赤の少年が訪ねるトコロ(赤視点)
赤崎要はイライラした様子で口唇を噛んだ。ようやく、“亀好きのバカ女子高生”の尻尾を掴むことが出来そうだったのに、様々なものに邪魔されるからだ。
まずは、1年生から3年生までのEクラス(バカ達の集団)を直接行って聞き込み調査をしに行った。
「亀好きの女子はこのクラスにいるか?」
赤崎は言うと、2年と3年のEクラスの生徒は、はあ?と言って怪訝そうな表情を見せた。
しかし、1年のEクラスで偶然Eクラスから出てきたヘルメットみたいなおかっぱの背の低い女子生徒に同じように聞くと、何かに思い当たった表情をした。
「もし亀好きの女子生徒がいるなら、名前を教えて欲しい」
赤崎がおかっぱの女子生徒に言った。その女子生徒は、マジマジと赤崎を見て口を開いた。
「目的はなんだ?」
女子生徒は、赤崎に負けないぐらいの無愛想な口調で聞いてきた。目的なんて聞かれるとは思わなかった赤崎は、言い淀む。
「まぁ…興味があるから」
赤崎がなんとかそう答えると女子生徒の瞳がキランと輝いた。
「LOVE、ラブなのか?」
ら、ラブ?何を言ってるんだ、こいつは?赤崎は、動揺した。
「バカな!なんで僕が!」
赤崎がそう言うと、その女子生徒は興味が失せたように「なんだ、違うのか」と言って、赤崎のそばから離れてしまった。
赤崎は懲りずに、Eクラスの教室の入り口から近い席に座っている、顔の整った男子生徒に同じように声をかけた。男子生徒は困ったように頭をかいた。
「亀好き?俺、編入生だから、クラスの女子の好きなものなんて、よく分からない」
この学校はエスカレーター式の学校だ。小・中・高と一貫で進学することができる。
小学校の入学試験に合格さえしてしまえば、特に困ることもなく進学出来るのだ。クラスはA〜Eの5クラスあり、学力別で分けられている。Aクラスが上位で、Eクラスは下位である。つまりEクラスは勉強が出来ないバカや勉強を何故かしないバカ共の集まりだ。
高校からは編入生が5人入ることが出来る。編入テストはレベルが高いため、編入生たちはとても頭がいい。しかし、5人とも同じクラスにしたら、編入生だけでグループを作り、固まってしまうだろうということで、高校1年生の時だけ別々のクラスにされるのだ。
その編入生のクラス分けは入学試験の時の試験の順位で決まる。赤崎も編入生なのだが、編入生で1番成績が良かったのでAクラスになった。
きっと、この顔が整った男子生徒も編入生ということは頭がいいのだろう。しかし、編入生の中では5番目の成績だったため、バカの巣窟であるEクラスになってしまったのだ。
赤崎は同情の視線を、その男子生徒に向けながら、話を続けた。
「そうか。じゃあ、このクラスで一際バカっぽい女子生徒はいないか?」
その男子生徒は困った顔をして、必死に悩み始めた。
「だれかなぁ…、羽金か?いや、竜頭も同じレベルか。そんなこと言ったら多田もだし、宇佐もだ。目白に、鎌田に…」
男子生徒は頭を抱えて、ブツブツと呟き始めた。赤崎は、このクラスから逃げ出したくなった。男子生徒の呟きを聞くかぎり、このクラスには本当にバカしかいないんじゃないかと思ったからだ。
「もういい、ありがとう」
バカ達が集まる空間にいると思うと頭が痛くなってきた。赤崎はそう言って男子生徒から離れようとした。しかし、その赤崎を阻む者が現れた。
「ちょっと待て、話は聞かせてもらった」
男子生徒の隣の席の女子生徒が、そう言いながら勢い良く立ち上がった。
「お前、Aクラスの編入生だろ」
女子生徒は赤崎を指さして、叫ぶ。「あ、ああ」と赤崎は驚きながら答えた。
「お前の魂胆は分かった。罰ゲームだろ!Eクラスの1番バカな女子生徒に告白しなきゃいけないって罰ゲームなんだろう!?」
その女子生徒がそう言って、Eクラスの女子生徒全員が非難の目で赤崎を見る。意味不明なことを言い始める女子生徒に、赤崎は冷や汗をかく。
「ち、ちが」
違う、と言ようとする赤崎だが、女子生徒が言葉を被せてくる。
「けどな!うちのクラスの女子たちはバカだけじゃない、すっごい魅力的なんだぞ。罰ゲームで告って付き合うことになっても、最終的にはメロメロになっちゃうんだからな!ちなみにどんな女がタイプなんだ?」
女子生徒の唐突な意味不明な言葉を理解できずに、固まる赤崎。顔の整った編入生の男子生徒が、赤崎の背中を押して叫んだ。
「逃げろ!羽金に絡まれたら終わりだ。早く逃げないと、もっと意味不明な絡み方をしてくる。逃げるんだ!」
その男子生徒の言葉に、赤崎は顔を引きつらせて、Eクラスから逃げ出した。
「な、なんで僕がこんな目に」
赤崎は、Aクラスの自分の席に座って、げっそりと呟いた。
そして、次の作戦を考えた。
Eクラスには行けなくなった赤崎は、間接的な方法で、“亀好きのバカ女子高生”を見つけ出そうとしたのだ。
ある日、Eクラスの生徒達が体育館で掃除をしていることに気付く。その中にいた短髪の男子生徒に目をつけて、悪霊化した女の霊に“短髪の男子生徒が殺人鬼である”と嘘をついた。
そして、その体育館で掃除しているEクラスの生徒達に、興味を持つように話をしたのだ。バカな彼らは、赤崎の思うように行動してくれた。
