表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/32

怖がり少女の従兄弟

 彼は、人混みの中にいた。あまりの人の多さに具合が悪くなってきた。久々の都会に来た彼は、彼の住む田舎とは全く違う環境に辟易していた。彼は人混みから抜けて、人が少ない路地裏に入り込む。

「ふぅ」とため息をついて、目をつぶる。彼は都会の空気は合わない。人の多さだけではなく、色んなモノが溢れている。実際に、彼のいる路地裏の隅っこにも、黒い塊がもぞもぞ動いていた。害はなさそうなので、彼はその黒い塊からは目を離す。何故、彼があまり好きではない都会に来たかというと、ある用事を済ませることと、ある人物に会うためであった。彼は一息つくと、様々なモノが混じっている人混みの中に向かって行った。



 灯は、眼鏡をかけていた。といっても、眼鏡屋の店先に置いてある、度の入っていない眼鏡だ。目がとてつもなく良い灯が眼鏡屋に来たのは、あるクラスメイトがきっかけであった。

灯のクラスには、鎌田心香という眼鏡の女子生徒がいる。小学校から高校まで一貫校である灯の通う学校は、中学校・高校からの外部生以外はほとんど顔見知りである。つまり幼馴染である。小学校からの付き合いである同じくEクラスの心香に、ある事実が発覚したのだ。

 なんと、眼鏡が伊達眼鏡であったのだ。仲の良いEクラスに激震が走った。彼女のトレードマークは眼鏡だ。本物の眼鏡であると誰もが疑ってなかったのだ。灯も、その1人で衝撃的であった。それも、彼女が伊達眼鏡であることに気付いたのは、小学校からの付き合いである持ち上がり組の生徒ではなく、高校から来た外部生である平井だった。平井が指摘した後に、心香は以下のような理由で伊達眼鏡をつけているということを打ち明けた。


「だって、頭良く見えるでしょ」

 またもや、灯は衝撃を受けた。確かに見た目だけでみるとはとても頭がよさそうであった。眼鏡をつけたら、頭が良く見えるのか、と灯は、武者震いをした。

 よって、灯は両目とも2.0で、それ以上の可能性もあると言われた目の良さであるが、心香の言葉に感銘を受けて眼鏡屋に来たわけである。見た目だけ頭良さそうにしても意味がない、と思う者もいるだろう。しかし、自慢ではないが灯はO型なのである。何ごとも、形から入りたい主義だ。形から入って、実際に行動するかというと、それはまた別の話であるが。


 灯は眼鏡を付けたり、外したりを繰り返していた。どれの眼鏡が頭が良く見えるのか充分に吟味しているのだ。そして、一つの眼鏡が気になった。よく国語の教科書でみる作家がかけている丸眼鏡である。ビビっときた灯は、それを手に取り付けてみた。そして、その姿を確認しようと鏡を探すが、近くに見当たらない。きょろきょろと鏡を探したときにある姿が目に映った。

男性の店員だ。スタイリッシュなスーツを着こなしている、細身の眼鏡男子である。その、小ぶりなお尻に、ふさふさのしっぽがある。

 ん?と思った灯は、目を凝らしてお尻を見るが、やはりしっぽが見える。灯は首を傾げつつ、眼鏡をとってみた。そして、改めて、店員の眼鏡男子を見る。しっぽが無くなっていた。また、眼鏡をつけて、目を凝らして小ぶりなお尻を見つめると、やはり大きくてふさふさとしたしっぽが見える。眼鏡を付けて、外して、を繰り返してしっぽを見る灯は、そのしっぽの持ち主が近づいてくるのに全く気付いていない。


「お客様、お似合いですね」

 そう、声をかけられて、灯は下げていた目線をパッと上にあげた。店員の爽やかな眼鏡男子が灯をにこにこと見つめている。


「どのような眼鏡をお求めですか?」

 そう言ってくる灯は、身を強張らせて、「あ、いや、その、すみません」と言って、眼鏡を置いて、逃げるように店を去った。

 あのしっぽはなんだったのか。灯はうーんと悩みながら、街中を歩いていた。コスプレ的な何かか?いや、しかし、瞬時に付けたり外したりすることは出来ないはずだ。それか、あの丸眼鏡が不思議な眼鏡で、前世の姿を映りだしてしまうものだったり?だから、さっきの人の前世は犬かなんかだったのではないだろうか。または、あの眼鏡を付けたら、人間のお尻にしっぽがついて見えるという面白い眼鏡か。そんな結論が出ないファンタジーなことをふわふわと考えながら歩く灯は、全く周りの人を見ていなかった。


 前を歩く人と、体をぶつけてしまい、「あ、すみません」と灯はペコッと頭を下げた。

 灯がぶつかってしまった人は、「あ、いえいえ」といって穏やかに応えてくれた。身長の高く、灯と少し似ている色素の薄い髪の色をした優しげな男である。そんな彼は、「あ」と灯を見て目を見開いた。シンプルな服装で、清潔感のある彼に、なんとなく見覚えがあるなぁと灯は思ったが、思い出せないので、もう一度ペコッと頭をさげてその場を去ろうとした。


