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怖がり少女の視えるモノ

 パラパラパラ ピチョン ピチョン ヒタヒタヒタヒタ

 雨の音。水滴が落ちる音。1人の生徒の足音。真っ暗な校舎。


 異様な雰囲気の学校の廊下を歩いているのは(あかり)という少女だ。花も恥じらう16歳の女子高生である。色素の薄いふわふわとした茶髪に、これまた色素の薄い茶色の瞳で、肌も白く、少し地味であるが、まあまあ人の目を引く美しい少女だ。


 廊下を歩きながら、おかしいと灯は思った。何故なら、ここは放課後の学校。まだ夕方だ。多くはなくても、少なからず人はいるはずだ。

 しかし、人の気配がしない。

 普段の灯は、この時点で怖すぎて家に帰る。だが、灯の頭にある顔が浮かんだ。恐ろしいある教師の顔だ。

 灯は、明日までに提出しなければならないその教師の宿題のプリントを自分の教室の机の中に入れっぱなしにしてしまった。もちろん、やってはいない。

 あの教師に怒られたら、灯は怖すぎて泣く自信がある。高校生になって、クラスメイトの前で泣くのはさすがに恥ずかしい。それは避けたかった。家に帰って宿題がないことに気づいた灯は慌てて、学校に戻ってきたのだった。

 しかし、学校が異様な雰囲気である。いつもの廊下であるはずが、背筋がゾクゾクするような、肌寒くて不気味に感じる。

 灯は腕に鳥肌を立たせながら、急いで教室へ向かった。


 パラパラパラ ピチョン ピチョン ヒタヒタヒタヒタ


「……人にー あかりをー 灯すのだ!

 世界にー あかりをー 灯すのだ!」


 灯は歌い出した。廊下に灯の上手とはいいがたい歌声がこだまする。灯は拳を振りながら歌う。その姿は戦時中に自らを鼓舞する兵士さながらだ。この歌は、小さい頃に灯が自分で作ったテーマソングである。灯のセンスのなさがわかる一曲である。


「怖いー ことなんてー なーいのだ!

 (あかり)ちゃんがー 来たらー

 だいじょーぶ! ヘイ!

 光れ! 輝け! 灯れ!

 最強のー(あかり)ちゃんー………」


 歌いながら、ついた教室には誰もいない。曲を何度もリピートしながら灯はプリントを探す。しかし、中々プリントが見つからない。

 何故なら、灯はおおらかなお人好し、そしておおざっぱ、だからだ。もちろんO型だ。自慢ではないが灯の両親もO型であるため、O型のサラブレッドだ。

 なにが言いたいかというと、机の中が汚い。灯は中腰で机の中をガサゴソと目的のプリントを探す。なかなか見つからず焦っている時だった。


 視線を感じた。

 灯はゆっくりと目線を下げた。机の下の隙間から床を見る。


 床に這いつくばる女がいた。

 その、髪の長い女が、灯をジロッと見る。

 青い口唇が弧を描いた。


「ひいっ!」中腰の灯は仰け反って後ろに尻もちをついた。

 女は立ち上がり、灯にヨタヨタと近づく。長い黒髪で目は見えないが、青白い肌、青い唇は見える。

 全てが不気味だった。灯は白目になり、意識を失った。


 肌寒さに身震いして、灯が目覚めると女は灯を見おろしていた。

「夢じゃなかった!」灯はそう言って再度、昏倒しかけた。しかし、その女の格好をみて意識を保った。

 灯と同じ服ーー、灯の高校の制服を着ていた。つまり同じ学校の生徒である。


「びっくりしたぁ!!なんのドッキリ?」


 灯がそう言うと、その女子高生はポカンと口を開いたが、その後笑みを見せた。


「・・・ゴ、ゴメ、メン。タ、タノミタイ事ガ、ア、アルノ」


 女子高生は、風邪を引いているのか、ひどく掠れた声で、ヒューヒューいいながら、そう言った。

 灯は起き上がって聞く。


「なんですか?」

「コ、コレヲ、・・・オ、オトウトニ、渡シテ・・・・」

「え?弟なら、自分で渡せばいいじゃないですか?」

「・・・オ、驚カセルカラ・・・。ア、アシタ、オトウトノ誕生日、渡シテ」

「あ!サプライズ!?わかりました!」


 灯は、風邪をこじらせた女子高生からロケットペンダントをもらう。


「・・・ア、アトツタエテホシイ事ガアルノ」


 灯は快く頷いて、女子高生の言葉をメモする。そして、弟の名前を聞いた。全てを聞き終わると、教室内に風が吹いた。女子高生の顔にかかった、長い黒髪はさらりと後ろに流れて、顔を見せた。

