表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

自主企画への参加作品をまとめましたシリーズ☆

キクチ物語

作者: 冬野ほたる

✻コロンさま主宰『菊池祭り』の参加作品です。

 


 数多(あまた)のキクチが寵を競い、(ひし)めく中でも、いずれの時代にも特別に愛でられるキクチはおりますもので……。

  



 日出る国の最高位の貴人に見初められたキクチは、親の官位は低いものの、そんな幸運なキクチの一人だった。


「どうしてあんな冴えないキクチが選ばれるのですか?! 納得がいきませんわ!」

「そのとおりです! 選ばれるのはこの私! このキクチのはずです!」 

「皆さま、何を仰っているのですか? 私、このキクチこそがふさわしいに決まっているではありませんか!」

 

 ここは貴人の後宮。

 寵愛を競い合うキクチたちは鬼畜のごとくに、あのキクチをどうにかしてその地位から引きずり落とそうか、どう嫌がらせをしてやろうか、と手ぐすねを引いていた。


 貴人の寵愛を一身に受けた、冴えないと揶揄されるほどに大人しい気質のキクチの心中は穏やかではない。後宮の不穏な空気は日に日に悪意をもって膨れ上がっていくのを、これでもかというほどに肌で感じていた。


 貴人の寵愛を受けることは大変に栄誉なこととされた時代。その一族が賜る恩恵も莫大なものになる。

 寵愛を受けられなかったキクチたちの嫉妬心と憎悪に、キクチは穏やかならざる不安な日々を過ごしていた。


 そんなある日に、とうとう張り詰めていた均衡を破る不気味な事件が起きてしまった。


 澱んでいる沼から引き上げられたような大量の朽木が、寵愛を受けるキクチの部屋の前に投げ捨てられていた。


 黒く変色し、腐り、異臭を放つ朽木。


 どのキクチの、誰の仕業かは分からない。しかし、ここに確かに捨てられた朽木がある事実。


 これは警告なのだろうか。次は……キクチがそうなるだろうという……。

 自身に何をされるか分からない恐ろしさに震え上がった。


 キクチは己の身を守るために、陰陽師に調伏(ちょうぶく)を願い出ることを決める。


「おそらくはキクチの中にその者がおりまする。どうか……どうか……(わたくし)をお助けくださいまし……」


 陰陽師は言った。


「しかし、皆が皆キクチでは……どのキクチなのか、(わたし)には区別がつきませぬ」


「……皆、キクチでごさいますが、あのキクチはキを強く発音をするのでございます。そして、このキクチはクを、そのキクチはチを、それからキク↘️チと音を下げる者や、逆にキク↗️チと上げる者。キ↘️クチやキ↗️クチ、またはキクチ↘️やキクチ↗️。キクッチのように音を詰めたり、詰める場所もキとクの間だったり、チの後ろだったり。ほかにもキィクチのように音の間に小さきィが入ったり、またィが入る場所もさまざまで、ときには小さきュが入ることなどもございまして……」


「もし、もし。暫し待たれよ」


 陰陽師は困惑顔で話を遮る。


「も少し解りやすくお願いしたい……」


「ですから……解りやすくご説明をして差し上げているところでございますが……?」


「……それで?」


「はい」


 陰陽師は頭を抱えた。

 貴族社会のキクチにかんしては、ややこしくて厄介だから気をつけろと上役に言われていたのは、こういうことだったのかと身を持って知る。


「して、まだキクチの種類は続きますかな?」


「はい。まだざっと50種類以上はあるかと……」


「……」


 さらに頭を抱えた陰陽師は、ひとつの提案をする。筆に墨を付けて、なにやらさらさらと紙に記していく。


如何(いかが)でございますかな。これならば先程の説明よりは少しは解りやすくなったのではないかと……」


 書き上がったそれを目の前のキクチに見せる。しばらくはそれを思案するようにじっくりと眺めていたキクチ。ゆっくりと肯くと、にっこりと微笑んだ。


 それがこの世に「菊池」「菊地」「木口」「木久知」「喜久池」「紀久地」「希久千」「利口」「鬼久知」などなどのキクチが誕生した理由であるとか、理由でないとか……。

 



 いずれも昔、むかーしのお話にございます。





 


主人公の「キクチ」は「菊池」となった模様です。


朽木を置いたキクチは「木朽」になったとか、ならないとか。


 あのシーンですよ(*´`*)

 挿絵(By みてみん)

 イラスト 幻邏さま

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キクチ姫のアイコンです♡
 73bi5yg174r99jhbawarffyn4mb8_12o8_8c_8c_1y1k.png″alt=
イラスト 幻邏さま

菊池祭りとは何ぞや? ↓菊池を読む
菊池祭り
バナー作成/菊池(幻邏)

よかったら覗いてみてください♪
ヘッダ
新着作品異世界恋愛現実恋愛純文学ハイファンホラー詩エッセイ>レビューの多い


 
冬野ほたるの作品
新作投稿順
総合ポイントの高い順
作製コロンさま
― 新着の感想 ―
[気になる点] 声を出して読みたいけど笑ってできない。 [一言] 格ゲの入力コマンド。 意図された事では無いのでしょうが、確かに! いやでもこれは読み返さないと陰陽師じゃなくても頭かかえますねw
2024/09/13 22:19 退会済み
管理
[良い点] キクチは一人しか選ばれない。致し方ないことです。キクチとしてキクチゆえの宿命。多くの悲劇の先に菊池がいるのですね!! [気になる点] 矢印のところは、格ゲーの必殺技入力を思い出しました。難…
[一言]  並び替えますよね、そのふたつに(笑)  平山さんを「ヒマラヤ」だったり! 「くちき」繋がり(?)で、「いちご」も「い」と「ご」のどちらが↑かわからないや。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