油の増産
この世界での油は主に獣脂かオリーブオイルである。
湖畔村でも採取できる油には何がある?
「僕の知識なんですが、油の取れる植物は結構たくさんありますよね」
「湖畔村でも僅かながら油を採取しております。菜種とかひまわり、とうもろこしとかですね」
「増産は難しいのですか」
「小麦とかの穀物に割り当てるのが精一杯でして」
「森の中で栽培するのは難しいのですかね」
「(あんな、森の中でも成長する種はあんで。ワテら油の実って呼んどる。その名の通り、果実から油が採れるんや。ワテら油大好きやよってな)」
油を舐める猫の浮世絵がある。
猫はあっちもこっちも油好きということか。
「おお、さっそく見に行こうか」
「(ただな、油の実の繁殖地は大猿の住処やってな、ワテらなら近づくのは問題ないが、人間とかになると面倒やで)」
◇
結局、繁殖地のそばまでは車で行き、
そこからはこっそりと歩いて近づいていった。
「ええか、ここは大猿の縄張りや。ワテらは闖入者やからな。慎重に行動せーや」
大猿が怖いとかそういうことではない。
ここは大猿が平和に暮らしている土地なんだ。
そこに僕たちはずかずかと上がり込んでいる。
見つかって攻撃されても文句は言えない。
僕たちは気配を消して進んでいく。
「(アキラ、あれや)」
ラグの指差す先にある木。
ヤシの木に似ていた。
ヤシの木が群生しているのだ。
ヤシの木といえば、熱帯が思い浮かぶ。
が、ここは冬だと雪がふるようなエリアだ。
違和感が半端ない。
「一つ取ってくるで」
ラグはスルスルと器用に木にのぼり、
油の実を採ってきた。
「見るからにヤシの実だな」
「前の世界にも似た植物があったんか」
「ああ。ヤシの実っていって、果汁がおいしいやつだ。種類によっては油も採れたはず」
「この油の実もな、果汁が美味くて大猿の大好物やねん。大猿がこの実を採取するから種が付近にばらまかれて繁殖する、という形やな」
僕たちは10個ばかりの実を確保し、
その場を離れた。
◇
さて、油の実。
チョコレートの実に似ていた。
実の中に数十個の種が並んでおり、
その周りを白い果肉が包んでいた。
果肉はあっさりとした甘味があり、
果汁がたっぷり含まれていて美味しい。
種は割ってみると大量の油が溢れた。
癖のない油で使いやすそうだ。
試しに油の実の種を植えてみた。
すぐに問題なく発芽した。
そして、そのまま一ヶ月後には実を結ぶまでに
成長した。
そんなに気難しい植物ではなさそうだ。
高さ数mもある木なのに、
成長速度が速い。
「あそこは大猿が種を拡散するから油の実が繁殖してたんやな」
「こんな大きな実だもんな。種を拡散するものがいれば、繁殖地は拡大するってわけか」
結局、村人の中から繁殖作業員を割り当て、
半年後には結構な油の実樹林を作り上げた。
◇
「おお、わたしたちの作ったフライドポテト!」
油の実からは大量の油が採れる。
それを使ってフライドポテトを揚げてみた。
フライドポテトはあんなにシンプルな料理なのに、
地球では17世紀に発明された。
そんなに古い食べ物ではない。
当時も油は高価だったのだ。
揚げ物料理は一般的じゃなかった。
この世界でも油は高価なものだ。
フライドポテトはこの村が初めて生産した。
そして、村人総出で感謝祭を行った。
「おお、これは美味しい!」
確かに、マ◯クよりも美味しいと思う。
油もじゃがいもも鮮度が高い。
だから、味がダイレクトなんだ。
ポテトフライならばコーラと行きたいのだけど、
コーラは村人には今ひとつ人気がない。
大人はビールだった。
それ以外は果汁ジュース。
またしても狂乱の夜を迎えた。




