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怖がり少女の友人の後をつけるモノ

 

「暇だなぁ」

 灯の友人、玲衣が机の上に寝そべって言う。文字通り、机の上に寝そべっている。

「なんかやるべ」

 真白がゴテゴテのネイルをいじりながら言った。

 ちなみにテスト期間中であるが、勉強するつもりのない奴らの末路である。

「良いゲーム、あるよ。かなりの激レアゲーム。明日届く。複数プレイできるし、1人でやりたくないし、うち来なよ」

 近くの席の心香が眼鏡を光らせて言った。

「ま?」と真白は言って、玲衣は「よし、きた!」と目を輝かせて、起き上がった。

「おい、灯、行くぞ」

 玲衣はそう言って灯の肩を叩く。

 教科書を開いて、頭を抱えている灯はいきなり言われて「え、勉強があるから」と言って断ろうとした。灯はバカだけど、勉強はしておきたいタイプだ。つまり勉強してもバカという悲しきバカなのである。

「なーに言ってるんだよ。仲間だろ?」

 なんの仲間かはわからないが、淀みなき美しい澄んだ瞳でキラキラと灯を見つめる玲衣と真白と心香。その瞳に見つめられて、断るほど灯はメンタルが強くなかった。

「しょうがないなぁ。明日だけだよ。で、なんのゲームなの?」

 灯がしぶしぶ頷いて、心香に尋ねる。

「ん?伝説のいわくつきホラーゲーム」

 しれっと答える心香に灯はかの有名な絵画、誰かさんの叫びのような顔をして固まった。

「いわくつきってなに」

 真白が心香に聞く。

「やり始めたら、ガチの心霊現象が起きるらしい」

 心香がそういうと灯はわかりやすく、青ざめた。

「女に二言はないよな?灯」

 断ろうとした灯に気付き、すぐに灯の肩を掴んで玲衣は満面の笑みを浮かべた。





 明日が憂鬱である。灯はホラー系が大の苦手なのだ。嫌すぎて、とぼとぼ足元を見て歩いていた。

「灯ちゃん!」

 灯は声をかけられて顔を上げた。

 美頰だ。相変わらず美しい少女だ。近づいてきただけで、いい匂いがする気がする。灯の気のせいだろうけど。

 学校は違うのに、今や頻繁に会う大好きな友達だ。よく灯の家に遊びに来る。

 今日は約束していなかったのにどうしたのだろうか。


 そう思った矢先に、灯はあるものに気づいた。美頰の後ろの電柱に潜む男が見えたのだ。こちらを見ている。

 鈍感な灯でも何かわかった。

 美頰のストーカーだ!!

 灯はそう思い、咄嗟に美頰の腕を掴んで走り始めた。しばらく走り続けて、後ろを確認すると、電柱に潜んでいた男は、灯達の後をつけていた。それも姿が見えないようにとてつもない速さで電柱に隠れている。

 まるで忍者のような身のこなしだ。

 もう無理である。灯は絶望した。美頰は何も言わずに灯についてきてくれている。それはそれで可愛すぎる。


 ひたすら、走り続ける美少女2人(灯も美少女と名乗りたくなった)に通行人は一瞬見るが、すぐに興味をなくす。

 目の良い灯は、少し先に知り合いを見つけた。


「助けてー!」

 息を切らしながら、その人物の前に行き、そう言った。その人物はキョトンとした顔で灯を見た。

「あ、レンレンの妹じゃん。お久しぶりー」

 兄の大学の友人の成史(なりふみ)だ。

 成史は、はぁはぁと息を切らしてしゃべれない美少女2人(灯も以下略)をみて、異様な雰囲気を察したようだ。

「どした?」

「お、追われてる」

 灯はそういうと後ろを振り返り、電柱にいる男を見て身体を震わせる。美頰はきょとんとしている。

 成史はとりあえず、女子高生2人とファミレスに入ることにした。


 ファミレスに入り、灯と美頰は座って、成史がドリンクバーでついでくれたジュースを飲んで、ようやく息を落ち着かせた。

 成史はポテトを頼んでつまみながら、聞いた。

「で、何があったの?」

 美頰は首を傾げて、灯を見る。

「何があったわけでもないけど、ストーカーみたいな人が美頰ちゃんの後をつけてたから、逃げてた」

 灯がそう説明した。


「ストーカーか。身に覚えはあるの?」

 成史の質問に、美頰はポツポツと話し始める。

「…言われてみれば、最近気が休まらない。常に誰かに見られているみたいに気が張ってて、寝てる時も視線を感じてすぐ起きる。けど、周り見渡しても誰もいないから気のせいだと思ってた」

