ごろつき貴族が野草茶を狙う1
【ごろつき貴族が野草茶を狙う1】6月
湖畔村を治めるのは、とある準男爵。
もともとは平民であったのだけど、
魔力がかなり強く、戦争で功績をあげて叙爵した。
王国中でも注目される貴族の新生なのだ。
但し、かなり粗野かつ強欲な男だという。
この村を含む近隣三村を治めている。
いずれの村にも重税を課している。
収穫の6割を収めさせているのだ。
これ以上の税を課すと、村が荒廃する。
そういうギリギリの課税である。
ところで、村にはデモや一揆は認められていない。
首謀者は縛り首になる。
ところが、それは失敗した場合で、
一揆とかで領主を倒したりすると無罪になる。
むしろ、領主は管理能力を問われるのだ。
これは慣習法である。
王国では強いもの勝ちという風潮がある。
為政者であろうと、
負けたほうが悪いとみなされるのだ。
そもそも一揆を起こさせるような過酷な統治は
悪政ととらえられる。
だいたい常備軍は数を揃えられない。
準男爵のような領地規模だと、
10名ほどで統治している。
つまり家族と僅かな部下で経営しているものだ。
一揆が起きたら持ちこたえられない。
だから一揆が起きないような統治方法をとる。
つまり領主も領民の顔色を無視できない。
ところが、この準男爵。
かなり強い魔法使いである。
一人で中隊の軍隊に相当する。
だから、イケイケの悪辣な統治をしてきた。
「どうにかならなかったのですか」
「この村の人達は体力は王国随一と自認しとります。でも、それだけでは強い魔法には負けてしまうのです」
マイク・タイソンやドウェイン・ジョンソンであっても、遠距離からの拳銃やマシンガンにはかなわない。
この世界でも同じだ。
どれだけ強靭な体力を誇ろうとも、
痩せっぽちの魔法使いの遠距離攻撃には敵わない。
「では、今ならどうですか」
「ええ、お陰様で村人たちには強い魔法が備わりました。しかも魔猫様の防御結界があります。準男爵ならば撃破できるだろうと思います。でも、自信がないんですよ。反発して失敗すれば、首謀者は処刑ですからね」
◇
そんな会話を村長さんと交わしていたのだけど、
その準男爵。
驚いた要求を村につきつけてきた。
「野草茶を引き渡せ」
野草茶の評判のいいことに目をつけ、
なんとその強奪を企んだのだ。
「さもなくば、滅ぼすぞ」
先もいったように、準男爵の武力は
本人の魔力にある。
中隊の武力に相当すると見られているのだ。
魔力の強さでは王国中で噂になるほどなのである。
「どうするか」
村の幹部が集まって議論を重ねた。
「まず最初に言いたいことがある」
村長さんが立ち上がった。
「もうこれ以上ラグ様やアキラ様に面倒をかけられねえってことだ」
「確かにそうだ。魔狼事件のとき助けてもらった。野草茶やメイプルシロップでは村の財政を一変させてもらえた。魔力・魔法力も増大した。魔猫バリアも展開している。いつまでもおんぶで抱っこでは我々は独り立ちできない」
「うむ。しかし、勝てるのか」
「勝てるのか、ではなくて、勝つのだ。それだけの力を我々はラグ様たちから授かっている」
議論は準男爵にNOをつきつける方向で進んだ。
そして、圧倒的多数で準男爵との対決を選んだ。
準男爵に否の返答をした翌朝。
「ふん。哀れな村民ども。何をトチ狂ったか俺様に楯突きおって。俺様の圧倒的な力をみせてやるわ」
「さすがは準男爵様、領民に正しい道を指し示すお考えでございますね!」
準男爵は太鼓持ちの部下を引き連れ、
村の入口にまで進軍してきた。
魔力が強いものは魔素が濃くても数日ならば耐えることができる。
そして、朝日がのぼる頃。
「よーく聞け、バカ者共!最後通告をする。今すぐ野草茶を俺様に引き渡せ。さもなくば、お前たちは俺様の発する業火に焼き尽くされるだろう!」
対する村民側。
準男爵が攻めてくることは予見していた。
「準男爵様よ、あなた様のいうことは常識をはずれており、明確な犯罪でございます。さすれば、我々微力ながら、立ち向かわせてもらいますぞ」
「グググ、生意気な。よしわかった。覚悟せよ」
準男爵はすぐに魔力を練り上げた。
そして詠唱を始めると、魔法陣を空中に展開する。
「スーパーノヴァ!」




