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凌辱。
そんなふうな言葉をまさかこの神聖なるグラウンド(そこら辺はよくわからない)で聞くことになるとは思わなかった龍蔵。
しかしながら、その言葉はやはり聞き捨てならない。
確かにカオルはヤバいくらいの変態である。確かに変態だが、流石に分別くらいは持っていよう。
現在も厭らしい、職質されろうなだらしのない顔で、モミモミと手を動かしてはいるが………いや、最近のコレを見る限り断言はできないか…。
「賭けに勝ったら…フフフ…グヘヘヘ♪」
…ああ、コイツなら本当にやりかねない。
龍蔵は考えを一転させ、そう結論づけたものの、それにはやはり疑問が残る。
流石に相手が了承しないと、コレの小心者たる人格からして、視姦する程度に留まるのではないか…と。
これまたヒドい話ではあるのだが…。
「こんなことなら口車に乗って、賭けなんて…ううう…。」
「賭け?」
「ううう…今日の測定で…多く勝った方が…。」
そんな夏希の言葉に龍蔵は額に手を当てた。
「そういうことか…厄介な…。それで今は?」
「ううう…3戦全敗…。これ以上負けたら…これ以上負けたら…。」
より強く龍蔵に抱き着いてくる夏希。
「これ以上負けたらどうなるんだ?」
「私の胸がも…揉まれちゃう。」
「……。」
「初めては…ううん!好きな人以外に触られたくないのに…。よりによってあんな奴に…。」
あんな奴。
奴は先ほどまでと同じように勝利を確信したのか、空中をモミモミしている。
…確かに夏希の自業自得な気はするが、それは彼女たちの小学生時代を考えると、いつか自分たち女性の手で…と、思うのもわかる。
なにせ毎日のようにスカートをめくられ、着替えを覗かれ、胸や尻をさわられ…と本当にヒドい目に遭っていたのだから。
現在も、おそらく同じ小学校だったと思しき、女子生徒たちが祈るような仕草でこちらを見ている。
そう考えると、流石にあの通報するべき変質者にそんなことをされるのはあまりにも酷だろう。
「龍蔵、助けて…。」
「……わかったよ。」
少し不干渉かどうか悩みはしたが、龍蔵はそう告げると、カオルのもとへと向かい、これからは自分が代わりに競技を受けることを交渉。
すると…いやはや、カオルはどうやら余程調子に乗っているらしく、交渉の【こ】の字すらなく、それを受け入れた。
そして、まず50メートル走。
「フフフ〜ン、龍蔵!今日こそ、俺はお前に勝つ!!」
隣り合ったカオルと龍蔵は各々構え、そして…「位置について…よ〜い……パン!」
「小森くん、4秒……」
…次は反復横跳び。
「こ、今度こそは…。」
ピーッと機械音が鳴り…。
「小森くん、90……。」
……最後はハンドボール投げ。
「いくぜ!オラ!!ゼッテー負けねぇ!負けねぇからな!!」テンションがハイになり、目も回っているカオル。
すると、どこからかこんな声が龍蔵の耳に届く。
「あっ…あの木の上で双眼鏡を持ったカオルが!!きっと覗…。」
ビュンッ!!シュルシュルシュル……ガンッ!!…ガシャッ(監視カメラが壊れる音)!!
…そして、どこか遠くへ。
「……ここからあの木までどれくらい?」
「さ…さあ…300メートルくらいはあるんじゃ…。」
「「「……。」」」
呆然とする周囲。そして、「ほっ…。」とその大きな胸を撫で下ろした夏希。
…そんな中、やけに可愛らしい声の慟哭が響き渡る。
「NOoooooooo!!!」
それを見た龍蔵はこう思った。
「…ジュースくらい奢ってやろう…。」
流石に最後のは自分でも引いた。人間じゃないだろ…あの飛距離は…。
カオル相手(物理攻撃)となると、人間離れした身体能力を発揮する龍蔵だった。