 彼女は綺麗な顔立ちをしていた。首を寝違えたのか、首を傾けている。

 そして、彼女は「オネガイネ」と言って去っていった。


 おちゃめだけど良いお姉ちゃんだなぁ、と自分の意地悪な兄と比べて感心する灯。

 灯は再度、机の中を見て、グシャグシャになっている宿題のプリントを見つけ出す。そして、教室から出た。

 帰りは、校舎は明るく感じ、部活動をやっている生徒の声が聞こえてきた。

 灯はさっきの恐ろしい雰囲気はなんだったのだろうと首をかしげた。


 灯はその後何事もなく家に帰ると、早速、大学生の兄に絡まれていた。

 玄関にいる灯に向かって、なぜか塩をかけてくるのだ。

「やめてよー」半泣きになっている灯に兄はしかめっ面で淡々と塩を灯にふる。


「なんかまた変なやつに絡まれたろ」

「何言ってるの?お母さーん、助けて!」


 リビングから灯の母がひょっこり顔を出す。

「あら。まぁ気休め程度にやっといたほうがいいわよ」

「お母さんはいつもお兄ちゃんの味方ばっかして」灯は唇を尖らせていじける表情を見せた。


 翌日である。無事に怖い教師のプリントを提出できた灯は、友達に昨日会った女子高生の弟の名前を言って、どのクラスにいるか尋ねてみた。


「氷室拓真?ああ、氷の王子様ね。知らないの?隣のクラスじゃない」

「そんなあだ名なの?私がそのあだ名を付けられたら悶絶死する」

「私はあんたのあだ名のほうが恥ずかしいけどね、バカリ」

 灯のあだ名はバカとアカリを合わせた“バカリ”だから、人のことは言えないのである。灯は反論出来なかった。


 昼休みに隣のクラスに行く。

 氷の王子様はどの席にいるか、友達に聞いていた灯は、持参してきたものを装着し、サプライズ作戦を実行した。


「誕生日おめでとう!!!」


 パーン、とクラッカーを派手に鳴らして、氷の王子様に向けて鳴らす灯。飛んできたクラッカーの中のカラフルな細長い紙は氷の王子様の髪についた。

 氷の王子様はびっくりしすぎて声も出ない様子だった。

 それはそうだろう、灯は鼻眼鏡をつけてパーティ用のとんがり帽子を頭につけている。完全に大阪のくいだおれ人形だ。そんな不審者に、いきなりクラッカーで攻撃されたのだ。さらに、誕生日なんてクラスメイトにも教えていない。


「はい、プレゼント!!!!」


 そして、灯は氷の王子様に女子生徒からもらったロケットペンダントを渡す。


「これは・・・」


 氷の王子様は手にしたロケットペンダントを見て、さらに驚愕した。


「お姉ちゃんからのサプライズ!あと、伝言!」


 ゲフンゲフン、とわざとらしい咳をして灯はメモした紙を見ながら、口を開いた。


『たっくん、長い間、苦しめてごめんね。お姉ちゃんは幸せだよ。たっくんがこんなにもお姉ちゃんのこと、考えてくれて。けど、向こうでラッキーが私を待ってるから、早く行って遊んであげなきゃ。

 ねぇ、たっくん。お姉ちゃんとラッキーがコウちゃんを見守ってるよ。だから、お姉ちゃんのことで自分を責めないで。お姉ちゃんがこうなったのはたっくんのせいじゃないんだもの。

 あなたはお姉ちゃんの分も元気に暮らして欲しいの。

 誕生日おめでとう。じゃあ、たっくん。お姉ちゃんは行くよ。元気でね』


 氷の王子様は目を見開いて灯を見る。


「以上、お姉ちゃんからの伝言でしたー」灯は1人で満足そうに拍手する。

「美人で優しいおちゃめなお姉ちゃんで羨ましい」


 灯がそう言った直後に、教室の扉がバシーンと開く。


「さっきの音はお前か!!!!!」


 灯の苦手な教師が、灯の鳴らしたクラッカー音を聞きつけて、教室に現れたのだ。

 灯は顔を引きつらせて、逃げ出した。それを追いかける教師。

 嵐のように去っていった彼らにポカーンとする氷の王子様とクラスメイト一同だった。


 教師に捕まった灯。鼻眼鏡ととんがり帽子は没収された。

 そして教師は、お互いの鼻先がぶつかりそうなくらいに、般若のような恐ろしい顔を灯に近づかせて説教をした。

 すみませんでした、すみませんでした、と涙目で謝る灯。しばらくして釈放された。


 教師が怖すぎてちびりそうになりつつも、無事にクラスに戻ってきた灯は、友達の姿を見て安心した。そして、友達の膝に突っ伏して、静かに泣いた。友達は呆れた顔で灯の頭を撫でた。泣いている灯に色んなクラスメイトが声をかける。


