スリ被害
「(アキラよ、注意や。スリに狙われてんで)」
「スリ?」
すると、薄汚れた子供が僕にぶつかってきた。
「(おおっと)」
ラグはすぐに拘束魔法を子供にかける。
「あ?くそったれ!おまえら俺に何をした!」
喚き立てる子供。
10才を少し越えてる程度か。
「おまえ、スリなのか?」
「なに因縁つけてる。ぶつかっただけだろ」
「いいぜ、吐かないのなら、このまま消滅してもらう」
ちなみに、ラグがそう言えと僕に強制してるんだ。
ついでに、風魔法を発動する。
手のひらの上に発動される小さな竜巻。
僕は魔法修練の結果、風魔法が一番得意になった。
この小さな竜巻は結構な大きさに発展する。
「うわっ!冗談やめろって!」
「おまえみたいな泥棒で嘘つきは、この世にいないほうがいいだろ」
「ごめん!謝るから!だって、弟が死にそうなんだ!」
「なき落としか?」
「違うって!本当なんだよ!」
「じゃあ、弟のところへ案内しろよ。嘘だったら、わかってるよな?」
「い、いいぜ。ついてきな」
そこは、教会に隣接する孤児院だった。
部屋に入ると、ベッドに子供が寝ていた。
真っ赤な顔で息が苦しそうだ。
横には女性が看病している。
化粧っ気はないが、
それをものともしない美貌の持ち主だ。
「こんにちは。具合が悪い子がいると聞いて伺ったんですが」
「はい、それはどうもありがとうございます。この子がずっと熱が下がらなくて……」
「病名はわかりますか」
「それが原因不明なんです。ご存知の通り、私どもの回復魔法は傷にはよく効くのですが、病気に関しては今一つなんです」
「(アキラ、リポ◯タンDでいけんのか?)」
「うーん、熱があるから明らかな病気だよね。しかも、教会の回復魔法でも効かないという。結構な重病そうだ。薬箱に解熱薬があるんだけど……」
教会の回復魔法は、身体の自然な治癒力を上げる。
即効性はないが、
初期の病気にある程度の効力がある。
それで治らないということは、
この病気の根の深さをあらわす。
「あの、失礼ですが、そのお猫様はもしやすると森の守護様ではありませんか?」
ラグの長毛白色一部青銀色という毛並みは
非常に目立つ。
「はあ、そう言われているみたいですね」
「それは失礼しました!」
すぐに床に膝をつき、崇める女性。
「申し遅れましたが、この教会のシスターを努めますルシーナと申します」
「ああ、お顔をお上げください。僕はアキラです。まずは、この子の治療ですね。このドリンクと解熱薬を試してみませんか」
ドリンクはリポ◯タンDである。
解熱剤は新ル◯A錠剤。
「ええ!森の守護様ご謹製の薬ですか!それは誠にありがとうございます」
ご謹製じゃないんだけど。
日本の頭のいい人達が作ったんだけど。
僕は瓶のフタをあけて、
錠剤と一緒にシスターに手渡した。
「さあ、ライリー、森の守護様があなたを救いにいらっしゃいましたよ。口をあけてこれを飲みなさい」
ライリーと呼ばれた少年が僅かに目を開き、
シスターはゆっくりと口に錠剤とドリンクを流し込んでいく。
その直後、体が発光した。
そしてみるみるうちに赤かった頬の色がおさまり、
荒い呼吸も正常になっていった。
「おおお、これが森の守護様の奇跡……」
またもやシスターはラグの前でひざまずき、
祈りを捧げている。
「ライリー!」
スリ娘も涙を流しつつ喜んでいる。
それにしてもこのシスター、
びっくりするぐらい綺麗な人だ。
生まれて初めて眼福って言葉の意味がわかった。
オーラが出てるんだ。
美人オーラ。
◇
「おまえ、本当に弟がヤバかったんだな」
「だから、言ったろ?」
「ひょっとして、この子が大変なご迷惑をおかけしたのでは……?」
「いや、シスター。そうではありません。彼と街角で偶然知り合ったものでして」
「は?彼?俺は女だぞ」
僕は思わず子供を上から下まで眺めてしまった。
「なんだよ、変態かよ」
いや、君ね、格好と言い、口調といい、
女の子に見えないよ?
しかも12歳だというけど、小柄だ。
「それにしましても、このお礼はどう償えば……」
「ああ、どうかお気になさらず。森の守護様のお導きですから」
「ありがとうございます。ローリエもよくお礼を言って」
ローリエはスリ娘のことだ。
ローリエの頭を無理やり下げさせつつ、
またもやラグに向かって祈りを捧げるシスター。
それにしても、この教会。
孤児院も含めて裕福にはとても見えない。
この部屋の周りには孤児たちが集まっていた。
彼らにしても非常に質素な衣服を来ている。
僕の不躾な視線に気づいたのか、
シスターが教会の説明を始めた。
「私どもの教会は清く貧しく美しくをモットーとしておりまして、清貧であることを美徳としております」
ああ、なるほど。
この教会の噂話は前に村人からきいたことがある。
多くの教会はお布施とか寄進とか領地経営で潤い、
立派な教会を建てているものだけど、
この教会~俗称清貧教会~だけは違うと。
「では、私どもから寄進をしましょう。美徳も大切ですが、健康にも留意する必要があります。この子のような病気にかからないように、いくつかの森の守護様のご加護を……」
といいつつ、僕はシスターにリポ◯タンD10本、
マ◯ロン数個、新ル◯Aの錠剤、
そして、今夜の夕食として、ハンバーガー、
非常食としてエナジーバーを人数分、
そして野草茶を樽ごと手渡した。
「重ね重ねありがとうございます」
またもや始まる祈りの言葉。
本日何度目だろう。
さすが、教会のシスター。
敬虔って言葉がよく似合うよ。