「ちょっ!待って」といって灯の腕を掴む男性に、灯はさぁっと血の気が引いた。慰謝料を請求されるんだろうか。この前、テレビの特集でわざとぶつかって無理やり慰謝料を請求しようとする「あたりや」という者たちの紹介がされていた。もしや、これはそうではないか。


 灯は顔をひきつらせて、その男性の方振り返り、また頭を下げた。

「すみません。私はお金持ってないです」

 灯はその腕を振り払い、逃げようとした。

「え、ちょっと、待って。灯ちゃん、俺だよ、梓!君の従兄弟だよ」

 その言葉に灯は体をピタッと止めた。ああ、和服じゃないからわからなかったけど、どうりで見覚えがあると思った。灯は、そう思いながら、愛想笑いを浮かべて梓の方へ振り返った。



「びっくりしたよ。俺も、灯ちゃんが髪切ってるの知らなかったから、一瞬気づくのが遅れたけど」

 そう穏やかな声でいう梓とともに、灯は家までの道のりを歩いていた。

「ごめん。梓くんも和服じゃないから、私も全くわかんなかった」

 言い訳をしつつ、へへへと笑う灯。

 話しを聞いていくと、梓は灯の住む地域に用事があったらしい。そして、灯達にも用事があったので、灯の家に向かっていたという。

 灯も眼鏡以外にこれといった用事はなかったので、一緒に帰ることにした。


 灯の自宅にはだれにもいなかった。しかし灯は、まぁ従兄弟だからいいだろうと勝手に家に上げることにした。庭には、寒い中じゃれている動物2匹がいる。黒猫のコタローと、灯の友人の美頬(みほお)のペットの子犬である。この子犬は、美頬が忘れて灯の家に置いて行ってしまったのだ。後から灯が美頰に連絡すると、「私のそばにいるとその子にまた悪影響を与えてしまうかもしれないから、そのまま灯ちゃんの家にいさせて欲しい」という意味不明なことを言われて、灯は了承した。決定権のある母にも相談すると「いいんじゃない?」という軽い返事を頂いたので、そのまま飼うことになったのだ。美頰に聞くと名前はないとのことでまるいので名前はおまるにした。

 そのじゃれている2匹(といっても、微動だにしないコタローのしっぽにおまるが勝手にじゃれているだけだ)が、玄関にいる灯に気付いて寄ってきた。

「早く開けろ、小娘」と急かすコタローに、灯は「はいはい」と返事をしながら、バックの中の鍵を探し始める。

「へえ、猫又と小さい動物霊がいるんだ」

 そう梓がつぶやいたが、灯は整理出来ていないバックの中から鍵を探すのに一生懸命で一切話を聞いていなかった。ようやく見つけた鍵で玄関を開けると、コタローと子犬は我先にと灯の家に入っていった。


 灯は梓を居間に案内した。そして、お茶とお菓子を梓に出して、2人はまったりと話し始めた。

「灯ちゃんは最近、危ないこととかに巻き込まれてない?」

「ん?危ないことって?」

「霊に憑かれて、危なかったりとか」

「レイって羽金玲衣ちゃんのこと?」

羽金玲衣は灯の友人だ。

「はがね?いや、幽霊のことだよ」

 そういう梓に、灯はサアッと血の気が引いた。

 兄に慰められたりしてもらったおかげで完全に忘れていたことがある。灯の初体験とも言える幽霊との遭遇である。あるお婆ちゃんと出会ったのだが、そのお婆ちゃんが後からお化けであるということが発覚した事件だ。


「え?なんかあったの?」

 顔を青くさせた灯を梓は、心配そうに見る。

「なんもなかったけど、幽霊なら1回会ったことならあるよ」

 灯は、そう答えて涙目になった。小さい頃からビビりで泣き虫の灯である。その時のお婆ちゃんとのことを思い出して、恐怖がよみがえってきて涙目になっているのだ。

「へ?一回だけ?」

 梓は首を傾げて、悩むように顎に手を当てた。しばらく沈黙が続き、梓が灯に何か声をかけようと口を開いた。

 しかし、梓は言葉を続けずに、居間のドアに目線を配り、「帰ってきちゃったか」と呟いた。


 その直後に、玄関から「ただいま」という声が聞こえてきて、兄が居間に入ってきた。兄は梓と灯を見て、一瞬固まった。そして、梓をにらみ、低い声で言った。


「灯になにしやがった?」

 きょとんとする梓は、頭の上ではてなマークを飛ばしながら、灯のほうを見た。灯も、梓のほうを見ながら、涙目で首を傾げた。それと共に、灯の涙がぽろりとこぼれる。

 それを見て、合点がいった梓は「誤解、ちがっ」ん弁解をしようとするが、兄、蓮の拳は梓の方へ容赦なく振りかかった。



「だから違うって、暴力反対!」

「何が違うんだ」

 蓮と梓は話しながら、蓮はプロセスの技を梓にかけている。梓は口で色々言ってるが、何故か嬉しそうだ。そんな2人を尻目に灯は、「仲良いなー」とつぶやきながら、お茶を啜ってテレビを見ていた。

