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美世は現在、滅茶苦茶緊張していた。
その理由というのは、やはり龍蔵絡みのことである。
彼女はかつて語ったように母親である美乃里と大変仲がよろしい。
それは夕食の時のことである。
美世は、帰宅した小学生のように母にその日あったことを楽しそうに報告した。
やはりその話題の中心となるのは、いつものように龍蔵とカオルの愉快な絡みであり、美乃里はそれを目を細めつつ、どこか羨ましそうに聴いていて…。
すると、ふと彼女は思いついたように、パンと手を合わせると、こんなことを言ってきたのだ。
『みぃちゃん、漫画のネタになるかもしれないから、連れてきて。』
みぃちゃん、というのは美世の昔からの呼び名であり…と、それは今はどうでもいいとして!
その時、美世はこの美乃里の言葉を覆すというのに強い抵抗を覚えてしまったのだ。
なにせ連日連夜、彼女たちの話題の中心は龍蔵たちであり、美乃里がとても興味深そうにそれを聴いているのもなんとなくわかっていた…というか、羨ましそうにしているのもまた感じていたのだ。
ちなみにカオルからの告白も母親に報告している美世。
このように、連日連夜と表現したように、ここ最近は特にそれを煽るかのような行いをしてきたと自覚している美世。
そりゃあ、断り難いことだろう。
彼らを目の前にしても、最近会話も増えてきたし、さらっと流れるように誘えるのでは?と、謎の自信が生まれ、よし!とせっかくだからこれを利用して…とまで前向きになっていた彼女だったのだが…。
単的に言って、龍蔵たちを目の前にして、完全に日和っていた。
目の前には、幼馴染仲良し3人衆(実はカオルと夏希は仲良くないので、2人ずつ)が楽しそうに会話(カオルと夏希のいつもの喧嘩)しており、その輪の中に入っていくのは、なんとなくタブーのような気がして、積極的な女子たち(元男含む)もまたそこから一歩引いたようにして見ていた。
美世もいつもそのようにしており、今日もまたそれを楽しむというスタンスを、思わず取ろうとしてしまっただけだが、今日はそういうわけにはいかない。
美世が日和に日和った結果、今はすでに放課後であり、いつもの流れだとこのまま3人仲良く帰宅の途を辿ってしまうことだろう。
だから誘うのは今しかない。
そう思いつつ、また明日でもいいんじゃないかとやはりまた日和っていると…。
「光代、どうかしたか?」
「……え?」
いつの間にか龍蔵が目の前におり…あまつさえ、龍蔵にしては珍しく覗き込むような姿勢を取っていたから、美世はあまりの距離の近さにあたふたと手を振って、思わぬ行動を取ってしまった。
「あ、あの…良ければ今日、家に来ませんか!!母が会いたいそうなので!!」
「「「「っ!?」」」」
その言葉に、この場にいた全員の視線がこちらへと集中した。
それに、しまった…と頭が混乱して、思わぬ行動を取ってしまったことを後悔する美世。
なにせ本来美世が声をかけようとしたのは、彼女に告白したカオルであり、それに付随する形で龍蔵も来ることになるだろうと思ってはいたが、それはあくまでもオマケ的なものであり、主たる存在としてお呼びするつもりなど欠片もなかったのだ。
…いや、そもそも日和っていた、現在の美世は【また明日また明日】と日和見症候真っ只中であり、そんなつもりなどなく…と、自己で言い訳を繰り返し、そんなことをしているうちに、大人しい部類に入る美世は、「なにアイツ…。」という周りからの負の視線に晒されていることにようやく気がつき、青褪める。
このような彼女への嫉妬や嫌悪の視線自体は、実のところずっとあったのだが、母親である美乃里由来の空気を読めない天然さが彼女にもまた遺伝していた影響か、それらを欠片も感じていなかった美世。
しかしながら、ふと感情が揺られまくり、偶然、それを自覚してしまった。
どうしよう…と、より多くの情報が入ってきて、ネガティブになっていく美世。
そんな彼女がいち早くそれから逃れんと、冗談だと口にしようとしたところ、それより早く龍蔵が口を開いた。
「…お母さんが…か…。」
「えっ…あっ…いや…その…はい。」
龍蔵は美世から視線を外すと、顎に手を当て、何か考えるようにすると、すぐ近くにあったカバンを持つと、スタスタと教室のドアに向けて歩き始めてしまった。
えっ……。
と、このまま結論なく帰宅かと周囲が唖然とし、瞬間的にだが、美世を晒すヘイトが台風の目に入ったかのように静かになったところ、龍蔵が美世へと振り向いてきた。
「…何をしてるんだ、行くぞ、光代。」
「「「「えっ!?」」」」
そして、時間が止まったのだ。
「ほら…。」
と、龍蔵がこちらへと手を差し伸べるようにしており…。
美世は大急ぎでカバンを手に取り、それに追いつくとその手を取った。
そして、美世家玄関に着くなり…。
「りゅうく〜ん、いらっしゃ〜い♪ちょうどよかったわ〜♪」