「バカリ、大丈夫かよ」

「バカリ、また怒られたの?」

「バカリ、よちよち」

「バカリ、なにしたの?」

『バカリちゃん、ありがとう』

『ワンワン!』


 クラスメイトに色々言われながら、もみくちゃに慰められた灯。

 泣いていた灯は、昨日会った氷の王子様の姉の声が混じっている事と、犬の鳴き声には気づいていなかった。



 氷室拓真は、開いたロケットペンダントに入っていた写真を見て、静かに涙をこぼした。


「お姉ちゃん・・・」


 そこに入っていたのは、笑顔の幼い頃の自分と死んだ姉と犬が写っている写真だった。

 拓真が中学2年生の時、高校1年生の姉が交通事故で帰らぬ人となった。


 夏休みに入ろうとしていた時期だった。

 その日、姉と些細な喧嘩をして、姉が話かけてきても無視していた。姉は、学校に忘れ物を置いてきてしまった、明日から夏休みで無くしたくないから今の内に取りに行く、と言い、学校に行った。

 姉の帰りが遅いことに拓真は気づいていたが、特に何もせずにゲームをしていた。そこで、警察から電話がかかってきたのだ。

 姉が学校に向かう最中に事故に巻き込まれた、という連絡だった。一応、病院には運ばれたが、首が折れていて、即死だったそうだ。

 拓真は呆然とした。普通に帰ってくると思っていたからだ。喧嘩して無視をしていた。まさか、それが最後となるとは思わなかった。遺体の前に泣き喚く両親をみて、全身から血がなくなるような感覚に陥った。

 自責の念で、拓真はどんどん暗くなっていった。

 姉をさしおいて幸せになってはダメだ。そう思った拓真は笑わなくなり、氷の王子様という変なあだ名がついた。


 そして、姉が死んで2年経ち、拓真は姉が在籍していた高校に入学した。拓真は変わらず、笑顔のない生活を送っていた。


 入学して半年経った頃、突如、大阪のくいだおれ人形みたいな身なりをした女子生徒が現れたのだ。そして、ロケットペンダントを渡され、死んだはずの姉の伝言を伝えられた。


 ロケットペンダントは、彼が姉の誕生日にプレゼントしたものだ。姉に欲しいものを聞いたら、ラッキーの写真を常に持ち歩きたいと言うので、それをプレゼントした。中に何かを入れていたのは知っているが、頑なに見せてはくれなかったのをよく覚えている。

 “ラッキー”は小学校のときに死んでしまった飼い犬だ。姉と一緒に可愛がっていた犬で、死んでしまった時は、姉と一緒に大泣きした。

 彼が思春期になり姉と一緒に撮った写真が少ない中で、唯一ラッキーと姉と彼が一緒に写っている写真がロケットペンダントの中に入っていた。

 もしかして、学校に忘れものをしたなんて言ってたけどコレのことなのかよ・・・。バカだなあ、姉ちゃん。


 ロケットペンダントを握りしめ、汚い文字で書かれたメモを見て、氷の王子様は、ふっと笑って静かに涙を流した。

 様子を伺ってたクラスメイトに「大丈夫か?」と声をかけられて、彼は涙を拭いて、照れ臭そうにはにかんだ。

 そして、この日を境に、彼のあだ名は、氷の王子様から、はにかみ王子に変わって言った。



「今日は塩かけてこないの?」

 帰宅した灯は、リビングで寝転ぶ兄に灯は聞くと、兄はチラリと灯をみた。

「え、かけてほしいわけ?」

「いや、かけて欲しいわけじゃないけど」

「てか、灯。お前泣いたの?」

「……泣いてない」

 何故か意地を張る灯であった。



 灯は人とは違う。人ならざるモノが見えるのだ。それもかなり明瞭に見えるが為に、人との違いがわからないほどである。というかわかってない。今まで人ではないということに気づいたことがない。極度の怖がり症であるがために、見えすぎたとしても脳内補正してしまうのだ。


 氷室拓真の姉に至っても、首を折れていたおぞましい霊だったが、脳内補正して首を寝違えたように見えただけだった。

 幼い頃から見えすぎるが故にそうなった、いわば自己防衛のようなものだ。


 この物語は、霊感がかなり強いが気づいていない、怖がりでバカだけどなんか憎めない灯という少女と人ならざるモノたちの日常を書き記したものである。


 to be continued



地縛霊:何かの理由や死んだことを受け入れていないことにより、建物や土地から離れずにいる霊のこと。


誰かのメモ:××高校、10代女性の地縛霊。怨念や悔恨はあまりない様子である。なぜ××高校に居座るのか。意思疎通が難しいため、理由は不明である。



少し内容変えてます。内容から全部変えようか悩みましたが、そこまでしたら違う物語になってしまうかと思い、この程度の改稿にしました。確認はしましたが、誤字脱字だらけかもしれません。昔に比べて誤字脱字が簡単に変えることができるんですね!びっくりです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 再開、ありがとうございます これからも続きを見られるのを楽しみにしています。
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