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引き受けた以上は仕方がない。
さっさと片付けてしまおうと、龍蔵はカオルに問いかける。
「で?誰なんだ?」
「ちょっ!いきなりやめろって、恥ずいだろ!」
…ここでその反応とかマジでコイツ…ホントウザいな…。
「…そうか、ならいつか…そうだな…じゃあ俺が鬼籍にでも入った後に言っておいてくれ。」
「き、鬼籍っ!?」
と、龍蔵のその言葉に慌てた様子を見せたカオルは「今言う!すぐ言うから!!」と口にすると、目線を逸らしながら、その女性の方を指さした。
今朝教室であんなことを言うものだから、てっきり別のクラスや学年、他の学校や職場なんかのどれかしらに当てはまると思っていたのだが、どうやら違うらしい。
なんとも剛毅なことだ。
そう内心、裸の王様(心)への敬意を払いつつ、龍蔵は顔をそちらへ向け、そこにいた女性を見て、少し驚いた。
「……光代?」
「えっ…龍蔵、知ってんの?」
「いや、知ってるもなにも…。」
光代美世。彼女はそれほど会話をしたことなどないが、小学1年生の頃からずっと一緒のクラスの子。
髪はセミロングで身長は女子の普通くらい。おそらく体重も。
勉強や運動も特筆すべきところはなく、容姿は悪くはないが、その他があまりにも普通という言葉で塗り固められているからか、龍蔵は男子たちの話題に上がったのを聞いたことがなかった。
まあ、龍蔵はほとんどカオルと一緒にいるから、その界隈に限ったことかもしれないが…。
しかし、なぜ今更彼女のことを気になんてし始めたのだろう?コイツが今まで好きになった相手のプロファイリングに引っ掛かるところは無さそうだが…。
「まあ、そんなことはどうでもいいや。聞いてくれよ、龍蔵。」
「…嫌だと言っても言うんだろ?ならさっさとしろ。」
「そうかそうか!そんなにも聞きたいか!なら教えてしんぜよう!実はな…。」
このウザさに本当のところなら聞きたくないと耳でも封じたい気持ちに駆られる龍蔵だったが、美世のことを好きになった経緯というやつに興味があったのか、龍蔵はしっかりと耳を傾け…。
「美世ちゃん、この前すっごい大口で欠伸してたんだよ。」
…そして、「大口で欠伸?」と思わず聞き返した。
「そう!それが物凄く可愛いくてな。」
目をキラキラとさせてそんなことを言うカオルに龍蔵は額に手を当て、そういえばこれがあったかと内心ため息を吐く。
このカオルとかいう男…いや、今は身体が女か…まあ、どうでもいいことだが…が好きになる相手には特殊パターンというやつがあることを、龍蔵は今思い出した。
普段カオルが好きになるのは、世間一般、いわゆる誰の目から見てもという枕言葉が付く美女や美少女の類。
しかしながら、時折…十回に一度くらいの割合で特徴的な、ニッチなところを好きになることがある。
今までの例で言うなら、くるぶしや隠れた目元、クシャミをした時の顔、大人なのに子供っぽいパンツなどが挙げられる。
どうやら今回はそのケースなのだろう。やれやれ。
「聞いてるか、龍蔵。すっごく大きく口を開けるんだぞ、もう吸い込む時のカー◯ィくらい!」
は?カ◯ビィ?
…う〜ん…それは可愛い…のか?
まあ、一度くらい見てみたいことは見てみたいかもしれないが…。
「…そうか…で、俺は何をすればいい?」
龍蔵はそんな好奇心を押し殺し、より素早く用件を済ませようとカオルに促す。
…なにせカオルがこんなふうに好きになった相手は何かしら厄介事を抱えていることが多いのだから。