は今、夕方の報道番組を流し見ていた。
『このように昨今、男性が大勢の女性に襲われるというニュースが騒がれていますが、どう思われますか?コメンテーターの言魂さん。』
『そうですね…もしかしたら男性の数が急激に減ったことに対する危機感で、女性の性欲が強くなってしまったのかもしれません。』
…なるほど。
確かにそうかもしれない。
これまでは年に一度ほど、ドがつくほどの変態が季節の変わり目に全裸コートなんてことをしてきていたけど、最近では週に一度くらいは遭遇する。
『そうでしたか、女性の性欲が…。』
『これはデータ的にも言えることなのです。こちらをご覧ください。これは女性によるレ…。』
「…と、つまりはこういうことだ、龍蔵。わかったか?」
……。
そんなふうに龍蔵が1人気分でテレビを見ていると、ふと横から声がした。
「?なんの話だ?」
「え?もしかして聞いてなかった…とか…。それならもう一度…。」
「いや、冗談だ。安心しろ。ちゃんと聞いていた(気がする)。」
相手は言うまでもなく、カオル。
そういえば、コイツが遊びに来ていたのだった。
「ならよかった。なら率直に聞くぞ。で?俺はどうすればいいんだ?」
知るか!
まあ、これが本音であることは間違いない。
付け加えるなら、こちらも率直に言って、まったくコイツの話なんて欠片も聞いちゃいない。
どうせ珍しくも、告白を保留にされ、自分を良いように見せるには?なんて、無駄な努力をしよう…いや、コイツを良く見せるには?というそれだけでも高難易度かつ結果に結びつかない努力を俺にさせようというのだろう。
どうせ確定的な未来の出来事。
運命を捻じ曲げられる神でもない俺はさも考えていましたよという雰囲気を滲ませつつ、テキトーに今のテレビの内容を引用することにした。
「…そうだな…とりあえず女の性欲が強くなってるらしいから、そこら辺から攻めればいいんじゃないか?」
いかにもテキトーな回答。おそらくテレビの内容が少しでも耳に入っているとすれば、文句の一つ口にしただろうが、カオルは余程熱心に話していたのか、なるほどと頷き…。
「なるほど…つまり見せ槍か…。」と、このように予想もしていなかった、とんでもないことを言い始めた。
……は?
「要するにセックスアピールしろってことだろ?わかったわかった。明日早速やってみる。」
「…いや待て待て。お前なにを…。」
「何ってナニをチラつかせて…。」
そう彼が口にした瞬間、龍蔵の頭には数日前、ゴミでも見るような視線を送った相手のことを思い出す。
…全裸コートの相手を…。
「……。」
「あっ…ちゃんと人気が無い…2人っきりの路地裏なんかでやるから、安心しろよ。それくらいの分別はあるからな。」
グッなどと親指なんかを立ててくるカオル。
それに龍蔵は内心確信すると、額に手を当てつつ、このド変態にそれをやめさせるべく考えを巡らせ、その答えはすぐに出た。
「…そもそもお前ナニ付いてないだろ…。」
「………あっ!」
―
「ただいま。げっ…。」
「俺を見るなり、げっ…とはなんだ!げっ…とは!龍蔵!妹の教育がなってないぞ!」
「いや、これで合ってる。よくやったな。」
「うん、やったよ、兄さん。」
彼女は龍蔵の義妹の乙葉。彼女は龍蔵の兄妹ということもあり、カオルに対しては辛辣。
まあ、転校初日という初対面でスカートを捲られ、泣いたことがあるからなのかもしれないが、女の敵に対しての反応としては適当なものに違いない。
「こんなバカに付き合って、ホント兄さんも大変だね。」
「ああ、ホントに大変なんだ…今もさっさと帰らないかと思ってるところだ。「えっ!?」ところで、乙葉は今日も勉強か?頑張れよ。」
「……あ…うん、そんなところ…。」
彼女は目を泳がせながら、そう告げると、誤魔化すようにリビングを後にした。
絶対に勉強なんかではない。それはおそらく誰の目にもわかるだろう。
彼女は階段を上っていき、自分の部屋に寄ることさえなく、龍蔵の部屋へと入っていくのがわかった。
「……なぁ、妹、今、龍蔵の部屋に入っていかなかったか?」
「ん?ああ、それがなにか?」
「……ごくり…確か女の性欲が…。」
「あ?」
「い、いえ、な、なんでも…。と、トイレに…。」
「…ああ、どうぞ。でももし二階に上がったら…。」
「………ご、ごくり…。」
「…わかってるな?」
「は、はい!わかってますっ!!で、では行ってくる!であります!!」