 この男2人のやり取りを止めたのは、帰ってきた母であった。母は、梓を見て「あら」と言って、いまだに梓にプロレスの技をかけようとする蓮の頭にスーパーの袋を勢いよくぶつけた。

 それに撃沈する蓮を無視して、梓は母に声をかける。

「伯母上、お久しぶりです」

「久しぶり、梓くん。伯母上なんて仰々しく言わなくていいのよ。ここはあそこじゃないんだし」

「はい、鈴さん」

 そういって、嬉しそうに笑う梓に、母、鈴鹿は苦笑して梓の頭をポンポンと軽く叩いた。

「それで、うちに用事があるの?」

「あ、いえ。こっちの用事があって、宿も決めてないから、しばらく泊めされてもらえないかと聞きにきたんです」

「無理」

 そういう梓に、撃沈していた蓮が起き上がって反対をする。

「うーん。主人が良いって言うならいいけど…」

 蓮を無視して、そう言葉をにごす鈴鹿に、梓はにっこりと笑みを深めた。

「それなら、絶対大丈夫です」


「だめだ!」

 帰ってきた父、環は話を聞いて、すぐに拒否した。その言葉に、梓はますます笑顔を深める。


「うーん、それは困りますね」

 全然困ってないように笑う梓。

「叔父上、俺ってあんまり都会に来ないから都会のことよく分かんないんです。そこで、もし今日ここに泊まれないで、彷徨う事になって宿も決めれずに、ぶらぶらと治安の悪いところに行って、悪い人たちに捕まって、身ぐるみはがされてボロボロになって、あの屋敷に帰ってきたらどうなると思います?

俺、これでもあそこの屋敷の跡継ぎの坊ちゃんなんですよ。あの屋敷の奴らはかんかんに怒るでしょうね。あの屋敷を守ってる、性格の悪いけど強い奴等が複数でこの家に殴り込みに来るかもしれないですよ。ああ、殴り込むなんて、かわいいことはしないか。もっとひどいことをするかもしれないな、奴等は。小さい頃、叔父上が怖がっていたことを今でも武勇伝みたいに話して、また叔父上に同じことをしたいって言ってますよ。

けど、しょうがないですね。叔父上が泊めてくれないみたいだし。では、お暇しますね」

 そう言い、帰ろうと背中を向けた梓の肩を、真っ青になった環は掴んだ。

 振り返った梓に、環は涙目で「ぜひ泊まってください」と言った。


 こうして、どのくらいの期間かは分からないが、梓は灯の家に居座ることになった。

 異様にピリピリしている蓮と環、何が楽しいのか分からないがニコニコと微笑んでいる梓、我関せずの鈴鹿に囲まれて、灯はいつもと違う夕食の雰囲気に首を傾げた。

 しかし、動物の生態を調査しているというテレビ番組で亀がピックアップされていたため、灯はそちらに釘付けになり、気にならなくなった。



 そんな灯が眼鏡屋の店員のしっぽと穏やかに笑う従兄弟にそこまでビビらなかった一日の話だった。



 その日の夜、灯はベッドの上でスマホをいじっていた。トントンと灯の部屋を誰かがノックした、灯が「はーい」と返事をすると、蓮が灯の部屋に入ってきた。とても渋い表情である。その表情のまま、灯のベッドに腰掛けた。

 蓮を一瞥した灯だが何も話さないので、またスマホをいじりだした。


「灯、部屋には絶対鍵をかけろよ。あと今みたいに梓を入れたらだめだからな」

ようやく蓮が口を開いた。灯は蓮をみて、「なんで?」と質問した。

「既成事実を作られるかもしれないから」

きせいじじつ?灯はスマホで検索した。認めざるおえない事実に持っていくこと、と書かれていて、なるほど、灯は全く意味がわからない。そんな様子の灯に蓮はため息をつく。

「無理やり襲われるかもしれない」

「え?従兄弟で血が繋がってるからないでしょ」

「従兄弟でも結婚はできる」

「えーそうなんだ」

「だから、気をつけろよって話。わかったか?」

「はいはいー」

 軽く返事する灯に蓮はため息をついて、立ち上がり、「ほら、俺が出て行ったら鍵かけろよ」と灯を促す。


蓮が部屋から出て、扉を閉める直前に、灯が呟いた。

「ってことはお兄ちゃんと既成事実を作ったら結婚できるってこと?そろそろ、お兄ちゃんって呼ぶの辞めようかな」

聞き間違えかと蓮が灯の方に振り向いたが、パタンと扉は閉まり、鍵をかける音が聞こえた。


蓮は頭を抱えた。

あいつ、もしかして血のつながりないのを知ってるのか?そのことに勘づき始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] メガシンカ!メガシンカじゃないか!?懐かしいなホント あのワンコの霊って良くも悪くも近くに居る人間の影響を受けやすいって感じか 能天気な灯の側にいる事で無害化されるのかなるほど 灯はやっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