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いろいろ情報を集める

 僕はしばらく教会に滞在することにした。

 領主を警戒するためだ。


「シスターさま、いっそのこと、この街を離れてはいかがですか」


「いえ、この試練も女神様のお導きです」


 などとシスターは訳のわからんこと言う。


 ま、僕的にはいいんだけど。

 だって、シスターが美人すぎるんだ。


 いや、邪な気持ちはないよ。

 神々しくて畏れ多い気持ちは浮かぶ余地がない。

 シスターが祈りを捧げる姿を拝めるだけで、

「ははー」

 って床に伏せたくなるぐらいだ。


 それと、僕が毎晩差し入れするマ◯クと野草茶。

 乾いた大地に水を撒くように、

 みるみるとシスターたちの顔色が良くなってきた。

 不健康そうだったシスターの美貌も、

 健康的な輝く美貌に変化してきたのだ。


 もっとも、教会には魔猫結界が張られている。

 よっぽどのことのない限り大丈夫なんだけど。

 でも、やっぱり心配でしょ?


 この機会にシスターと友好を高めようなんて

 そんな気持ちは少しもないからね?

 ほんとだよ?


 ◇


 教会関係者に詳しい話を聞いてみる。


 この街は領主派とアンチ領主派に分かれている。

 領主派は薬師ギルド。

 反領主派は商人ギルドと冒険者ギルド。

 その他のギルドは力がないか、中間派。

 市民は圧倒的に反領主派。


 薬師ギルドには領主がバックにいる。

 というか、薬師ギルドは領主が始めたもの。

 だから、領主対領主以外のすべて

 と言っても過言ではない。


 とにかく領主は嫌われている。

 非常に強欲で重税を課しているし、

 冷血で何かというと武力を持ち出すからだ。

 先日僕たちの退治した準男爵、

 彼をバージョンアップしたようなタイプだという。


 その武力。

 魔導師として、王国でも上位の実力の持ち主だ。

 そして、領軍も馬鹿にならない。

 結構な戦力を保持しているとみなされている。


 不思議なのは経済力だ。

 広大な土地で耕作に励んでいるわけではない。

 特別な産業があるわけじゃない。

 あるとすれば、領主の手掛けている薬師ギルド。

 その程度であるが、薬の金額が高価すぎて、

 一般庶民はほとんど利用しない。


 もっとも、薬師ギルドの薬の値段はどこでも高い。

 この領だけが高いわけじゃないということだが。


 ともかく薬師ギルドの上がりに不相応な戦力を

 保持していると見られている。

 不法な商売に手を出しているという噂もある。


 この強大な武力をもって、領主は領を治めている。



「となると、薬師ギルドを叩くことから始めたほうがいいということだよね」


「(話が早くてええやん。なんなら、ワテがでかけていって、薬師のギルド長とかチョンしてこよか?)」


「いやいや、それはまずいって。最終手段ならともかく」


「(最終手段なら、ええってことやな?)」


「あのさ、ともかくもっと情報を。領主の経済力がどこからきているのか。一度、ローリーさんに当たってみる?」


 この街のおおまかな支配構造がわかったところで、

 反領主派のローリーさんに会いに行った。

 留守の間は、魔猫の結界を教会に張ったまま。


 ◇


「ようこそいらっしゃいました。昨夜のご活躍は街中の噂になっていますよ」


 うわっ。

 狭い街だからか。


「昨夜、なんとか解決しましたが、領主が教会関係者にまで悪辣な行為を行っています。ちょっと信じられないですよね」


「しかもよりによって清貧教会ですからね。あそこほど真面目な教会は他にありません。街の多くが苦々しく思っておりましたから、ラグ様とアキラ様の振る舞いにはみんな拍手喝采ですよ」


「あと、領主の武力は王国でも際立ったものがあるとのこと。特に、領主が凄腕とのことですが


「ですね。領主が魔導師としては飛び抜けているのは王国では有名です。一個大隊に匹敵すると言われるほどです」


「それに加えて常備軍もしっかりしているとか。そこが不思議なんですよね。常識的に考えて、常備軍を持つには相当な経済力が必要だと思います。それほどまでに領主は裕福なのでしょうか。噂によると表に出せないような行為をしているという話ですが」


「非合法活動による収入が多いという噂が流れています。ただ、そのお話は非常に微妙でしてね。はっきりとした証拠がないのですよ」


「なるほど。実はこの件に関しては、森の守護様がかなりお怒りで。ですので、少し突っ込んだお話を伺いますが、湖畔村は現在自治村となっています。そういう形態は王国では一般的なんでしょうか」


「ああ、事例としては珍しくありません。全体的な流れとしまして、商人や大規模農家の経済力が増す方向にあります。端的にいえば、守旧勢力である王族・貴族たちは主に戦費の増加で借金体質になっているのです。その借金は我々から調達しております。半分は事実上の税として」


「ほお」


「ですが、私どもも担保なしで貸すというわけには参りません。その担保が膨れ上がっていること、さらに、王族や貴族にはその担保すらなくなっているところがあります」


「はあ、つまり破産寸前の王族・貴族が多いと」


「ですね。そして、実際に破綻した領地では商人や大規模農家が領地経営を受け継ぎます。それが自治都市や自治村となるわけです」


「そういう事例が王国では多いと。つまりは、この町でも準備はできていると」


「はは、そこまでは申し上げられません。ただ、領主を支える経済力が破綻すれば、自然と事態が傾くのは自明であろうかと」


「わかりました。僕のお世話になっている村がですね、薬師ギルドからイチャモンをつけられたのですよ。今後も嫌がらせが続くかもしれません。それに、清貧教会、孤児院があるんですか、少々見過ごせないお話を聞けました。森の守護様もお怒りですので、ちょっと動いてみたいと思います。いや、僕たちが勝手に動くだけなんで」


「いえ、何かお困りなことがございましたら、遠慮なくお言いつけください。ああ、一つだけ。第2薬師ギルドをご存知ですか?」


「第2ですか?いいえ」


「薬師ギルドのあり方に異論を唱える薬師たちのギルドです。ギルド長に紹介状を書きましょうか?」


「ありがとうございます。それはぜひ、お願い致します」



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