「え、家の中に入ってきてるってこと?」

 灯が美頰の言葉に目を見開く。

「…わからない。私には()()()()()。私の気のせいかもしれないし、心辺りも、あんまりない」

「あんまり?」

 成史が美頰の言葉に突っ込んだ。美頰は鞄からスマホを取り出した。そしてスマホの画面を2人に見せた。


 不在着信120件


「全部、弟からなの」

 美頰の言葉に灯は口をポカンと開けて、成史はふむと顎を撫でた。

 美頰の話によると、ここ最近、弟がおかしいらしい。有り体に言うと束縛がすごいとのことだった。毎日絡んできて5W1Hを聞いてくるのだ。しかし、それはまだマシの方だった。どんどん悪化してきて、昨日などは授業中以外はずっと何をしているのか、とメッセージが送られてきて、返信が遅れると電話がかかってくる。美頰が電話に出れなかったら、電話に出るまでかけ続けてくるようになった。


「弟くんが変わった、思い当たる理由はないの?」

 灯がそう言うと美頰はまたぽつぽつと話し始めた。

 一つ目は美頰と美頰の弟は美頰が養子の為、血が繋がっていない。前までは美頰が距離をとっていたが、最近、美頰は心機一転し、家族を大切にしようとコミュニケーションを多く取るようになった。 

 二つ目は灯と友人になってから美頰はアクティブに動き回るようになった。友人がいなかった美頰は学校が終わったらすぐに帰宅したり、休日は母と家で習い事したりとインドアだったらしい。

 三つ目は美頰の弟は、進学校で有名な私立の中学校に入学した。中高一貫の男子校で、かなり頭が良くて優秀な男の子が入るところだ。毎日、勉強に明け暮れているそうだ。


「なるほどね、俺わかっちゃった」

 成史が、うんうんと頷きながらそう言った。


「弟君、俺の後輩。男子校って気が楽だけど、やっぱ女子がいないって花がなくて息がつまるんだわ。さらに、あそこの先生たちはめちゃくちゃ厳しくて慣れるまでは辛い時もある。で、家には血の繋がらない綺麗で物静かなお姉ちゃんがいるわけだろ?さらにそのお姉ちゃんが初めての友達にとられそうになってる。弟くんの気持ちわかっちゃったわ」

 成史はそう言うが、灯と美頰は全然わからなかった。それより灯は成史のことを勝手に仲間(バカ)だと思っていたのだが、国立大進学率が常に上位の進学校の卒業生だとわかり、勝手に裏切られた気分になっていた。


「で、ストーカーは弟くんかはまだわかってないんでしょ?」

「うん。確認してないからね。けど、成史くんがいるなら、話しかけられるかも」

 灯がそういうと、成史が机に伏せって悶え始めた。

「ちょっと待って!今、成史くんって言ったよね。俺、勉強ばっかりだったから、女子と関わる機会なくてさ。人生で初めて、女子高生に名前で呼ばれた。もっと呼んでくれたら、手伝ってあげる気持ちになるかも」

 そう言った成史を見て、灯と美頰は顔を見合わせた。

「成史くん」

「…成史くん」

 2人でそう言うと、成史は「もっと!」と求めてきた。2人で「成史くん」を連呼した。

 成史はしばらく身を悶えさせていた。ようやく顔を上げたかと思うと、悦に入った表情でこう言った。


「ガリ勉だった高校生の時の俺が、浄化されるようだ…。ありがとう、2人とも」


 ファミレスを出た3人は美頰のストーカーを探し始めたが、すぐに灯がまた電柱の陰に隠れているストーカーを見つけた。

 成史に声をかけてもらうことになった。成史には灯と美頰は安全なところで待つように言われたので、成史と連絡先を交換して、先程のファミレスに美頰と灯は戻ることにした。

 だから、2人は成史とストーカーのやり取りは一切わからなかった。


 灯と美頰は一緒に、動物の癒し動画を見て時間をつぶしていた。しばらくすると、成史から連絡がきた。先程のファミレスにいることを伝えると、今から来るとのことだった。

 数分後に成史がきて、席に座っている美頰と灯を見つけた。成史の後ろには、以前見たことのある美頰の弟がいた。


「結論、ストーカーじゃなくて、弟くんの残留思念みたいなものだった。美頰ちゃん、無意識だったらしいから許してほしい。その後、近くにいた本体の弟くんとちゃんと話つけたから、安心して。な、颯太」