そして、短髪の男子生徒は呪われた。さて、“亀好きのバカ女子高生”はどう出るのか。
赤崎は、悪霊化した霊がいるマンションを見張っていた。
ある日、年上の女性が現れた。
赤崎は目を離せなかった。何色にも染まらない艶やかな長い黒髪、透き通るような白い肌、バランスの取れた目鼻立ち、色っぽい垂れ目の瞳、スレンダーな身体。美しい。女性を見てそう思ったのは人生で初めてだった。
彼女の周りにうろついているゴミがいたような気がしたが、赤崎の視界にはその彼女しか入っていなかった。
彼女は、マンションに入って行く。
ダメだ!危ない!赤崎は、その彼女を追いかけて引きとめようとする。しかし、それが出来なかった。
「おいお前、ここで何をしている?」
マンションの前にいた一人の男に呼び止められた。赤崎はムッとする。
「僕が何をしても、貴方には関係がない」
「廃墟探索は違法だ」
正論を言われて、赤崎は言葉をつまらせた。しかし、彼女はマンションに入っていったのだ。
「さっき、マンションに入っていた人を見かけたよ。あの人達はいいのか?」
「気のせいじゃないか?」
「いや、僕は見た!ここは危険だから、早く助け出さないと!」
「そうだ、廃墟は危険だな。どこかが崩れて怪我をするかもしれない。だから、お前は早く帰ったほうがいい」
「あの人が危ない!」
「誰が入ったかは知らないが、お前が入ろうとしたら俺は警察に通報するからな。さあ、とっとと帰りな」
しらばっくれる男にイライラするが、エリート街道をまっしぐらな赤崎は、警察のお世話になる訳にはいかない。
とりあえず、その場から離れて、マンションの前にいる男から見えないところに隠れることしか出来なかった。
1時間後に彼女が元気な様子で出てきたのには、ホッとした。
その彼女の周りには相変わらずゴミがうろついていた。
それにしても、なんて可憐なんだ。
赤崎は彼女の後をつけながら、その姿を見て、胸が高鳴るのを感じた。
そして、彼女の家までコソコソとついて行き、電柱の影から、家の中の様子を窺おうとした。
しかし、すでに電柱の影には先客がいたのでそれは出来なかった。
電柱の影にいたのは、赤崎がよく知っている人物だった。
「桃か?こんなところで何をしているんだ?」
その人物とは赤崎の所属している悪霊会(浮遊霊を悪霊化にする会)のリーダーの桃だった。
桃は、赤崎の声にビクッと身体を震わせる。そして、赤崎を見て、ひきつった笑顔を見せた。
「な、なにって・・・ええと、あれですよ、あれ。そう!亀好きのバカ女子高生を探してたんです!あははは」
桃は目を泳がせながら、そう言った。嘘をついているのが、一目で分かる。
「そういう赤こそ、ここで何をしてるんですか?」
桃の質問に、赤崎も目を泳がせる。
「僕も亀好きのバカ女子高生を探している最中だったんだ」
正確に言うと、“亀好きのバカ女子高生を探している最中に女性に一目惚れして、その後をつけたきた”、なのだが言えるわけがない。
「そうなんですか!奇遇ですねぇ。じゃあ、一緒に探しましょうか」
「ああ、そうだね」
本当の理由を言えない2人はその場から離れることを選択した。
2人は、歩き出しながら、先ほどまで見ていた家をちらりと見た。
桃はうっとりとしたような表情をした。しかし、同じく顔を緩ませている赤崎は気づいていなかった。
そして、桃と赤崎は顔を引き締めて、その場から離れた。
翌日、赤崎は、体育館を掃除するあのグループに「どうだった?」と声をかけた。
「確かに怖かったけど血だらけの女なんていなかったよ」
「あ、けど、心霊写真っぽいの撮れたよな」
「ああ、それが今日また見てみてたら、ドーテーの首についてた光みたいなの消えてた。なんだったんだろうね」
「え?本当?なんでだろう?」
「わかんない」
「まぁ、何にもなかったんだから、きっとあんたは夢か幻でも見てたんじゃない?」
そのグループの男女は赤崎にそう言った。
「そうか、君は大丈夫だったのか?」
赤崎は、短髪の男子生徒を見て尋ねた。
短髪の男子生徒は少し目を泳がせて、「大丈夫だった」と言った。
確かに男子生徒の首を締め付けている白い手は無くなっている。
これ以上何も聞き出せないと赤崎は判断して、お礼を言ってその場から離れた。
赤崎は廊下を歩きながら、考えた。
彼女に夢中だった為に気づかなかったが、あの短髪の男子生徒は、彼女と一緒にマンションに行ったのだろうか。と、なると男子生徒が無事であるということは、和風美人はかなり力のある祓い屋か何かか。
もし祓い屋となると、悪霊会とは敵対する関係であるということになる。
つまり許されない恋になる。ああ、僕は許されない恋をしてるんだ。切ない、切なすぎるぞ。
赤崎は彼女を思い出して、ぼうっとしながら歩いていた。
前をよく見ていなかった赤崎は、女子生徒とドンッとぶつかる。赤崎は慌てて、「すまない」と言い、女子生徒を見て固まった。
女子生徒はとてつもなく変な髪型をしていたのだ。前髪が短すぎる上に、長さがバラバラである。
女子生徒は「こちらこそ、すみません」と言って去って行った。
ああ、世も末だな。今時の女子高生はダメだ。
やはり、日本人なら大和撫子だ。
赤崎は彼女を思い浮かべて、ほう、とため息をついた。
to be continued