 成史は美頰の弟の肩を叩いた。


「迷惑かけてごめん、美頰」

 美頰の弟は消え入りそうな声でそう言い、言葉を続ける。

「けど、俺、何があっても美頰の味方だから。これから挽回して、美頰の頼りになる男になるから。友達ばっかりじゃなくて、美頰も俺を頼って欲しい」

 その言葉に美頰は少し考えて、頷いた。


「美頰ちゃんもだけど、颯太も抱え込むなよ。お互いに相談して、ダメだったら先輩の俺がアドバイスするから。颯太と連絡先交換したから、何かあったら声かけて」

 そういう成史に、美頰と美頰の弟は頷いた。

 

しねんたいが何なのかは灯にはわからないが、短時間で美頰の弟の心を掌握し、距離をつめて姉弟の問題を解決したらしい成史に灯は素直に尊敬した。

 女子には変態っぽくて引かれるが、男子には人気なタイプのようだ。灯のクラスメイトの高村になんとなく少し似てる気がする。


「さ、仲良く手を繋いで帰りなー」

 そう誘導された美頰と美頰の弟は、成史に手を掴まれて無理やり、手を握らされた。美頰はキョトンとしていたが、美頰の弟は眉をしかめながらも、どこか嬉しそうだった。

 美頰は「…ありがとう」と灯と成史に言った。

 そして帰り際に「灯ちゃん、セブンって男に気をつけて」と意味不明な言葉を言って、仲良く弟と手を繋いで帰って行った。


「じゃあ、成史くん、ありがとう」

 灯はそう言って帰ろうとした。

「あ、灯ちゃん。俺たちも仲良く手を繋いで帰ろうよ」

 そう言って手を出した成史を、灯はジト目で見返した。

「私、知ってるよ。そういうの未成年インコウって言うんだよ。犯罪だよ」

 灯は成史の手をパァンッと軽く叩いた。何故か成史は嬉しそうに笑った。


 成史と別れた後、灯は帰りながら何かを忘れてる気がして、もやもやしていた。

 そして思い出した。テスト勉強だ。

 もう今更無理だ。灯は諦めることにした。灯はO型だ。気が済むまでやりたいタイプであるが、やる気がなくなったら何もしない。しょうがないO型なのだから。


 そんな灯が心香のホラーゲームと美頰のストーカーにびびった1日の話だった。





 相田颯太はここ最近の美頰に不満を感じていた。感情の表出が少なくて、自分を出すことがあまりない美頰のことを誰よりもわかっているのは颯太だと自負していた。

 家族と血のつながらない美頰は、そのことに負い目を感じているのもわかっている。だから、颯太は美頰が我慢しなくていいように美頰の感情を察して、鈍感な両親の橋渡しをすることも度々あった。

 美頰は自分がいないとダメだ。そう思っていた。

 それが最近、新しく友人が出来たらしく、浮かれている。一度会ったが普通の家庭の無害で能天気そうな女だった。その子がだんだん、美頰の特別な存在になってきているのに颯太は気付いた。

颯太が美頰の特別な存在になりたかったのに、その友人に居場所を取られた気がした。その友人の影響か、前までは距離があったのに家族とコミュニケーションをとるようにもなった。良い傾向なのはわかっている。両親も颯太を可愛がるが、美頰のことも平等に可愛がりたいと思っていたから、美頰の変化に喜んでいた。ただ、颯太は自分だけの美頰じゃなくなったようで、悔しかった。

 中学受験して入った男子校でも嫌なことがあった。スマホに入っていた美頰の画像をクラスメイトに見られた。芸能人でもここまで整った顔はいないであろう美頰の美しさにクラスメイトは沸き立った。紹介しろ、とうるさく言われるようになったのだ。見た目だけでガヤガヤ言う外野が煩わしかった。美頰の見た目は確かに誰よりも美しくて可愛いが、颯太は大人しくてわかりにくいが実は優しい性格も好きだった。それを知らない奴らに興味すら持たれるのが不快だった。

 颯太の家は、裕福な家庭ではある。しかし、仕事が忙しい父と、趣味と人付き合いで忙しい母だったため、颯太はよくベビーシッターに預けられることが多かった。そのベビーシッター以上に、颯太とよく遊んでくれたのが美頰だった。

 幼い頃は大好きなお姉ちゃんだったが、父と母から美頰は血の繋がりがないことを聞いた後から、徐々に淡い恋心を抱くようになり、現在に至る。


 誰かに美頰が取られてしまうのではないか、そんな焦燥感に襲われるようになり、何故か身体も気だるくなってきて、体調不良が続いた。そして、頭ではおかしいと思っていたが、美頰と連絡をマメにとらないと気が済まないようになった。


 その日は学校帰りから、美頰と連絡がとれないし、体調悪いしで颯太はイライラしていた。

 突如、何かに身体が引っ張られるような感覚に陥った。颯太はそれに逆らうことなくふらふらと歩いていたら、1人の男と会った。

「お、本体?」

 と意味わからないことを言われた。


 成史と名乗る男は美頰の友人の知り合いらしい。美頰にストーカーがいると相談を受けたという。ストーカーなんていたのか!?と颯太は美頰が心配になったが、成史の話を聞いていくと颯太が元凶だったらしい。

 成史は霊感が強く、美頰の友人にストーカーがいると言われたところに向かうとそこには人がいなかったそうだ。代わりに霊とはなんか違う薄い影のようなものがいて、引っ張ってみたら、本体の颯太と会えたと語った。


「たぶんだけど。生霊よりは薄い感じだから、残留思念っぽいって俺は思ってるけどね」

 成史はそう言った。美頰への想いが強すぎて、颯太は残留思念を飛ばしていたというのが成史の憶測だ。現にその残留思念が颯太に吸い込まれるように消えた、と成史は話した。

 そのようなものを見たことがない颯太からしたら不可思議な話だったが、ここ数日の颯太の体調不良などを考えるとそのせいだと言われたら、今は体調が治ったのでそうなのだろうか、となんとなく納得出来た。


 これを機に、同じ学校のOBだと言う成史に、今までの話を聞いてもらった。

「なるほどなぁ。あんな綺麗な女の子がずっとそばに居て、さらに血も繋がらないし、優しいしってなれば惚れないわけないよな。友達の灯ちゃんに嫉妬するのもわかる。けど美頰ちゃんって今まで友達いなかったんだろ?俺は女の子のことよく分からないけど、やっぱり男の颯太と女の子の友達じゃ話す内容も違うし、女の子にしか話せないこともあるんじゃないか?」

「確かに。けど、子どもっぽいかもしれないけど、とられたみたいで寂しい」

「そうだよなぁ。颯太だけの美頰ちゃんだったんだもんな」

 成史がそう言うと、颯太はしばらく沈黙して口を開いた。


「確かに俺が束縛するのは間違ってた。さらに、男の友達ならまだしも、女の友達に嫉妬なんかしてさ。人に話すことで、今ようやく冷静になって自分がおかしいってわかった。俺、美頰に謝る」

 そう颯太が言うと、成史は颯太の首に腕を回した。

「よし、俺も一緒だから大丈夫だ」

 成史はニカッと笑って続けて言った。

「けど俺は中学と高校、女子と関われなかったからアオハルしてて羨ましいわ。後悔なきように青春しろよ、少年」



 成史は、ファミレスでの話し合いを終えて、灯と別れた後、1人で夜の公園のブランコに座って左手には缶コーヒーを持って、右手には煙草を持って、口から白い煙を吐いた。


「あいつら、霊感兄妹なんだな」

 そう呟いた。

残留思念:人間の恐怖や強い欲がその場に残り形となったもの。灯は人に見えてストーカーと勘違いしたが、成史は薄い影のように見えた。






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